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アイリスのお茶会

 父の命令で今回は仕方なくだが、お茶会は好きな仕事だ。


 庭に面している日当たりのよい小部屋を、アイリスは好んで使っている。


 ピンクの壁紙に猫脚のテーブルと椅子。棚に並ぶ羊毛のぬいぐるみはアイリスのお手製。お気に入りのバラ柄の茶器。客の好みを調べ、茶葉とお菓子を用意する。喜ぶ顔を見ると、自分にも価値があったと安心できた。


「今日はご招待いただき、ありがとうございます」


 憎らしいほど愛らしいヴィオラが挨拶をする。腕には黒猫を抱いていた。


「ハリー様と本当に仲が良いのですか? あなたを置いて遊びにでも行かれたのかしら?(クシュン)」


 まただわ。一体どうしたことかしら。


「実はレイモンド様から、直接これを渡して欲しいと頼まれまして。ハリー様が国王様にお願いしたのです」


 ヴィオラが紙袋を渡す。中には薬が入っていた。


「これは?」

「アイリス様の様子をご覧になって、もしやアレルギーではと。改善するお薬をどうぞとのことです」

「本当に薬なの? 公爵様を信用できません」

「飲む飲まないはご自由に」


 2人の間にカップが置かれた。

 どの茶葉が良いか聞かれ、ロイスのものを味わってみたいと淹れてもらった。


「どうぞ、召し上がれ。お口に合うとよいのですけど」


 ヴィオラが手を伸ばすと、モリオンが低いうなり声をあげた。ちらっと給仕したメイドを見る。目をそらされた。


「今日は何が入っているのかしら」


 あら、下剤ね。口に含んだものを吐き出して、カップを置いた。


「こちらのお菓子は…随分と苦いわ。あら、裏が黒焦げ。お口直しに次はどれにしようかしら」

「もうやめなさい!」


 ヴィオラから皿を奪う。


「すべてアイリス様がご用意されたのかしら」


 じっと見つめてくる目はあの公爵と同じ青紫。見透かされているようで怖い。


「お茶にまで仕込むようには言っていません」

「なら、そこのメイドは捕らえた方がいいわね」


 ヴィオラが笑いながら立ち上がり、メイドの腕をひねり上げた。


「どなたに頼まれたのかしら?」

「何を仰っているのか、わかりません」

「アイリス様はこの者に見覚えはありますか?」

「ないわ。初めて見る顔です」


 どうやら、フェリシティー国を嫌う者が他にもいるようだ。メイドを廊下で控えていた衛兵に引き渡した。


「私のような案内しか頼まれない王女に、専属のメイドはそういません。時々手伝いに来る者がいて、不審に思わなかったわ」

「案内しかって言うけれど、客室の用意もされてますね。大事なお仕事ですよ。誰にでも任せられないと思います」

「そんなことないわ。父は顔で私を選んだと言っていたもの」

「そうね、第一印象は大事。案内をする方をみてこの国の印象が変わりますから」


 ほら、やっぱり。顔だけじゃない。


「レイモンド様はあなた様の心遣いに、暖かそうなひざ掛けは特に喜ばれていましたね。客人の好みに合わせた茶葉の用意は当然ですが、その種類の多さと、愛猫のおもちゃやごはんまであって驚かれていました」


 誰にでもできることではないと褒めると、アイリスの表情が和らぐ。


「その薬、飲んであげてもいいわ」


 先ほどからくしゃみは止まっているようだけど、どうぞとヴィオラが水のはいったグラスを渡し、せっかくだからお茶をただくわと2人分淹れた。


「悔しいけれど、私が淹れるよりも美味しいわ」

「母に仕込まれました。この茶葉は入手困難な農園のもの。良い伝手をお持ちなのね」


 たわいない話しで和んだところに、ヴィオラが急に話を替えた。


「あの麻痺毒はどこで手に入れたのかしら」

「あれは……」


 アイリスの視線の先にはバラ柄のカップ。気が緩んでいたのか無意識に目を向けてしまった。


「言いたくない? 誰かをかばっているのね」

「あなた、何者? (ヘックシュン!!)」


 お大事にとだけ言って、ヴィオラは出て行ってしまった。


 アイリスはローズの部屋を訪ねた。


「ローズ、話があるの」


 2人きりになりたいと人払いした。


「公爵に届けたワイン。ほんちょっと舌がしびれるだけって言ってたわよね」

「そうよ。苦しまれたのかしら? 公爵様はきっと敏感なのね」

「飲んだのは従僕です。半日も口が麻痺したと聞いています」

「それは気の毒。もう大丈夫なのかしら」


 意地の悪い公爵様が飲まなくて残念、ローズは従僕の心配だけをする。


「ヴィオラとのお茶会にあなたが寄越したメイド。お茶に下剤を入れました」

「あなたの婚姻の邪魔をしたのよ。それくらい当然ね」

「ローズ、あなた何をしたかわかっているの?」

「アイリスこそ、なぜ怒るのかしら?」


 同じ年で幼い頃からどうしても比較されてしまう。何も知らずに遊んでいた頃はとても仲が良かった。


 ローズが事務を手伝うようになるとアイリスは焦った。自分には到底できない。知的なローズが羨ましい。先にローズへ縁談がきたと母から聞いて、ライバル視するようになる。


 ローズからしたら、気配り上手で容姿の整ったアイリスが羨ましい。勉学に励むしかなかった。


 お互いが気持ちをうまく話せない。本当はまた仲良くしたい。だから相手が困っていると聞けば、手助けしようとする。


 以前ローズに付きまとう貴族子息をアイリスが手酷く追い払ってくれた。次は自分がアイリスの敵討ちをしようとして、やりすぎた。


「ローズ! 大変! 黒猫がみていたわ!」


 窓枠にモリオンが座って、じっと見ている。2人の会話を聞かれたかもしれない。


「猫に何ができると言うの?」


 ただの猫と思いたいが、気になってしまう。


 ローズに、もうこんなことしないと約束させて、自室へ戻った。



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