表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/80

王子会

 第2回王子会は、クローク国王都近郊のシラカンバの森の視察から。


 白い樹皮に触れながらレイは深呼吸する。本当に訪れるたび心が洗われる。


「こうした景観は保護して後世まで残す必要があるね。どこの国にもそういった場所はあるだろう」


 グレイシャスのヘンリクが同意だとうなずく。


「そうですね。我がグレイシャス国はフィヨルドだろうか。レイ様も一度でいいから舟からの眺めを見て欲しい」

「次は寒くない時期にお邪魔するよ。雪だけは無理」

「ぜひお子様方とご一緒に。アガーテと共に楽しみにしていますよ」


 これで訪問の口約束ができた。あとは日程調整。それがまた難しそうだが。


「海ならうちだって珊瑚礁がある。ほら。この赤珊瑚は見事だろう」


 ジョージが袖をまくり上げブレスレットを見せる。おっーと声が上がる。良質のものはなかなか手に入らない。


「レイは泳ぎは得意? どのくらい潜れる?」

「そこまで得意じゃない。フェリシティーは海に面していないから、川や湖で遊ぶ程度」

「レイが海中を泳げば人魚姫に見えるだろうな。潜るのが無理なら岩の上でポーズとってもらって絵師に描かせようか。よし。次の王子会はダレン国に決定!」

「次の開催がダレン国はいいとして、長時間、岩の上にじっと座ったままだなんて嫌だよ。どうせなら海釣りがしたい。それと僕は君の伝統舞踊も素晴らしい思うよ。文化や芸術だって残さないとね。今度うちの領にある劇場で公演してみないか?」

「それなら仕事で行けるな。温泉にまた遊びに行き来たかったんだ」

「温泉村の広場に屋外ステージも作ろうかな。滞在期間中はお風呂に入り放題。おもてなしするよ」

「丸太小屋はクロークの木を使ってるんだっけ? うちでも欲しいな」


 各国のお国自慢が済むと、ばらばらと移動。集団で動けばどうやっても目立つ。国外でのお忍びのチャンス。それぞれ好きな場所に行ってから王子会会場に集合。視察も大事だがこっちはもっと重要。抜かりはない。


 新鮮な魚介を目の前で焼いてもらっても、自分で焼いてもいい店があると聞いてレイが貸し切った。騎士団や警備兵がいては目立つ。ここは鳩達に警護を頼んだ。ノアールから山ほど乳製品と干し肉の土産があり、ボビーが声をかけるとすぐに引き受けてくれた。一応ハリーには許可を貰っている。


「ねぇ。僕もそろそろ店に入っていいかな。もう乾杯の挨拶が終わってるよ」


 店内から笑い声と魚介の焼けるいい匂いが漂う。なのにヴィンに引き留められ扉の前で服装チェックされる。いつも着ている木綿の服なのに、どこがだめなのかわからない。


「待て。いいか。もう一度言う。中は結構暑いと聞いている。服は脱ぐなよ」

「上着はいい?」

「上着までだ。ただしシャツのボタンを外すことはするな。腕まくりもなし」

「汗かいたらどうするのさ。袖くらいいいじゃない。火傷しないよう気をつける」

「髪をほどくのもなし。焼くのは店の者かボビーかジョージ王子に任せておけ」

「僕が焼くのを楽しみにこの店の予約したのにだめなの? 毛先を焦がさないようお団子にしておく?」

「もっとだめだ」


 だめだめとやっぱりヴィンが中に入れてくれない。今日もお供達は隣の食堂で待機。酒は出ないが、みな主自慢か愚痴大会でもして楽しんでいるはずなのに、側から離れようとしない。


 ヴィンにしたら狼の群れに白猫…じゃない羊を放つようなものだ。ハリーがいればまだ安心できるが、さすがに今夜呼び出すのは気が引ける。


「ヴィンママ。僕は子どもじゃないよ。鳩もいるし危険はない」

「そうなんだが…。今夜は女性陣がいないだろう」

「王子会だからね」

「ということはだ。男しかいない飲み会なんて、ろくでもない話が出るに決まっている」

「王子会だよ?」

「それでもだ。いいな。時間きっちり迎えに来るからな! いや。やっぱり、焼けるまでここで待っていても…」

「ヴィン」

「なんだ」

「心配ありがとう。愛してるよ。じゃあ行ってきます」


 あ…あ? あいーーー! と固まるヴィンを残し、やっと店内に入れた。


「レイ、遅かったな。ちょうど蟹が焼きあがる」

「ウィル、ありがとう。美味しそうだね。どう馴染めそう?」


 早速レモンを搾って堪能。プリプリジューシー。最高。


「問題ない。普段かしこまった顔しか見たことがないが、こうして砕けた姿を見るのはいいな」

「だよね。親しくなれば争いなんて事にすぐにはならないだろうし、こうして他国の訪問が楽しみになる」


 相手を理解までできなくても知ることは大事。それが苦手な相手でも。全員お手々つないで仲良くしろとはレイだって言わない。でもいくらか知っているだけで、歯止めになるかもしれない。


 なのに目の前で殴り合いが始まった。この状況。どうした?


「ジョージ。君って手が早いタイプだったの?」

「まさか。こいつがレイを危険人物だとぬかすから、つい手が出た。いくら言っても通じない」

「ジョージ王子が黙らせなかったら、私だって体当たりしようと思ったところだったよ」


 滅多に怒らないボビーまで。床に膝をついているのは、ノルフロイド国の第4王子アーノルド。ハリーに声をかけられやってきたが、ハリーが欠席するとは知らなかったらしい。1人で静かに飲んでいたが急に怒りだしたという。


 レイが天井に向かって、「呼んできて」と言えばコツンと音が返ってきた。


「アーノルド王子ですね。初めまして。フェリシティーのレイモンド・ウィステリアです」


 レイが手を貸そうとするが、払いのけられた。


「貴様のような魔女の手は借りない」

「せめて魔法使いにして欲しいのですが」

「ハリーが『あね』と呼んでいるなら魔女でいいだろう」


 立ち上がると倒れた椅子を起こし、また1人で飲み始めた。


「すぐにハリー王子が来ますよ」

「そんな簡単に呼び出すな! 新婚だぞ!」


 これ最初に計画したのその新婚ほやほやのハリーだから。ぶつぶつ文句を言うアーノルドは好きにさせておく。交わろうが帰ろうが強制はしない。


「ボビー。僕ホタテ貝が食べたい。焼いてくれる?」

「いいとも。うちのバターで焼くと旨いんだ」

「ジョージ。踊らない? ヴィオラじゃなきゃだめかな?」

「そんなことないさ。そうだ、我が国の伝統舞踊を踊ってみないか? 剣舞ならレイもすぐにできそうだ」

「それやりたい! 剣はおいてきたから、扇子でもいいかな」


 店の隅でレイはジョージを真似て優雅に力強く扇子を操る。腰を落としたり、くるりとまわったり。一曲最後まで踊りきった。


「腕がつりそう。でもすごく楽しい」

「さすがだった。ウィステリアの劇場では2人で披露しよう」

「それには練習しないとね。師匠もう少しお願いします」


 その前に一休み。ふっーとレイが扇子で扇ぐ。各テーブルの上にある火のせいもあるが、動いて汗をかいてしまった。シャツのボタンを3つ外し、髪もねじって上にひとつにまとめた。かんざし代わりの串は魚に刺してあったものをナフキンで拭った。まだ魚臭いが帰ったらすぐ髪を洗えば問題なし。


「その鉄扇はいつも持ってるの?」

「剣をおいていく代わりにヴィンに持たされた」

「あの黒い護衛。強面なのにずいぶんと心配性なんだな」


 レイを見ればそれは仕方がないか。ウィリアムがレイに水とタオルを渡し、ダニエルが代わりに扇ごうと扇子を奪い取る。ヘンリクまで何か用事がないか聞いている。ジョージは自分で水を取りに行った。


 バタン! 大きな音をたてクマが乱入してきた。


「ハリー。早かったね」

「姐さん! 無事…。おい、誰が服脱がせた?」

「ハリー。よく見て。僕、服着てる」

「いや。鎖骨まで見えてる。早くしまって」


 ハリーがボタンをかける。こんなレイの姿をヴィンが見たら大変だ。何かあってもかばいきれない。楽しい王子会が修羅場になるところだった。


「ハリー。新妻よりこいつが大事なのか? それにお前、その格好は何?」

「黙れ。お前、姐さんに失礼な態度とったって? 表に出ろ」

「ハリー。騒がないで。アーノルド王子に紹介してくれる? どうも嫌われているらしい」

「こちらは俺たち夫婦の最推しで、俺の愛する鬼強美神の白銀の一閃様。たまに可愛い…」

「ハリー。余計な事は言わない」

「すんません」


 アーノルドが推しとは? 聞いてもハリーは無視。


「こいつとは俺がノルフロイド騎士団でイーデンの元で一緒に修業した仲でさ。あの事件からもう付き合いがなかったんだけど、祝いなら来たいって言ってくれたから呼んだ」

「王子会の目的は話したの?」

「話したさ。俺が強者と認める姐さん見たさに来たんだろうけど、素直に仲良くしてくださいとは言えなかったんだろうな」

「イーデンを渡さなかった僕に、思うところもあるのかな」

「それは違う!そこは感謝しているくらいだ。だが、ハリーがべた褒めするので、つい」

「そう。なら楽しく飲もうよ。ハリーも少し付き合って」

「それならアーノン。お前もここに座れ」


 レイの隣に座ったハリーが、アーノルドに姐さん自慢を始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ