表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/61

遊びに行こう

 領主館に挨拶に来たアンにアランは花束を渡せた。


 カクカクとかなり怪しい動きに、どこからかセオが飛び出してきて、背中を押してやった。笑顔で受け取ってくれたので感触はいいと、執務室は大いに盛り上がった。レイをはじめ皆がアランを応援したい! それをお節介とも言う。


 レイ達について海へ行った時に2人きりにはなったが、それはお付きとして仕事の話が主だった。今は私的にお茶に誘い、向かい合っている。夜明けの空の効果なのか、アランも自信をつけたのかもしれない。赤面しながらもどうにか話しかけ、アンもにこやかに答えている。


「おい、もう行くぞ」

「待ってよ。アランが今すごくいい感じなんだ」


 帽子の中に髪を隠し、眼鏡をかけて変装したレイが、厨房の小さな窓からアラン達を見ていた。ここはソフィアの店。好き勝手にしても咎められない。


「あっ。席立った。跪いてる! ここで!?」


 ヴィンがレイの腕を引っ張り、店の中に入った。


「取込み中すまない。結果が早く知りたいんだが」


 アランとアンは口を開けて驚いている。店の奥からずんずんと大股で大男が近づいて来たと思ったら、目の前に立って、なにやら催促している。大男ヴィンの後ろに帽子をとったレイまでいた。


「も…もちろん。私で良ければお受けしますよ」


 アンは何事かしらと、アランとレイ達を交互に見ている。


「アラン良かった。ちょっとアンが動揺してるみたいだけど、受けてくれたね。おめでとう」

「レイモンド様まで何してるんですか! 僕はアンさんに護身術を教えてくださいって頼んだだけですよ!」


 双子付のメイドも侍女も護身術どころか、緊急時には隠し持つナイフで対処する。か弱い女性と見誤ってはいけない。


「ごめん。てっきり求婚したのかと」

「えっ!!」

「レイモンド様、言わないで――!!」


 目を白黒させたアランは領主同席で求婚する羽目になったが、無事承諾をもらえた。結果良ければ全て良し。レイからソフィアの店自慢のケーキでお祝いされた。


 実家の子爵家ではアランに継がせると前から決めていた。次男だが領主からの信任が厚く、側近となった息子をまさか爵位なしにはできない。とんとん拍子で話は進んだ。


「また次のメイドを探さないとね」

「早合点したが、これでアランも片付いたな」


 アランとアンの婚約を執務室で話していたら、アイリスとローズが結婚式一切を任せて欲しいと言ってきた。観光都市で挙げる式。レイにはどんな風になるか見当もつかないが、面白そうだ。2人の式を宣伝に使わせてもらう代わりに、費用は全て公費から出すことにしたら、2人はすぐに承諾。ただし、婚礼衣装は最大限新婦の意向にそうもの。これは譲れない。


「大丈夫ですよ。アンちゃんは可愛いから何でも似合うわ」

「アンちゃんにはお嫁に行ってほしくないけど、花嫁衣装は見たいわね」


 アンは今、アイリスとローズの専属メイドをしている。他国の王女様だ。何かあっては困る。腕の立つ者がいたらつけておきたい。気も合ったのだろう、2人はアンちゃんと可愛がっている。


「式と新婚旅行で半月休む? ひと月にする? できる事務補佐官が2人もいるし、エリオットやモリーナにも頼めるだろう。僕も頑張って片付ける。好きなだけ休んでいいよ」


 アランはレイを拝んでいるが、レイは執務だけじゃない。領に来るたびに教会、商会、各工房を回り、騎士団にも顔を出す。本人は好きでやってるし楽しいと言うが、雑貨屋で薬も作っている。


 領と王都と3号店のあるフーレ村との移動時間も書類を離さない。休みが必要なのはレイもだ。ついでに俺も。


 よし。休みとって遊びに行こう!


「アランが休む前に? 突然休めと言われてもな」

「休みたい、温泉村行きたいって、常日頃言ってるだろう」

「うーん。いざ休みとなると、どうしていいかわからないよね」


 レイが膝に乗せているモリオンにどこに行こうかと聞くと、ミャーと返事している。ヴィンに猫語はわからないが、レイにはわかるようだ。


「子ども達にも聞いてみようだって」



 父から一緒に楽しい計画をたてようという手紙をもらい、双子がウィステリアにやって来た。


「可愛いですわ!」


 アイリスとローズ姉妹は特にアナベルが気に入った様子。アナも最初は戸惑っていたが、羊毛ぬいぐるみの贈り主と聞き目を輝かせている。アナの親友アイラも実家へ戻っていたので、2人で作り方を教わることになった。


「ルーカスは何がしたい? アナはここでぬいぐるみ作りしたいらしいから、2人ででかけようか?」

「お父様とバーデットに行って、馬の乗り方や世話を教わりたいです」

「いいね! 父様も前からルーと2人で遊びたかったんだ」


 別行動ができるなら父を数日独り占めしてみたい。いつもは我儘かなと言い出せなかったが、アナもここで楽しく過ごすなら遠慮はいらない。今から楽しみで仕方がない。


「ミャー」


 いい案ね。たぶんそう返事した。モリオンはアナから離れないので残るつもりらしい。


「モリオンちゃんがずっと側にいてくれるの? 嬉しいわ」


 姉妹がこれで女子会ができると手を取り合っている。モリーナも呼ばれるようだ。ウェディングプランも練れると張り切っている。


 ヴィンの思っていた休暇とはやや違う気もするが、レイと双子が決めたこと。あとは全力で楽しませるだけだ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ