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White Out  作者: おむすび
2/5

第二話

ふと気が付くと、電車の席に座っていた。


「・・・はあっ!!」


思わず大きな声が出てしまった。いや大きく息を吸い込んだ。右目もしっかり見える。

PCの入ったリュックがずっしり来る。真夏特有のじっとりとした感覚。


なんだったんだ・・・


そうか、悪夢だったのか。そう思うと少し生きている実感が沸いてきた。

クソ、転職直後でストレスがたまってたのかな。夢になって出てくるとは。

これは一度リフレッシュしないとまずい。


「・・・今日は定時で帰らせてもらおう」

そんなことを思いながら、電車を降りた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


会社の前まで来た。ここで入社する前に、コンビニに寄って飲み物を買うのがルーティンだ。

最近は健康志向で野菜ジュースばかりだったが、今日はコーヒーにしよう。


セルフレジで買い終え、エレベータで職場の階層に向かう。

よし今日も仕事だ。


そう思い、カードキーをかざす。


ビーッ


あれ?もう一回。


ビーッ


あ、あれ?まずい、昨日帰った時に判定されたなかったのかな。

しゃーない。先輩に連絡するか。

スマホを取り出し、Lineのアプリを開く。


「え」


眼を疑った。Lineの友達欄が誰一人いない。登録されていない。

なんだこれ!バグか?仕方ないな。

先輩の電話番号をタップし、耳に当てる。

「・・・・」「おかけになった電話番号は、現在使われておりません。」


「うん?」

おかしい。Lineのバグは可能性としてまだ分かるが、先輩の携帯が使われていないというのは奇妙だ。

あれだけ仕事に真面目な先輩が・・・いや、やっぱりおかしい。


伝手がなさすぎるので、仕方なくエントランスに話しかける。

「あのすみません。ちょっとカードキーが効かなくなりまして、確認していただけますか?」

「かしこまりました。」


美人なお姉さんが対応してくれた。

はあ、先輩がいれば簡単に対応出来るんだけどなあ。

そう思いながらぬるくなったコーヒーを飲んでいた。


「お待たせして申し訳ございません。こちらのカードキーについてなのですが、いつ頃発光されたものでしょうか?」

「三か月ほど前ですね。」

「なるほど・・・申し訳ありませんが、こちらのカードは登録された記録がありません。」


は?なんだそりゃ。

「いやいや、昨日もこのカードで入ったんですよ?」

「了解しました。お名前をうかがってもよろしいですか?」

「サトウヨシキです。」

「サトウヨシキ様ですね。少々お待ちください。」


なんて日だ。ここまで入社だけで上手くいかない日なんてあるのかよ。

あーあ、今日は帰ったら飲もうかな・・・

全くあのリアルな夢といい、碌なことがないよトホホ


「お客様申し訳ありません。サトウヨシキというお名前をこちらで検索したのですが、確認が取れませんでした。」

「は?」

女性が怪訝な顔でこちらを向き始めた。

いや、おかしいって!

「・・・とりあえず●●システム株式会社ってところは、この建物内にあるよね?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


結局15分程押し問答を繰り返したが、何も進展が得られなかった。

自分という存在だけこの会社から抜き取られている。

先輩や会社の名前は確認できたが、このサトウヨシキの存在だけどこかへ行ってしまったようだった。


そんなことを考えているうちに、なんだかだんだん腹が立ってきた。

なんだよ。朝からこんな苦しい思いして来てさ。こんな仕打ちを受けて。

もういいわ。今日は仮病でも使って休んでやろう。知ったこっちゃないわ。


そう思い、踵を返した。


ふとスマホを取り出すが、まだLineは復旧していなかった。いつになったら連絡できるんだろう。

ふと、母親のことを思い出した。いつも仕事の愚痴は母親に吐いていた。

朝から申し訳ないけど、一番迷惑かけても問題ないし、ありがたく頼らせてもらおう。


そう思い発信する。


「・・・おかけになった電話番号は、現在使われておりません。」


え?

いやそんなはずはない。ずっと同じ電話番号を使ってきたはずだ。

途端に母親のことが心配になってきた。電話がつながらないだけだが、唯一の家族だ。

取り合えず、他に連絡できるか調べて、、、そうだ。ちょうど良いや。どうせ今日休むんだし実家に帰ろう。


そう思い、少し開放感に浸りながら歩みを始めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


実家は閑静な住宅街にある。その街は人口減少を抑えられず、高齢化が問題になっている。

両親は自分が社会人になった後に離婚した。父の動向はその後不明だ。

自分は母親に助けてもらってばかりだったから、どちらの方に行くのかは明らかだった。


年老いていく母親が一人で生活していることに、ちょっと恐ろしさを感じる。

じゃあ自分が住める空間を作ってやれという話だが、そんな甲斐性はまだない。

早く一人前にならなければ。


電車に揺られ、学生時代に嫌というほど見てきた風景が見えてきた。

郷愁感というものは、人間の特権だ。

日本の原風景とまではいはないが、こういったエモいという感情は海外でもあるのかな。

なんて適当な事を考えながら、ふと今朝見た夢を思い出した。


王女なんてファンタジーな奴が、よく出てきたよ。なんだっけ?サリア?戦争をしているとかなんとか。

結局戦争に負けてて、あいつだけ生き残ってて・・・

何が起きたのか分からないけど、死んだ。あの絢爛な部屋に幽閉されてたのかな。


「「あなたを見ていると、過去の自分を見ているようで寒気がした」」


無難に生きてきた人生だった。毒にも薬にもならないように生きてきた。

他人にとってもおそらく。だから、あんなに真っすぐな目でマイナスなことを言われたのは初めての経験だった。

・・・そうか、毒にも薬にもならない。その場しのぎの姿勢が、あいつの癪に触ったのかな。

とはいえ、戦争大賛成だ!!とは、あの瞬間に言う方が難しいと思うけど。


夢は、自己意識の表れと言われる。

自分は、無意識下で自分自身を卑下しているのかもしれないな。


「チッ」


やめだやめだ。そんな事考えてたって、なんの利益があるだろうか。

百害あって一利なしだ。


そう思い、車窓の方に意識を向けた。そろそろ実家だ。明日は休日だし、泊まらせてもらおうかな。

刹那、ふと車窓越しの駅のホームに、黒髪の女が見えた。

太陽の光を目いっぱい吸収しても、なお漆黒の黒髪だった。


「えっ」


そして全容を確認する前に、人込みの中に消えた。

・・・夢に出てきたあの・・・


「まもなく●●駅●●駅。お出口は右側です。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


もう夕暮れだった。

家が見えると、急に安心感が沸いてきた。

今日はいつもより孤独を感じたんだ。

帰る場所があるということは、とてつもなく幸せなことだった。


少し早歩きで、家の前につき、インターホンを鳴らす。

ふう、今日はゆっくり愚痴ろう。


視線を横にずらす。傘立てがある。傘が三本ある。

赤色と青色と黒色だった。


は・・・

もう少し視線を横に向ける。

花壇だ。アジサイだ。けれど、あまり手入れされていない。

あれ、いつもは・・・


「はーい」


扉から出てきたのは。知らない女性だった。

「え・・・」

「・・・?あのすみません。」


そんな・・・冗談だろな・・・


「・・・あ、あの、どちら様でしょうか、」

「はあ・・・クボですが・・・すみません、営業でしたら結構で」

「ちょ、ちょっと待ってください!ここにサトウキミコという人が住んでませんでしたか!?50歳くらいの女性なのですが」

「・・・ここはずっと私たちが住んでいる家です。ちょっとあなた?出てきてくれる?」

「はーい。どちら様でしょうか?」


そこに出てきたのは、自分と瓜二つの人間だった。顔どころか、背格好まで瓜二つの。

その服も、家でよく来ている私服だった。


「・・・!あの・・・」

「ユウコはカズの世話してて・・・おほん。ええと、サトウキミコさんというのは、」

「わ、わたしの母親で、ここに住んでいたはずだったのですが、、、」

「どれくらい前に住んでいらしたかご存じですか?」

「いやどのくらい前っていうか・・・一応三か月前にはここに帰省したのでいたはずで・・・」

「三か月前は既に私たちはここに住んでいましたよ。」


いや、そんなわけがない。もう一度家の外観を見渡したがどこもかしこも見たことがある。


「・・・すみません。自分の母親がこちらに住んでいたと思ってしまってて・・・でも勘違いだったかも・・・」

「ああ、いえいえ大丈夫です。」


怪訝な眼でこちらを覗いてくる。今の僕より、だいぶ血色の良い顔面で。

・・・ここにいたらまずい。


「すみません。お邪魔しました。」

「はい。」


そういうと、扉を絞められた。カギがかかった音がした。

流石に変だ。電話がつながらない、会社にも存在がなかったことにされて、お母さんもいない。

実家には知らないやつが・・・顔がそっくりだったけど住んでて・・・


サトウヨシキは、心の底から途方に暮れていた。

もうすぐ日が落ちる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

これまでで一番の危機かもしれない。


そんな風に思いながら、当てのない道を歩いていた。

もう夜になり、どうしてもこの住宅街という空間から離れたくなかったから、子供の頃よく遊んでいた

公園に立ち寄った。


誰もいない。


ベンチに腰かける。Lineも復旧していない。というか、おそらくこれもバグっているわけではないのだろう。

本当に誰ともつながりが消えている。

友達との連絡も、一切つながらなくなっていた。


なんでだ。なにがあった。


必死に今日を思い返す・・・だめだ。どうにもつかめない。

意味が分からない。ドッキリだとしても手がかかりすぎている。それに自分にやる意味が分からない。


・・・普通に泣きそうや・・・


俺が何をしたっていうんだ・・・

そんなことを思っているうちに、一つだけ不可解な事に気づいた。


そういえばクボとか言っていたやつ。俺と瓜二つだったのに、特に驚いたみたいな反応がなかった。

あの奥さんも含めて、多少は驚いても良いはずなのに。

死ぬほどポーカーフェイスが得意なのかもしれないけど、そんなことをする意味がないし。


もう良く分からないや・・・

思わず天を仰ぐ。


ここは都会の割には、星が良く見える。今は夏だ。夏の大三角が・・・大三角・・・

大三角が・・・ないぞ・・・!


変わりに、やけに整った六角形があった。

中央には、より一層光の強い星が燦然と輝いていた。


なんだこの星座は・・・どこかで・・・

まるで、まるであの魔導書の・・・


「ハロー」


透き通った声が、夜空に響いた。


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