最終話(第5話) チャチャイ戦決着! イノウエの待つ頂(いただき)へ!
~ レイチェルが魔力切れでヒールできず。オダジマHP35のまま最終ラウンドへ ~
第6ラウンドのゴングが響き、HPが110になったチャチャイがとどめを刺そうとラッシュをかける。
俺は、時折リードジャブで牽制しながら、とにかくステップで逃げ回った。
残り2分、1分と時間が過ぎる。が長い、とても長く感じる。
観客はもうブーイング一色だが、負けたらお終いなんだからしょうがないだろ?
ああ、ついに俺のHPが10を切った。ビジョンの表示が赤点滅を始め、ワーニングのブザーが「ビービー」と鳴り響く。残り10秒の拍子木が打たれ、チャチャイのラッシュがますます激しくなる。俺はロープに追い詰められたが、ウィービングで体を回しながら、チャチャイの眼を見て、なんとかパンチを避け続ける。頼む、最後までもってくれ!
と、そこでゴング。やった、逃げ切った。‥‥‥残りHPは、2だった。
激戦が終了。俺は、チャチャイと抱き合って健闘を称え合い、コーナーに引き上げると、洋子会長と回復したレイチェルが涙を流して抱きしめてくれた。
判定はもちろん俺。第6ラウンドは消極姿勢も加味して2ポイント取られ、10-8だったが、トータル3ポイント差で逃げ切り。
俺とレイチェルは両手を挙げて観客の声援に応える。最後は不格好になっちまったが、まあ、倒し倒されのスリリングな試合だったんじゃないかな。観客も概ね満足そうだ。
タイトルマッチじゃないから、表彰式はなかったけど、リング上で、コミッショナーから、俺がライト級チャンピオンのイノウエへの対戦資格を得たことが宣言された。
セレモニー後は、レイチェルと一緒に、青コーナーに赴き、チャチャイとアンジェラに挨拶して握手を交わす。
チャチャイは初の一敗がついたが、割合さっぱりした顔してるな。お互い、全力を出し切ったからな。試合が終われば恨みっこなし。まだ若いんだから、また這い上がってこい。機会があったらまたやろうぜ。レイチェルとアンジェラも、さっきの痴話げんかはどこへやら、笑顔で肩を叩きあってる。
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試合後は、控室に引き上げて、レイチェルにマッサージして貰う。指先からヒールを出しながら筋肉を揉みほぐしていく。ああ、天国みたいな心地よさだ。
レ「今日は惜しかったね。倒しそこなった」
オ「ああ、ファイトマネーも半分協会預かりになっちまったな」
洋「ファイトマネー、安くてほんとに悪かったねえ」
オ「いえ、会長が大借金して今日の試合組んでくれたんですから、俺の金はいいんです。次のイノウエ戦で取り返しますから」
今回の挑戦者決定戦のファイトマネーは、600万イェン。一年分の生活費くらいだったが、半分になっちまった。多分イノウエのファイトマネーの100分の1くらいだ。
オ「レイチェル」
レ「ん? 何?」
オ「KOで勝てたら、マンションの頭金にしようって言ってたんだけど、持ち越しになっちまったな。ごめんな」
レ「いいよ。あんたが無事だったのが一番だよ。判定でもなんでも勝てたんだし、次に進めたのが収穫だよ」 ああ、レイチェルは優しいな。本当にいい女だ。
と、そこに、俺の両親に連れられて、俺とレイチェルの子供たちが入ってくる。上の子が5歳(女)、下の子が3歳(男)だ。
「お父ちゃーん!」と言いながら二人が駆け寄って抱き付いてくる。あはは、可愛いもんだ。
「ありがとうな。お父ちゃん今日は頑張ったよ。何とか勝って次に繋げられてよかった」 俺は二人を抱きしめ、両手で頭を撫でてあげた。
だけど、「ホラ、あんたたち。お父ちゃん疲れてるんだから、マッサージ終わるまで、そこで大人しくしてな」とレイチェルに諭されて、「ちぇ」って言いながら、横のチェアにちょこんと腰かけた。
そしたら、控室の表から、
「オダジマ。いいかい? 話し聞かせてくれよ」と声が掛り、新聞記者とテレビクルーが入ってきた。トキオスポーツのモンマ記者と、ボクシング中継の得意なTDSのクルーだ。もうカメラが回っている。
すると、突如、レイチェルが逆上し、俺の前に仁王立ちになって、
「あんた!」と指差してきた。
「ひー、な、なんでしょう‥‥‥?」
「よくもKO逃してくれたわね! マネー半分になっちゃったじゃないのよ! マンションどうしてくれるのよ! 子供たちに謝んなさいよ!」
「ひー、母ちゃんごめーん!」
「あんなブンブンフック振り回して、レバーがら空きじゃないのよ! イノウエにやられたパンチでまた倒されて、あんた学習能力ってもんがないの? このダメ男が!」
「ごめんよ、ごめんよー。とどめ刺せると思ったんだよー(泣)」って、俺は今にも泣きそうな情けない顔で、両手を合わせて平謝りする。
「次のイノウエ戦は、こんなドジ踏むんじゃないわよ! 絶対勝つのよ!」
「ひいー、努力だけはしますー」って、俺はなおもカメラの前でペコペコ頭を下げた。
モンマ記者とテレビクルーがニヤニヤしながら見守っている。
やれやれ、演出も大変だな。俺は「気弱なマッチョマン」で、レイチェルは「超絶美人の鬼嫁」ってギミックになってんだ。まあ、これもファンサービスだな。
きっとレイチェルは、今夜のベッドで、
「さっきはあんなこと言ってごめんねごめんね。本気じゃないんだからね‥‥‥」って泣きながら胸に顔を埋めてくるに違いない。
まあいいさ、俺は夜の絶対王者だからな。パリっと糊のきいた白いリングで何度もKOしてやることにしよう。ここんとこ、二人とも我慢してたからな。今夜は激しいエンドレスバトルだ。
さて、最後は不格好になっちまったが、ようやく頂きで待つイノウエまで辿り着いた。
タイトルマッチは大晦日のトキオドームで開催が決まっている。
4万人入るからな。ファイトマネーも1億イェンに届くかも知れない。
次は負けねーぞ。首を洗って待ってろ、イノウエ。
~ ツンデレエルフと目指せ、惑星チャンピオン! (了)~
読者の皆様。
拙作「ツンデレエルフと目指せ、惑星チャンピン ~ロートルボクサーオダジマ最後の挑戦~」を、読了頂き、大変ありがとうございました!
本作は、もともとなろうに参加した時から「せっかくWEB小説を始めたからには王道の異世界もの書いてみたいな」と思ってはいたものの、「でもせいぜいエルフくらいしか分からんぞ。獣人とか無理無理。あと魔法も属性とかいろいろ難しいし、いっそヒール(小回復)だけにすっか。能力値はhpとmpだけでいいだろ」ということで、主人公オダジマの他はヒール使いのエルフだけという誠に簡素な設定となりました。舞台も「ナーロッパなんて書けない‥‥‥。風景描写できない。あと物理攻撃しかできないんじゃ、魔王に勝てるはずないじゃんか。ああ、もう面倒だからスポ根にしよう」ということで、平和な移民星でエルフとオダジマがボクシングする話になりました。全然王道じゃなく、お色気ギャク小説になりました。あと、またまたヒロインが長身色白のグラマー美女になってしまいました。すみませんです。。
ちなみに、ボクシングはちゃんと勉強して、百田尚樹さんの「ボックス!」なども読みましたので、試合のシーンはそれなりに臨場感あったかと思います。
さて、オダジマとレイチェルの次戦は、年末の大一番、ナオキ・イノウエ戦になりますが、まだプロットも考えておりませんので、本作はいったんこれで完結となります。
明日からは、先日脱稿した、「狂気の男 ~薬物ビルダー篠崎誠司の決意~」を連載致します。
ボディビルのプロを目指し、きついドーピングを続けて、身体と命を削りながら、究極の肉体を追及する男の話です。とある実話をベースにしております。ツンデレエルフと全く異なって、人間の生命の根源を問うようなシリアスな作品ですが、読み応えがあり、握力の強い作品だと思います
全8話で、最終回は、あとがきと実際の事件の解説になっていますので、実質全7話です。
土曜日に開始ですから、ちょうど来週の土曜日に完結するんですね。
また宜しくお願いします。