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第四節 始動

死ぬほどお久しぶりですm(*_ _)m

翌朝8時、羽田さんと合流した。

「――よく眠れましたか」

「正直言って寝つけませんでした。一日であまりに多くのことがありましたから」

「無理もないことです。自分が異能力者だと知らされ、ご両親を失い、人生を大きく変える決断まで。17歳にしてはあまりに大きすぎる」

羽田さんの声には心からの同情が感じ取れた。

「では、対策本部へ向かいましょう。後部座席にどうぞ」

こうして僕は再び対策本部へ向かった。車窓から見える東京の街並みは、昨日までとなんだか違って見えた。

地下駐車場に車を停めて歩き、扉の前に来た時、羽田さんから1枚のカードを渡された。

「仮のものですが、職員証です。扉の前にかざすと開きますよ」

言われた通りかざすと、静かにドアが開いた。エントランスでは上月先生が待っていた。

「来てくれて嬉しいよ、明智くん。ご両親のことは本当になんと言ったらいいか……異能怪人は許されざる悪だ。打ち倒すために、私も協力を惜しまないよ」

「ありがとうございます……そういえば、高校はどうしたんですか?」ふと疑問に思い尋ねた。

「あぁ、病休ということにして長期休職としたよ。君については急な海外転勤ということで計らっておいた。もとより本職はこちらでね、大学も便宜上籍を置いていただけなんだ」と先生は微笑んだ。

「私は長期出張でフランスに行かなければならないので、あとは上月先生に頼みます。一式のレクチャーと、可能であれば投影まで」羽田さんは去っていった。

「さて、じゃあ行こうか。地下3階に私の部屋があるんだ」

上月先生とともにエレベーターに乗って地下に降りた。エレベーターから出ると長い廊下が続いており、先生は奥へと進んでいった。突き当たりのドアの前で先生は立ち止まり、職員証をかざしてドアを開けた。ドアの横に「異能研究局主任研究員 上月智」と表示があった。

部屋は汚れひとつない白い壁とコンクリートの床に覆われた清潔感のある空間だった。応接テーブルにソファ。ワークデスクや本棚など、全て綺麗に整理されていた。

「ようこそ、私の研究室へ」上月先生は両手を広げ笑みを浮かべた。

「大学の部屋よりずいぶんと綺麗ですね」

「私は少し乱雑な方がいいんだけどねぇ、『助手』がどうも綺麗好きで、こまめに片付けてくれるのさ」

「助手がいるんですか?」

「あぁ、その通り。ここまで優秀な助手は歴史上何人もいないんじゃないかってくらいのね」

「なんだか大袈裟ですね」

笑いながら答えた。笑ったのは何時ぶりだっただろうか。

「さて、本題だ。君にはアカシック・ライブラリアンとしての必須教養と基礎技能を学んでもらう。といっても特別な運動能力とか難解な数式とかは必要ない。実際に能力を使う際はエーテルの助けがあるからね。1週間もすれば安定して行使出来るようになるさ。ただしアストラル光の隠蔽は別物かな。常時発動のためには精神を高度に集中させる必要があるからね。……では、まずはこれだな」

上月先生は本棚下の戸棚からジュラルミンケースを取り出した。中には石版が一枚入っていた。中央に精巧な彫刻が施されており、四隅に大粒のルビー、サファイア、エメラルド、トパーズが嵌められている。

「綺麗ですね……これは一体?」

「19世紀にインドのとある遺跡で見つかった石版だ。これには不思議な特徴があってね、異能力者が触れるとその者が持つ性質に対応した宝石が光るんだ。性質については昨日メノン教授から説明があった通り。火ならルビー、水ならサファイア、風ならエメラルド、地ならトパーズが光る。さあ、やってみたまえ」

恐る恐る石版の中央に手を当てた。全身が熱くなるような感覚。石版の方を見ると、エメラルドとトパーズが光っていた。

「なんという……こんなのは初めてだ……!」上月先生が驚いて目を見開く。

「どういうことですか?」

「通常、異能力者に与えられる属性は一つだけだ。二重属性を持つ者は今まで例がない!」先生は興奮した様子だ。

「つまり……通常より幅の広い能力を使えるということですか?」

「その通り、普通の異能力者の2倍といったところだ。経験を積めば素晴らしい能力者になれる!」

「ありがとうございます、先生」自然と口に出していた。

「ん……どうしたんだい、急に?」

「いえ、昨日から色々なことがありすぎて情緒が不安定だったので……肯定してくれて少し安心しました」

「あぁ、いいんだよそんなこと。君は私たちの大切なメンバーだ。期待しているよ」先生が微笑んだ。

その後数時間、先生から様々なレクチャーを受けた。

「まもなく最終退勤時間です、職員の皆様は居住区域にお帰りください」と放送があったのは午後9時をまわった頃だった。

「おっと、もうこんな時間か、続きはまた明日だな。さて、居住区域に行こうか。君の部屋も既に手配してある」

「居住区域って、この建物の中にあるんですか?」「その通り。地下6階から8階までが居住区域でね、全職員に部屋が割り振られているんだ。店や銀行、福利厚生サービスもあって、基本的にこの建物の中で生活を営めるようになっているんだ」

「そんな巨大なシステムが……!」と感嘆した。

先生と再びエレベーターに乗り、地下7階まで降りた。ホテルの廊下を思わせる落ち着いた空間を進む。

「さあ、ここが君の部屋だ。職員証で空くよ」

僕の部屋は上月先生の隣だった。部屋に入ると、寝心地の良さそうなベッドや簡易的なキッチン、ユニットバス、大型テレビなど一通りの設備が整っていた。

「どうだ、すごいだろう。うちの組織は福利厚生が手厚いからね。ゆっくり休むといい」

上月先生はそう言って部屋の扉を閉じて自室に戻って行った。

湯船に湯がたまるのを待つ間、テレビをつけてみた。一昨日の朝までは何気なく見ていたテレビは、どこか別の世界の出来事のように思われる。湯船に浸かると、今まで溜まっていた疲労がほぐれていくように感じた。悲しみも幾分か癒え、これからのライブラリアンとしての任務に対する期待と興奮が心に湧き上がってきた。実際に異能について知るほど、早く使ってみたい、さらに知りたいという感情が大きくなっていった。

ベッドに横になると、すぐに深い眠りに落ちることができた。

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