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問題児たち

 ハリーとフローレンスを祝いたいと訪れてきたのは、ヴィンの義妹アグネスと自称婚約者のカステル国王の義弟サイラス。


 サイラスは今ベネノン騎士団にいる。ハリー夫妻が王宮に寄った時に結婚したことを知られてしまった。


「俺に知らせてくれないなんて水臭いじゃないか。ハリー王子には世話になったのだから、当然祝いをさせてもらうぞ」


 カステル国がアガサス国に乗っ取られそうになった時にレイをはじめ、ハリーと鳩の活躍もあり事なきを得た。


「気を遣わなくていい。それよりアグネスとサイラスは婚約したのか?」

「正式にはまだだ。求婚というのは何回してもいいものだな。毎回照れて聞かないフリをするアグネスが見れる。今回も食用花を籠にいっぱいと肉を持ってバーデットに迎えに行った」


 食用花? 肉? レストランに持ち込んで料理してもらい、求婚してるのだろうか。まさか食べながら告白? ついレイが口をはさむ。


「同じ相手に何回もするものじゃないだろう。アグネスに嫌われてるんじゃないの?」

「嫌われなどいない。こうして一緒に馬に乗って来るくらいだからな」


 バーデット産の馬に乗ってやって来た。アグネスは今日もドレスでなく乗馬服。


 たまらずヴィンも。世間知らずな義妹の相手は非常に気になる。


「アグネスは承諾していないのか?」

「結婚には興味ない。バーデット家は皆優しいし、人の世話より馬の世話がしたい」

「そうか。興味ないか。でも家に馴染んでくれて嬉しいよ。サイラスはよく訪ねて来るのか?」

「うん。この人はいつも突然来て、早口で何か話してお土産をくれる。あとはお義母様に挨拶して帰る」


 フローレンスに花束と義母が選らんだという祝いの品を渡したアグネスが口を尖らせている。食用花と肉は手土産だった。もう少しましなモノを選べと言いたいが、たしかにアグネスが喜ぶのは装飾品の類いではない。菓子よりも肉だし。


「母さんは何て言っていた?」

「まだ早いけど、ご縁は大事にしなさいって」

「許したのか…」


 本人に興味がないと聞けば、母はサイラスを確保しておきたいのだろう。サイラスは親公認だから婚約したも同じと思っている。ただ本人から直接承諾を聞きたくて何度も求婚しているらしい。


「ヴィンセント義兄上。バーデットは良いところだな。ヘンリー義兄上は快く受け入れてくれた。あとはまだ会っていないジェームズ義兄上の騎士団に入れてくれるよう口添えしてくれないか」

「兄などと呼ぶな! まだ正式に婚約してないだろう」


 まったく。どいつもこいつも勝手に『兄』にするなと言いたい。


「サイラス、もう少し静かに話せないの? 声が大きい。子ども達が驚いているよ。それにヴィンも興奮しない。今夜はハリーとフローレンスを祝う会だよ」

「そうですよ。お2人の席もすぐに用意しますからね」


 レイとソフィアに言われたら大人しくしているしかない。


 会がお開きになり、フローレンスはアナベルの部屋へ。アグネスは客室を用意してもらい、サイラスはとっていた宿へ。


「やっと静かになった。お前も大変だな」

「わかってくれるのはハリーだけか。これからハリーの抜けた穴埋めもしなくちゃならんのに。これ以上領内に問題児が増えると困る」

「サイラスに護衛やらせるか?」

「「それは断る!!」」


 レイとヴィン、即答だ。


「冗談だよ。姐さん、新人鳩を一人置いていく。セオに預けたい」

「それは?」

「新人と言っても腕は確か。セオなら上手く使えるだろう。当分はクロークでフローレンスのそばに居るけど、何かあれば呼んで欲しい」

「ありがとう。その言葉だけでも十分だよ」


 ***


 ハリー夫妻が仲睦まじく宿に帰り、レイとヴィンは寝る前に一汗かこうと庭に出た。今夜は雑貨屋には帰らずにソファアの屋敷に泊まる。


 月明かりを頼りに互いの剣を避け、ぎりぎりまで攻め込む。


「くっっ! 今のは危なかった」

「ハリーのように夜目が効くといいんだがっ!」


 つい楽しくなって時間がたつのも忘れてしまった。


「そろそろあがろうよ。汗流したい」

「そうだな。…待て」


 騎士団にいるはずのアーノルドが千鳥足で歩いてくる。


「アニキ~。楽しそうだねぇ。俺も混ぜて。ヒック」

「まともに歩けもしないで何を…!!!」


 急にアーノルドが束を握ると鞘を投げ捨て、ヴィンに剣を向ける。


「やろうよ。ヒック…。俺、本気出すからさ」


 巻き込まれないように下がったレイはアーノルドから目を離さない。


「ヴィン。遠慮なしでいけ」

「わかった。すぐに片付ける」


 酔っ払い相手かと思ったらとんでもない。滅茶苦茶にただ剣を振り回しているだけかと思えば、こちらからの剣を上手く避け、なかなか勝負がつかない。油断しいるつもりはないが、時折鋭い一撃がくる。酔った他国の王子を傷つけるわけにはいかない。


「ヴィン、替わって」

「いいいのか?」

「どうせ酔いが覚めれば覚えてないよ」


 ヴィンが下がり、レイが前に出ると目にも止まらぬ速さでアーノルドを翻弄する。

 次第にもつれた足が止まり、アーノルドは膝をついた。


「呆れた。剣握ったまま寝てるよ」


 袖口で汗を拭うレイが、辺りを見回す。どうせお付きが何処かで見ているのだろう。


「早く騎士団に連れて行って。ここで野宿は困る」


 お付きが3人現れた。


「お手合わせありがとうございました」

「馬車を出すから1人残って。話が聞きたい」


 顔を見合わせ、1人が前に出る。


 汗を流し、着替えたレイがお待たせと小部屋に入る。深夜だがお茶とソフィアの店のケーキが振る舞われ、旨いと食べていたお付きは滅相もないと立ち上がった。


「口元。クリームついてるよ」

「申し訳ございません! お恥ずかしい」

「いいよ。座って。あれがどういうことなのか聞かせて」


 お付きは幼い頃のアーノルドに仕えていた護衛の息子。マルローと名乗った。ヴィンに叩きのめされたうちの1人。


「ご幼少の頃のアーノルド様は虫も殺せぬほどお優しく、気弱だったそうです。それがお父上の国王陛下の命で嫌々剣を持たされ、騎士団に入れられました」


 生来の生真面目な性格からか、基礎はみっちり積むことができた。しかし実戦となると急に尻込みしてしまう。騎士団を統率していく立場でありながら、戦場に行くこともなく、ただ鍛錬を積むのみ。誰からも信頼を得られず、団長イーデンだけが相手をしてくれた。その頃にハリーも一緒に修行をしていた。


「基礎だけはしっかりねぇ。先ほどはずいぶんと自由に剣を振るっていたようだけど」

「ご本人も悩んでおられたのですが、ある日騎士団で浴びるほど飲まされた帰り、暴漢5人に囲まれて、勢いで剣を抜いたらあっという間に倒したのです」

「それで?」

「酒の力を借りて、思う様に剣を振るうことで、向かうところ敵なしとなったのです」

「でも飲んだら次の日に忘れてしまうのでしょう? 意味あるの?」

「相手の顔は覚えてなくても、わすがな記憶と手に感触が残っているそうです」


 戦場ではまったく役に立たない。日中少しでもそれに近づこうと強者の弟子入りを志願していた。


「もう禁酒させて、剣は持たせない方がいいと思うけどな」

「アーノルド様はご自分が役に立てるのは剣の腕だけと思っているのです」

「そうか。他国の王子に口出すことはしたくないし、こちらに迷惑をかけなければ好きにしたらいいさ。もう会うことがないといいけど」


 ***


「大人しくここを出て行くと思うか?」


 寝支度を調え、灯りを消したヴィンがレイの隣に潜り込む。


「どうかな。ヴィン兄貴を慕っているから、すんなりとはいかないだろうね。だからってハリーにつきまとわれても困る。あれ以上フローレンスの機嫌を損ねたら今度こそ毒針でもう酒どころかか目が覚めないようにするかもね」

「さすがスミス家。国外に出てから眠らせて欲しいな」

「ふふ。母国に迷惑をかける子じゃないよ」

「そうだな」


 話混んでいる間に空が白みがかってきた。扉に『昼まで起こすな』と書いた紙を貼り付け、2人は爆睡。


 そして日が昇るとあいつはまたやって来た。

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