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王宮盗難事件

 兄2人に呼び出されて王宮を訪ねると、アルバートの結婚前に使用していた私室へ連れて行かれた。側近達に聞かれたくない話があるのだろう。


「レイはここに座りなさい」


 両側を兄たちに挟まれるように座らされた。


「僕、何か叱られるような事したっけ?」


「してないよ。レイと話がしたいだけさ」


 レオンは国王代理でノルフロイド国の国王葬儀と新国王戴冠式に出かけていて戻ったばかり。


「葬儀に参列していた末王子にフェリシティーから来たと言った途端に逃げ出されたんだけど。何故かな」


「アーノルド王子? ハリーの結婚式で挨拶は交わしたけど、特に僕からは何もしてないよ。元気にしてた?」


「それが本人の意思で貴族籍から抜けるそうだ」


「へえ。何かあったのかな。ずいぶん思い切ったことをするね」


「兄上である新国王は止めたそうだが、自分のせいで戦争になったら大変だとか、これ以上あの方に迷惑はかけられないと意味不明な事ばかり言っていたらしい。レイに何か覚えはある?」


「僕が知るわけないよ。2度と会う事もないようだし、興味ないな」


 側近達にハリーに渡されたナイフを取り上げられた上に始終見張られ、アーノルドは自死することができなかった。悩んだ末に自ら酒を断ち、身分を捨て、父の葬儀後は母の実家の領地で静かに暮らすことを選んだ。そしてもう2度と剣は持たないと誓った。


「親しくしたい国でもないが、今後もノルフロイドは私が対応しよう」


 レイが口に出したくないほど嫌ってるのはなんとなくわかる。詳しい話はヴィンセントに聞けばいいか。


「そうして。僕は他を担当するよ」


「レイ。アガサスとノアールから新たな国境線が決まったと知らせが来たよ」


 次はアルバートが地図と書簡をレイに渡す。


「ふ~ん。クリフはほぼノアールに入ったか。アガサスの新しい村の名前は良いんじゃない。月と星の里だなんて、ずいぶんとロマンチックだね」


 トンネル工事で命を落とした者への弔いを込めてつけられたが、もう一つ。レイが夜中に小さな明かりを手に小屋に入ってくるのを見た者が、真っ暗闇に浮かぶ希望の光、月から降りてきた女神のようだと噂したのもある。


「ホロスト男爵の件は助かった。素行が悪いのは耳に入っていたが、なかなか王宮では尻尾を出さないからね」


「貴族は民の手本であるべきだからね。できない者には隠居してもらうしかないよね」


「レイ、その話。もっと詳しく聞かせて」


 レオンがメモまでとっている。ホロストはそんなに重要なポストにいたっけ? レイも王宮の人事を全て把握しているわけじゃない。


「サイラス元国王はバーデットの養女と結婚か。カステルに戻る気はあるのか?」


「どうかな。もしフェリシティーに残るならオルガの治めていた領を任せたら面白いなって思うんだ」


「ほう。それは?」


 アルバートも体を乗り出して聞きたがった。


「サイラスは王太子として教育を受けている。実際に短期間でも王位に就いたくらいだ。じっと机仕事は苦手なんだろうとは思うけど、それでも優秀な補佐官でもおけばうまく治めてくれると思うよ。それに領民と一緒になって狩猟する領主夫婦って面白くない?」


「奥方も狩りするのか」


「アグネスはドレス着てお茶会するより、野山を駆けまわる方が好きな娘なんだよ」


 サイラスをいつまでも騎士団で使うわけにもいかない。2人を定住させるにはもってこいの領だ。


「そうだな。レイから話してくれないか。もし残るならフェリシティーでの身分も考えよう」


「きっと受けてくれると思う」


 わざわざ呼び出すから叱られるかと思ったのに、兄様たちとお茶飲んでおしゃべりを楽しめるなんて。


 レオンがしきりにメモをとりながら、ほくそ笑んでいるのは気になるが、新しい話でも思いついたのだろう。いつもの事だ。


「レオ兄様の騎士様わたしをさらって。うちのトーマスが本当に攫って来ちゃったよ」


 レオンが面白がるのでつい洗いざらい話してしまった。


「噂のヴィオラ嬢まで絡んでるとはな。私が書く小説より面白い。それで。ヴィオラ嬢ならどんな求婚ならしてもらいたい?」


「ヴィオラはそうだね。好きな奴からのサプライズなら喜ぶと思うよ」


「例えば?」


「オムレツにハートマークとかドキュンだよね。それもとびきり優しい笑顔付き」


 あいつはいつも無愛想だからな。兄2人もつい想像してしまう。これはドキュンだ。


「兄様の新作はいつ? みんな楽しみにしてるよ。また領に送らなきゃ」


「ああ。だいぶ進みそうだ。レイ、また面白い話が合ったら聞かせて」


「もちろん。今日は兄様達とお茶ができて楽しかった。また時間作ろうね」


 まさかレオンが自分をネタに新作執筆中とは思いもしなかった。


 ***


「レイ、先代様がお呼びだ。また腰が痛むらしい」


「仕方ないな。子ども達も連れて行く。支度させて」


 久々に一家そろっての王宮訪問。孫の顔でも見れば痛みも忘れるだろう。もちろんレイお手製の湿布は用意してある。


 オズワルドは王族のプライベートエリアは始めてで少し緊張気味。


「大丈夫。父上も母上もオズワルドと会うのを楽しみにされているよ」


 オズワルドはお爺さまお婆さまと呼ぶように言われ、はにかんでいる。


 お茶を飲んでいると父がそういえばと切り出した。グレースもあれねと困った様子。


「最近王宮で妙な事件が起きていてね。レイは知っているか?」


「事件? どのような事ですか?」


 侍女やメイドの部屋に置いてあった装身具が消えてなくなった。それも同じ部屋で2度3度続くこともあるという。騎士団の宿舎でも同様の事が起きていた。


 宝物庫や王族の部屋。特に高価なアクセサリーを多く持つグレースや王妃エリザベスの部屋は厳重に管理されているので被害はなかった。


「どうも日中に、皆が仕事中に持ち出されたらしい。城に勤める者を疑いたくもないし、怪しい者の出入りもない。犯人が捕まるまでは皆が安心して眠れない」


「当然警備は増やしているのでしょう? 不審な者を見逃すはずがない。おかしな話だね」


 考え込んでいたレイが、ふと何か思いついたのか現場が見たいと立ち上がった。


「お父様、僕も一緒に行きたい。いいでしょう?」


「いいよ。オズもおいで。3人でこの事件を解決しよう」


 私も行きたいというアナはグレースが見せたいものがるのと上手く気をそらしてくれた。この隙にとレイは男子2人を連れて現場へ向かった。

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