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ロイス国

 今回ハリーはレイの従者役。レイの護衛を公言しているので、すぐにクローク国王子と身バレしてしまう。婚約者候補の姫と顔合わせなどしたら、断りにくくなるので、それだけは避けたい。


 レイから共にロイス国へ向かう交換条件に、猫ちゃんのための魚の瓶詰を作る約束をさせられた。猫かわいがりにもほどがある。膝の上にはモリオン、道中レイは始終機縁が良い。


「ハリーはどんなごはんを作ってくれるんだろうね」


 双子と幾日も離れるのだから、モリオンを連れて行くのは決定事項だった。


「姐さんが動いてくれたのは、すごく頼もしいし、感謝もするけど、猫にやきもち妬く俺って強欲かな」

「フローレンスにさらに嫌われてもいいなら、好きにすればいいよ」

「猫を抱くヴィオラちゃんはみたい」

「君が結婚したいのは誰だっけ?」

「フローレンスです!」


 ハリーの父クローク国王がすすめている婚約は、ロイス国からの申し出だと言う。一国の王女をもらえるのであれば、子爵家の娘など天秤にかけるまでもない。


 国同士の婚姻は取引材料。今は友好国でなくても、強固なつながりができる。


 クロークの良質な木材を出す代わりに、ロイスから羊毛を購入できる。寒冷地のクロークにいくらあってもよい。ロイスにとってもよい話だが、王女を出すほど魅力のある話には思えない。別の何かが欲しいのだろうか。今後の外交を考えると、できるだけ穏便に白紙に戻したい。


 レイは幾人も側室を迎える王に興味をもった。クローク国の諜報員鳩から、側室と言うより有能な側近みたいだと情報がはいり、どんな人物なのだろうかと楽しみにしている。


 ロイスは国中に羊のための牧草地が広がる。人口よりも羊の方が多い。牛だらけのノアール国とどこか似ている。


「ぜんぜん違うわ」


 ノアール国リリア王女も建国祭に呼ばれていた。玄関ホールで鉢合わせたので、一緒にロイス国王に挨拶へ向かった。


「あら、眼鏡も似合うわよ」


 変装したハリーにリリアが声をかける。


「また、面倒事かしら?」

「ハリー王子の一大事」


 レイも似合うよとハリーをからかう。


 広間へ案内されながら、餌が違うだの、なんだのと言われても違いがよくわからない。レイはリリアに愛想よくうなずき返すだけ。


「それより、その黒猫ちゃんはどうしたの?」


 リリアは抱かせてと手を出すが、レイは腕から離そうとしない。


「君はどうしてうちの子ばかりを狙うかな」


 ルーカスを婿に迎えたいと言いだし、女児を産みます宣言からずいぶん経つが、いまだ懐妊の兆しはない。


「仕方がないじゃない、神様からの授かりものですからね」

「夫君のボビーに頑張れって伝えて」


 小さな声で伝えますと答えて顔を赤くしたリリアが、初々しい。


 ハリーにモリオンを預けたレイは国王にお祝いだけを述べた。国王はまだ話足りなそうだったが、後ろが詰まっている。早く次に譲らなければとリリアと共に廊下へ移動した。


「あら、フェリシティー国からのお客人は愛人とご一緒なのね」


 廊下で客人の案内をしていたロイス国第6王女アイリスが、冷ややかな目でレイとヴィンを見ていた。アイリスはレイとヴィンが恋人同士だといまだに信じている。


 何か嫌な空気を感じ取ったリリアが、レイを押しのけアイリスに挨拶を交わす。


「アイリス姫、ご無沙汰していますわ。たまには姫会にもいらしてね」

「我が国では王女も役割が多くて、遊びに出かけるのは控えていますの」

「姫会の目的をご理解いただけてないようですから、今後のお誘いは致しませんわ」


 失礼とリリアはレイの腕を引っ張り、メイドに客室へ案内させた。


「失礼すぎるわ。招待しておいて挨拶も無しに、あの態度は一体何様のつもりよ?」

「リリアが機転を利かせてくれたおかげで、ハリーが飛び出さないでくれて助かった。嫁ぎ先候補から外れた僕に、気を遣う気は最初からないんだろう」

「姐さんの相手は俺でしょ。間違えは正さないといけない」


 リリアにあてがわれた客室に入ると、ハリーは眼鏡を外し、普段通りにレイの隣に座っていた。


「ヴィオラのドレスは持ってきてないよ。いい加減にしないとフローレンスに言いつけるからね」

「大丈夫。忘れ物がないかメイドに確認して、ドレスは積ませておいた」


 忘れないでよと言うハリーは、レイに頭を叩かれている。


 最後に積まれた大きな箱はドレスだったのか。ヴィンも呆れた。ハリーは重婚でもするつもりか? クローク国では合法なんだろうか? それも同性だぞ。


 できることならフローレンスとヴィオラ、どちらも正妻にしたい。叶わないから余計に欲しくなる。フローレンスもヴィオラなら喜ぶだろうから始末に負えない。


「お茶をご馳走様。そろそろ夜会の準備をしようかな。リリア、後で迎えにくるよ」


 レイが席をたち、あてがわれた客室へ移動した。


 リリアは夫ボビーが政務で忙しく国外に出ないので、エスコート役にレイをあてにしている。妻を同伴できないレイもまた友人の頼みを快く引き受ける。こんなに仲が良い2人に、まったく噂が立たないのは社交界の謎。


「モリオンの毛はついてない?」


 夜会服に着替えたレイが、ヴィンに確かめてもらっている。猫の毛がついていてはさすがにまずい。第一印象は清潔感が第一。国の代表なのだ。


「大丈夫だ。モリオンも大人しく箱にいたからな」


 人の言葉を理解しているのか、今は抱けないと言えば、ミャーと返事をして自ら箱に入った。


「では行ってくる」


 ハリーは部屋でモリオンと留守番。構いすぎるなよとヴィンに言われてむっとしていた。


「ヴィンママは心配性なんだよ。俺だって猫ちゃんの世話くらいできる」


 ほら、こっちだよと、ゆらゆら揺れる猫おもちゃで遊びだした。


 大広間に入ると、あちらこちらからため息が聞こえる。


 リリアの黒いドレスにあわせた、レイのモーブグレーの夜会服は上品で華やか。甘すぎない大人の装いだった。リリアもレイの髪色にあわせた大きな真珠をつけている。艶やかな黒髪に映えて輝いていた。


 お近づきになりたいと、あっという間に囲まれ、挨拶の列までできてしまった。僕たちも客なんだが…。


 ダンスが始まった。この機会を逃すわけにはいかない。リリアの手をとり、人垣をかきわけフロアにでる。


 次はぜひ自分がとフロアの回りで男性も女性もそわそわしている。2人が踊り終わらなくては、2曲目は誘えない。レイ達は曲が代わる前にさっと抜け出し、目立たないように柱の陰に隠れた。


「君の黒のドレスは、合わせやすくて助かるよ」

「色物担当にしてあげるわ」

「お互い、虫よけにはなれるね」

「3人は躍るんでしょ? あと2人は王女の誰かを誘えばいいわ」

「気乗りしないな」

「同感だわ」


 会話が誰にも聞かれないだろうな。2人の後ろに控えるヴィンとリリアの護衛は苦笑いだ。


 ロイス国王には王妃と側室が12人。王子5人、王女8人。

 王太子は王妃の第1子。後継者争いはなかった。未婚で婚約者も決まっていないのは18歳になった第6王女のアイリスと、同じく18歳の第7王女ローズ。第8王女ダリアまだ10歳。とすれば、ハリーの相手はアイリスかローズになる。仕方がない。ハリーのためにレイはローズをダンスに誘った。


 ローズは、はにかみながらレイの手をとると頬を染めた。


「私はアイリスのような器量よしではありませんので、ウィステリア公爵様と踊れるなんて夢にも思っていませんでした」

「ローズ姫も大変可愛らしく思いますよ。私のような子持ちでも相手にしていただけるとは、光栄です」


 レイに微笑まれ、ローズは真っ赤だ。

 趣味や好きな本、好物などレイはさりげなく聞きだすが、受け答えはしっかりとしている。フローレンスがいなければ、ハリーにオススメしたいくらいだ。


「縁談など山のようにくるのでしょう? お相手になる方が羨ましい」

「そんなことないのです! 地味で計算しか取り柄のない私の元には、ひとつも縁談は来ないのです」


 もう諦めましたと言うが、アイリスのような華やかさはなくても、清楚で賢そうな姫にひとつも来ないのはおかしい。そもそも政略結婚に容姿はあまり関係ない。


 残念だがハリーの相手はアイリスのようだ。


「リリア、もう僕は下がるよ。君はどうする?」


 下がるなら部屋まで送るよと、リリアに腕を差し出したところに、アイリスがやって来た。


「踊って差し上げてもいいですわよ」


 レイもリリアも呆れて声も出ない。いきなり何を言い出したのだろう。


「私はもう下がります。またの機会に」

「ローズと踊ってこの私を誘わない? 困ります」

「何が困るのかな?」

「公爵様にお誘いを受けるのは、第7王女より第6王女の私が先のはず。順を飛ばされた上に、踊らないとなれば私が皆に笑われます」


 そんなルール聞いたことがないが、あるなら先に伝えてくれ。知っていたらリリアと踊ってすぐに下がった。


「私は口のきき方も知らない小娘とは踊らないし、話したくもない。気分が悪い」


 待たせて悪かったとリリアには気遣いをみせるレイは、アイリスに背を向けた。




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