5時50分が消えた
ピッピッ。ピッピッ。ピッピッ。そう。そのリズム。規律正しいリズムを刻みなさい。
ピッピッ。ピッピッ。ピッ。よし。これでマドンナの完成よ。
世界から5時50分が消えた直後の話し。
世界の支配者が現れた。名はマドンナ。彼女はとても美しく善い人。マドンナは言った。
「5時50分を持ってきた人となら私は結婚出来る」
それを聞いた世界中の者達は5時50分を探した。男女関係なく探した。誰もが5時50分の正体は知らねど探した。
ある男がいた。その男は土を掘って5時50分を探した。
マドンナは世界の支配者だけど、実は穴掘りする庶民男の近くにいて、その姿を目撃した。マドンナは男を嗤う。すると周りも同じように男を嗤う。
男は何がなんだか分からなかったが、恥ずかしいような気がして紅潮した。一方その場にいた結婚志望者達は、マドンナが土掘りを嘲笑ったのを見て、5時50分が何かは知らないが土の中にはどうやら無いっぽい。と考えた。情報は瞬く間に広がり、誰もが土をいじることをやめた。
翌日になると、世界からちらほらと人が消え始めた。男は場所は違うがまた土を掘り返して埋めてを繰り返している。マドンナはそれをまた嗤う。周りも嗤う。そして去っていく。
また翌日になると、世界からかなりの人が消えた。男は違う場所でまだ土を掘り返して埋めてを繰り返す。マドンナはそれを嗤った。周りは少し嗤った。そして去っていった。
その翌日になると、世界からほとんどの人が消えた。男は別の場所でまた土を掘り返して埋めてを続ける。マドンナはそれを嗤わなかった。周りはほとんどいないから。そして去っていった。
翌日。世界から人が消えた。世界はマドンナと男のためだけのものとなった。
男は、今日も土を掘り返して埋めてを繰り返している。マドンナはその後ろに立って男を眺めていた。
男はマドンナに気づいているが手を止めず、汗を流しながら土をいじる。
「ねぇ」
男は手を止め、マドンナに体を向ける。
「どうしてまだ5時50分を探してるの?まさか本当に私の結婚出来ると思って?」
男は汗を前腕で拭い話す。
「違うよ」
「は?」
「俺はあんたと喋りたかったんだ。でも勇気のない臆病者なんだ。だったら探し続けるしかない」
マドンナは口を閉ざす。
「5時50分が無い事は知ってるよ。俺は無知じゃないからね」
「ならどうして土を?」
「探さなきゃ喋れないからだよ」
「……喋ってみてどう?」
「思ってたより悪くないよ。だって思ってた以上にあんたは好い人だったから」
「そう…………ありがとね。こんな下らない事に付き合ってくれて」
「あぁ。あんたもありがと。また」
「えぇ、また」
5時50分は消えた。マドンナも消えた。そして5時51分が訪れた。
男は5時51分の世界でも変わらず土を掘り返して埋めている。
チックタックのリズムでいたら、いつかは滝を昇ったりもした。そう。そのリズム。正確とは、ンまぁ、素晴らしい。