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9 瑞穂と思い出1

 大学内部。

 次の講義がない瑞穂は空いている教室で最近出来たばかりの友人と話し込んでいる。同じ科目を選択していた道代とバイト先での出来事などを話しているとなにやら不穏なうわさが耳に入ってきた。


「知ってる? 蕪木さんってああ見えて男たらしらしいよ」

「聞いた聞いた~。全然男なんて興味ないですうみたいな顔しちゃってやってることえっぐいんだって」

「うちも知ってる。あれでしょ、なんか同じサークルの先輩の男取っちゃったって」

「マジぃ? やっば!!」

「しかも最近は恋人に飽き足らずぅパパ活してるとか……あっ、ごっめん。蕪木さんいたんだぁ」


 四人組が話す内容にめまいがしていた瑞穂。渦中の彼女たちがこちらに気づいたらしい。

(いやどう考えてもわざとよね)

 それらしく手を合わせて謝罪のポーズをとっているが、そもそも瑞穂と数人しか残っていない教室内に来ておいてきづいてなかったような態度はないだろう。


 瑞穂は正直その性根に呆れた。

 本人にあえて聞かせて嫌みをいうような相手は珍しくもない。当人たちの行動を嘲ったりしてネタにするような、そういう連中は少なからずいた。標的にされた者がすごすごと下がるまで、調子づいてるだの厚かましいだのとやれ見当違いなことで責めるのだ。責められた方が萎縮すればいい気味ねと笑い合う。そうして彼ら彼女らはせいせいしいいことでもしたかのように振る舞うのだった。


 そういう行動に理不尽な目を被ったこともあるし、他人がその被害に遭っているのを目にしたこともある。どこにでもこういう姑息な輩は湧くのだ。そして大抵、そういう声と態度が大きなものばかりが得をする、そういう風に社会は歪められていた。


 瑞穂は眉をしかめた。すこぶる気分が悪い。


 目の前の道代は女子たちに萎縮しているのか顔を隠すように小さくなっている。この子にも色々あるのだろう。食堂での出来事を思い出し、瑞穂は「先に行ってて」と声をかけた。

 うなずいた道代を室内から出すと瑞穂は彼女たちの方へ向かった。

 悪趣味な女子会を開いている女子達に近づく。


「人のこととやかく言えるなんて、さぞ人間ができてるんでしょうね」

 目配せしている女子達にはっきりともの申す瑞穂、だったが。

「は? ……あっははは、不純異性交遊女ががなんか言ってるんだけど」

「あんた達こそなによ。そんなマネした覚えないけど。言いたいことあるならちゃんと言ったら」

「やっぱ男ひでりだとイライラしちゃうのかな~?」

「ぎゃはは、なんだよそれ」

「生理と一緒にすんなし」

 瑞穂は極めて理性的に告げた。それでも全く態度を改めるつもりのない女子たちに辟易とする。

(注意するだけ無駄だったか。この子たちのいう噂の出所が気になるけど……仕方ない)

 瑞穂は諦めて教室から出ようと、横を抜けようとした。


 そこへ伸びる腕。まるで通せんぼするように通路の前を陣取る女子たち。

「ちょっと、邪魔なんだけど」

 瑞穂は声を荒らげた。

「めんごめんごー、今忙しいの。あっちで待ってて」

「こんなことに構ってる暇なんか……ッ!?」


 言い返そうとした瑞穂の前で陽炎のように姿形がいびつになる彼女たち。

 目を見開いた、一瞬のことだった。

 たちくらみでもおこしたのかと瑞穂は思った。


 そんな瑞穂の肩を女子達が突き飛ばした。


「「「お前こそ何様だよ」」」


 重唱。

 罵声が。罵倒が。罵り声が。

 瑞穂の耳に連続して届く。


「それでかっこいいとでも? 実態は干物女のくせに」

「人のこと言えんのかってお前こそって話だよ。ブーメランって知ってるぅ?」

「でしゃばりやがって。彼女さん迷惑してのに」


「ね、これがみんなの総意。とんだピエロじゃん、きゃはは」

 黄色い笑い声を上げる教室内の生徒達。

 瑞穂の味方はいなかった。

 どこを見回しても響く哄笑。

 連鎖するそれは瑞穂にとってショックであった。


 それなりにやっていけていたと思っていた大学生活。その外壁が崩れかけのケーキのようにボロボロと崩れ落ちる。


 胸に戻ってきたのは奇妙にも覚えのある感覚だった。いつか感じた、胸をナイフで刺されるような感覚だ。

 流氷の海に沈んでいく冷たい体。


(寒い……)

 瑞穂は、過去のトラウマを思い出していた。


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