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初盆

作者: たでんだた

去年の暮れに男は死んだ。

妻と4才になる息子を残して。


今年のお盆は男の初盆だった。

妻は胡瓜で馬を、茄子で牛を作った。

息子はプ◯レールで線路を作り、駅を作った。


「見て見てママ、パパがこの駅に帰ってくるよ! だって電車なら、馬よりもっと早く帰って来れるでしょ?」


迎え盆の日、男は妻と息子に会いに行く。

妻が作ってくれた胡瓜の馬に乗り、会いに行く。


ハイヤー、パッカパッカ、パッカパッカ


男は早く妻と息子に会いたくて、急ぎ胡瓜の馬を走らせる。


妻と息子のたった二人だけの生活。

以前住んでいた社宅から引っ越して、妻と息子は二階建てコーポに部屋を借りて住んでいた。

仏壇は無い。

ホームセンターで購入した半透明の引き出し式衣装ケースを三つ重ねて、その上に布を被せ、男の位牌と百均で購入したLEDのロウソクを置いていた。

妻は折った割り箸を刺して作った精霊馬(しょうりょううま)も並べて置いた。


迎え盆8月13日、男は妻と息子との再会を喜んだ。

馬で急いだこともあり、午前中には到着できた。




「ガタンガタンガタンガタン、電車がとぉりまぁーす!」


プ◯レールが大好きな息子。

誕生日プレゼントに男があげた。

オモチャの青い線路の上を電車が走る。


妻は夕食を作っている。


「電車が通過しまーす」


ピーポーン……と、玄関から来客を知らせる音がする。


「やったー! お父さん来た!」


息子は遊んでいたオモチャを放り出し、玄関へと飛んでいく。


「いらっしゃい」


妻が言う。


「ちょうど夕食出来たところだから、みんなで食べようね」


「やったー! カレーだよ、お父さん!」


三人が夕食を食べる様子を、男はただ眺めている。


「ママのご飯は美味しいなぁ。ご馳走様でした」


「ママ、美味しかったよ♪ ご馳走様!」


「全部食べて偉いな。よーし。食べ終わったから、ほら、じゃじゃーん、お土産だ」


「やったぁ! わぁ、カメ◯ライダー! お父さん、有り難う!」


「どういたしまして。今出しているオモチャをちゃんと片付けてから遊ぼうな」


息子達が遊んでいる間に、妻は明日からの泊まりの準備をして、荷物を大きめの(かばん)に詰める。


翌朝、妻は生ゴミを新聞紙でくるみ、燃えるゴミを袋にまとめて捨てた。

鞄を車に積んで、3人は海水浴に出掛けた。


海水をパシャパシャさせて、とても楽しそうに妻も息子も笑っている。


男は思う。

お前は俺の妻だろう?

お前は俺の息子だろう?

妻よ、俺のための馬と牛を何故捨てた?

息子よ、俺のための駅はどこへやった?


海水の中、男は妻と息子の足首を握る。


一緒においで。


俺達は夫婦だろう?


俺達は親子だろう?


俺達は家族だろう?

我が家の話ですが、祖母が死んで、後から祖父が死んだ時、祖父の死亡日がぎりぎりその年の初盆におさまる日でした。

あと一日ずれていたら、祖父の初盆は翌年に……っていう具合でした。

なので、祖母と祖父は一緒に初盆を迎えることが出来て、めでたし、めでたし……。


あと、お盆は地獄の釜の蓋が開くそうで、海には行くもんじゃない……とか。

お盆以降くらいからはクラゲもよく出て、クラゲに刺されたりもするので。


離婚後100日問題、という言葉をご存知でしょうか?

作品は死別にしていますが、前の婚姻が済んでから女性は100日経過しないと再婚が出来ない……というもの。

作品が再婚前か再婚後かは特に気にしていませんが、ただ、この作品を作っていて、元夫の初盆を迎える前に再婚も可能なんだなぁと思いました。

そう考えるとなんだか寂しい感じがしますが、離婚したくてしたくて……とか、やっと離婚成立っという女性からしたら、100日は煩わしい期間だろうなぁと思います。


R2.8.12短編「夏の光」を作成。

「夏の光企画」という企画に参加したくて、夏に光っていそうな物を沢山詰め込んで書いた作品。

短編「夏の光」にはオチは特に無く、ホラー要素もありません。

「初盆」の母子が登場する話です。


短編「夏の光」

https://ncode.syosetu.com/n8778gk/

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― 新着の感想 ―
[一言]  夏の光から回ってきました。  こっちの方が時間的に、後になるんですね。  ホラーになると共に、合わせて読むと、全体像が、明確になりました。
[良い点] 拝読しました。 夏の光企画より参りました。 ホラーですね。 キュウリの馬で駆けてきたお父さんは、さぞショックだっただろうなあと思いました。そんなやるせない思いから、妻と息子の足を掴もう…
[良い点] 銘尾友朗様の「夏の光」企画からお伺いしました。 俺が死んだら、別の男を見つけて……という作品が多い中、これは新鮮に映りました。 ただ、人間の気持ちはそう簡単に割り切れる筈もなく、こちらの方…
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