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トーマスの事情

 トーマスは面白い話でもないんだがと前置きして話し出した。


「俺が生まれ育ったのは森で狩りをして、木工製品を作って生計を立てるような貧しい村だ。自給自足でも腹を空かすことはなかったが、娯楽なんてものはない。最近じゃ男は出稼ぎに出て、残っているのは年寄りと女と子どもばかり。100人もいないな」


 出稼ぎに行ったまま帰らない者がほとんど。家族を呼び寄せる者もいるが、音沙汰なしになった者もいる。


「この先、村として成り立たなくなるだろうね」


 トーマスは寂しそうにそうだと頷く。


「病気にかかろうが医者を拒み、子どもに字すら教えない。男尊女卑も激しくて女は村の外に出ることができない。もう時代遅れだと言っても年寄りは聞いちゃくれない。俺は15の時に村を出た」


 たまに来る商人から外の話を聞いたトーマス少年は年寄りに食ってかかったが相手にされなかった。医者にさえ診せれば女手ひとつで自分を育ててくれた母が助かったかもしれないのに。親孝行ひとつできないまま見送ってしまった。


 着の身着のまま日雇いなどをして王都を目指した。人が多ければすぐに職にありつけると甘い事を考えていたが、そう上手くはいかなかった。


「どうして騎士団に?」


「昔何処かの騎士団にいたっていう爺さんに剣だけは教えてもらっていたからな。その爺さんから、見習いでも飯を食わせてもらえるって聞いたのを思い出して、物は試しと試験受けたら合格したんだよ。それから必死に鍛錬積んで、字も習った」


 剣はそこそこの腕だが、ナイフの扱いは騎士団一。字を見ると頭が痛くなると言っていたが、野外では頼りになるし、兄貴肌で騎士団では変わり種のところが気に入ってレイは護衛にしたのだった。


「いまさら村が廃れようが構わないが、たまたま上役に連れて行かれた食堂で俺は知ってしまったんだ」


 村で捕れる鹿や猪などの肉は高級食材。木工製品も驚くほどの高値で工芸品として売られていた。毛皮屋には行ったことがないが想像はつく。


「村人が狩ったものも木工製品も全て領主が買い取り、外へ売られる。村人に支払われるのは売買の手間賃と税金を引かれたわずかな金だ。販売先や値段交渉が煩わしくて任せていたのも悪かったんだが、酷い話じゃないか」


 同じく年寄りのやり方が気に入らないと言う幼なじみから鹿肉などを分けてもらい、温泉村で売って、村に残っている生活の苦しい家や村を出て自力したいという者に金を渡していた。


「最近じゃ年寄りも多少は話を聞くようになったよ」


「領主はたしかオルガ子爵だったね。領からの税収がなくて国税を納める事ができないと財務に泣きついて減額してもらっていたな。いつも質素な服装で田舎者だからと夜会にも出ない。王都に屋敷を持たず滞在費すらもったいないと領に戻るから皆は信じていたよ」


「上手く隠してんだろう。領に戻れば贅沢に暮らしている」


「それで? 子爵以上になって領主にでもなるつもり?」


「違う。オルガの馬鹿息子にルシアが目をつけられた」


 村に視察と言ってやって来た時に案内をしたのが村長家族。ルシアは村1番の美人だがまだ婚約者もいない。嫌だと言っても玉の輿だと村中がお祭り騒ぎになった。


「鹿肉を引き取りに行った時にその話を聞いて、オルガの馬鹿息子に渡すくらいなら俺がもらうと言ったんだが、ただの護衛騎士にはやれないと言われたんだ」


「僕の名を出せばいいのに。それで爵位か。肝心のルシアは何て言ってるの?」


「実は村にはもう置いておけないとルシアを攫うようにここに連れてきたんだ」


「トーマスもやるな」


 レイもこれには驚いた。


 初めての長旅。知らない土地。いくら親しい仲でも強引に連れてこられたなら熱も出るわけだ。フランカがルシアから離れようとせず、トーマスに少しよそよそしい態度だったのも納得。


「話してくれてありがとう。でもトーマスが爵位を持ったところで最善の策とは思えない。他領のことに口は出せないとけど、手段ならいくらでもあるよ」


 領内のことは領主が管理、統治している。王族といえど口は出せない。


「主に余計な手間をかけさせたくない」


「僕が大事な君たちが困っているのを知って見過ごすように見える? 大丈夫。スローンみたいにいきなり切りつけることはしないから任せてよ」


 今はウィステリア領となったが、レイの叔父スローン公爵が治めていた頃は酷い有様だった。領民から搾り取った金を湯水のように使い、気分次第で領民を痛めつけ、モノ扱いしていたのを知ったレイが叔父の命をもって罪を償わせた。


「あれから平和的に解決できるように、父上からいいものもらったから、今回は使わせてもらうことにするよ」


「レイモンド様、よろしくお願いします」


「トーマス、堅苦しいのはなし。いつも通りでいてよ」


「レイ、よろしく頼む」


「うん。その馬鹿息子が追って来るかもしれないね。ルシアにはレイラを護衛につける。女性同士なら問題ないでしょ?」


「アナの護衛は?」


「しばらくアナはフローレンスに預ける。さて、色々用意しなくちゃ」


 温泉村村長、薬草店店主まで呼ばれ、レイが何やら頼んでいた。

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