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雑貨屋店主は元王子様  作者: ななこ


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月の祭り

 子どもも大人も大好きな、フェリシティーのおとぎ話。


 寒さに震えていた黒猫に、やっとひとつだけ手に入れたパンを与えた心優しい子どもがいた。それを見ていた月の女神は黒猫と共に月へ連れ帰る。成長した子は黒猫と年に一度地上に降りてきて、子どもらにパンの代わりに菓子を与えた。それがいつしか「月の祭り」と呼ばれ、感謝をこめた贈り物をする日になった。


 今年は趣向を凝らしたいと領主様が言いだした。言い出したら止めても無駄だ。抵抗しようが巻き込まれる。


「何がしたいんだ?」


「みんなを笑顔にしたい。それだけだよ」


 レイは真剣に悩んでいる。それを笑ってはいけない。でもからかいたくもなる。


「たまにはきちんとした服着て、にっこり笑いながら手でも振れば、みんな喜ぶぞ」


「それじゃ、いつもと変わらないよ」


 お気に入りの平民と同じ服の時は親しげに声をかけられるが、騎士服の時は皆、黙って道を空ける。貴族服の時は素敵だとか、こっち向いてとか騒がれる。誰が決めたルールでもないのに、いつの間にかそうなっていた。観光客までそれに倣うのには驚いた。治安が良くて何よりだ。


 領民にとってレイは自慢の領主。そんな領民を自慢にする領主が俺の自慢だ。


 昨年はハリー達が目立つ赤い服を着て菓子を配り歩いた。好評だったが同じじゃつまらない。行事なんてそんなものだろうに。


「だったら女神の格好して練り歩け。みんなが頭を垂れるぞ」


「あんな薄着で外を歩いたら風邪を引く。それに月の女神様に失礼だよ。僕は女神様にも笑って欲しい」


「おかしな事は考えるなよ」


「教会の子ども達も裏方ばかりでなく、参加してもらいたいな」


 俺の話を聞いていない。何か仕掛けているのは薄々ばれてるからな。


「あれ、着るか? 寒くはない」


「君って最高! 相談して良かった」


 相談されているとは知らなかった。 早速、温泉村に遣いが出された。


 そして当日。前日までに焼き上がったクッキーをカゴにつめて、子ども達が領主館を出発した。


 猫にウサギにアライグマ……リス、羊……。馬がいない。さすがに着るには人気ないか。温泉村から届いたフワモコを着た行列がクッキーを配り歩く。もらう子ども達も嬉しそうだ。


「ヴィンセントも一緒に配ろうよ」


「可愛いわ! ぜんぜん怖くないよ」


 隠れて見守り中だったが、双子に呼ばれたら出るしかない。俺は黒クマ。最後尾に付くと非番の騎士連中に見つかり指を指され笑われた。覚えておけよ。来年はクマよりももっといい役を与えてやるからな。馬、決定。


 終着点の教会に着くと、黒猫モリオンを抱いた女神役のレイが待っていた。白クマも可愛いが、どちらかというと女神の衣装の方が好み。本当は誰にも見せたくないが、祭りを盛り上げるためには仕方がない。


「みんな、寒い中ありがとう。中に温かい飲み物を用意してるよ。でもその前に……」


 レイの合図で花火が上がる。ハリーの姿が見えないと思ったら、花火担当だった。


 大人も子どもも夜空を見上げた。綺麗な花が開くたびに歓声も上がる。


「これなら女神様にも届くよね」


 隣で微笑む女神様にモリオンがミャ~と返事をして、ぴょんと飛び降りる。いつもは離れないのに珍しい。白猫スノーと夜の散歩にでも行くのか? よく二匹で屋敷を抜け出すことがある。心配はいらないとレイは好きにさせている。


 ***


 二匹は王都へ向う荷車に潜り込んだ。目的地までは距離がある。上手く荷物の影に隠れ、動き出すのをじっと待っていた。


 夜が明けると荷車は王都へ向って走る。レイの馬車とは違い乗り心地は悪い。でもお祭りとその翌日はみな休暇をとっている。もちろんレイも。可愛い双子と一緒に過ごさせたい。


 お腹が空いたのかスノーが鳴きだした。荷車に食べものは載っていない。鳴かないで。ばれちゃうよ。まだ目的地まで距離はあるが荷車が止まり、荷物がおろされ見つかってしまった。


「首にリボン着けてるってことは、飼い猫か。悪いがまだ荷物を積み込む予定がある。降りて家にお帰り」


 ひとかけのパンと水を分けてくれた。優しいおじいさんで良かった。猫嫌いだったら怖い目に遭うところだった。


 スノーにパンを全部食べさせ、歩かせようとするが今度は眠くなったらしい。もう、あれほど寝なさいって言ったのに。困った子ね。


 知らない村で降ろされて途方に暮れる。一人で遠くへ来たことはない。いつもレイと一緒。会いたい。匂いを嗅ぎたい。なぜて欲しい。ついレイを求めて鳴いてしまった。


 今度は野良猫に見つかった。知らずに縄張りに入っていたらしい。唸り声を上げて近づいてきたが、狙いはスノー!? 


 売られた喧嘩は買う。相手が自分より大きくても怯むことはない。すばしこいスノーが先に猫パンチをお見舞いした。さすが白銀の一閃の愛猫。レデイにひげ一本だって触れさせない。


 その時、ふわりと大好きな匂いがした。


「ミャ~! ミャ~!!」


 ここだよ! ここにいるよ!!

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