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消失のスターチス

作者: 幻中 飽那

こんにちは飽那です。まだまだ拙い文章かとも思いますが、読んでいただけると幸いです。

ジャンルはちょっと合ってない?かもしれません。

「君に会いたい」

それだけが、毎日思うこと。

何をしても、虚無感があって寂しくなる。


君は少し前に私から離れて、遠くまで行ってしまったから。

簡単には会いに行けない、そんな遠い場所へ。


そんな君の近くに行ける鳥が、羨ましくて仕方がない。

君を一番思っている私じゃなく、鳥なんかが君の近くにいる。


「鳥になりたい、空を飛びたい」

本当に君のことばかり考えている。


君のいない空間は、私にとってなんの色もない。

ただの「  」(空白)



ある日鳥に訊いた、空の飛び方。

でも、応えてはくれなかった。



君に会えないと、心が辛くて仕方がない。

私には君しかいなかったから。



そう悩み続けていたある日、私は一人の少年と出会った。

少し一人になりたくて、誰も来ないような草原へ来た時だ。


その少年には大きな翼が生えていて、まるで鳥のよう。

真っ白で綺麗で、それにとても驚いた。


それは翼が生えた人間なんているわけないし、見たら驚くのは当然だと思う。

でも、違うところでも驚いた。


それはその彼の顔が、あの人の顔に酷似していたこと。

似ている人間は3人いると言われているけど、そんなところじゃない。

もう「君」としか思えない、同一人物。



恐る恐る話しかけてみる。

まず、少年の名前を聞いてみた。

すると、彼と同じ名前。


まさか本当に……君なの?


「ね、ねえ。私のこと知ってる? 会ったことある?」


驚いていきなりそんなことを聞いてしまった。

私はこの質問の答えは幸せなものだと考えている。

きっと、きっと知っているはず。


いなくなってしまった君に会えるなんて、そんなないはずなのことがあってしまったのだから。

このくらい夢を見たっていいでしょう。


でもその答えは、残酷なものだった。


「知らない……誰?」


一瞬で私の期待は崩れ去り、嬉しさから苦しさへと。

でも――


「僕は名前以外思い出せない? から、もしかすると君を知っていたのかもしれない」


――その言葉で少しだけ、少しだけ心が和らいだ気がした。


それなら、思い出させればいい。……と。



君がなぜこんな姿になって戻ってきたのかも、本当に君なのかもわからない。

でも、少しでも希望ができたなら、君とまたいられるのなら手段は選べない。


相変わらず彼のことになると周りが見えなくなってしまう。

あの日もそれが原因で君を失ってしまったんだから。


……思い出したら、もしかしなくても君は私を拒絶するかな。

私のことを嫌いっていうかな。


たとえ君に拒絶されてしまうとしても、私は君に覚えていてもらいたい。

だから私のことを思い出して。



☆☆☆



君と出会って、三日が過ぎた。

あれから私たちは毎日あそこに集まって、思い出せるように手伝いをすることになっている。


私と君の思い出の場所、二人でよく遊んだ場所。

家にも行ってみたり。


周りの人には彼がみえていないのか何なのか気にしていないようだ。

たまに「鳥だ」と小さな子供が反応するので、もしかしたら鳥に見えているのかもしれない。


なぜ私には君に見えるのか。

もしかすると私の幻覚?

悲しさのあまりそんな症状まで出てしまった?


いや、違う。

触れるし、体温もある。

言葉も言動も彼だし、それは私の想像もつかないような言動もある。

全部全部、君。

はやく思い出してほしいなぁ。



それから色々まわった。

とっておきは、最後に残して。




一番楽しく遊んだ、山の奥。

親に内緒で二人でよく遊びに行った、花ばかりの草原。

君と再会したあの場所からそう遠くないところにある。



4日目待ち合わせてすぐにそこへ向かった。

これが最後の希望。




「ねえ、ここが一番君との思い出が詰まった場所だよ。あの岩の窪みは二人でよく取り合った岩の椅子。あの花が全然生えていないところは、君と私が荒らし回っちゃたんだよ」


ひとつひとつ、自分がまたはっきりと思い出すように、君に思い出してもらえるように。

丁寧に、丁寧に言っていく。


「あそこは、あそこは――」






「――二人の大好きな、スターチス?」



次の言葉を発しようとした時、私の耳には君の声が、君との思い出が発せられた。

そう、スターチス。

ここになぜか一輪だけ生えている、その花。


「思い……出したの?」


「うん、全部全部分かった。僕が君のそばからいなくなってしまったときのことも、今僕がここにいられる理由も、君との思い出を全部全部」



嬉しくて怖くて涙がこぼれた。

今君の心の中には何があるのか、どんな気持ちなのか。

君がここにいる理由が何なのか、どうすればいいのか。


――幽霊、なのか。




「じゃあ、さ。私のこと嫌いになったでしょ? あのとき、君のためになんて言って。それなのに結局は、君が……」



君がいなくなった、あの日のこと。




あの日もまた、二人で遊んでいた。

近くの公園でブランコにのったり、かけっこしたり。

そのとき、一羽の美しい鳥を見つけた。

君はあの鳥に触りたいって言って、あの鳥に目を輝かせていた。

その時私は、君に喜んでもらいたくて。

君の喜ぶ顔が見たくて、あの鳥を捕まえようなんてことを思ってしまったのだ。



あの鳥に夢中になって追っかけまわし、気が付けば車道に出ていた。

私に向かって走ってくる車。

大きな大きなブレーキ音が鳴る。

それだけど、回避できない。

私は死んじゃうのかと思った。


でも死んでしまったのは……君だった。





「私があの時、あんな馬鹿な考えをしなければ君がいなくなることは無かったのに。それなのに、それなのに私のせいで……」


「あれは僕を喜ばせようとしてくれたんでしょ? 僕はいなくなっちゃうことになったけど、あのときの鳥が僕に身体を貸してくれたんだよ。幽霊になって、冥界で彷徨っているときにね」


「冥界で?」


「そう。あの鳥がものすごく真っ白で綺麗だったのもそれが原因らしい。冥界の鳥はすべて真っ白なんだって。とにかくその鳥が自分のせいだからと、貸してくれた。でもあまりにも僕の身体には負担が強すぎて、君のことを忘れてしまっていたみたい。本当なら、きっとそれから君と会うことも無くそのままになっていたかもしれないね。でも君が僕を見つけてくれた。そのおかげで、僕の悔いは晴れて成仏できる」



じょ、成仏?

いきなり色々な情報がきて頭が追い付いていないのに、成仏って――。



それに、君は私のことを嫌いになっていない?

嬉しい、でもそれを素直に喜べない。


せっかくまた会えたのにすぐにいなくなっちゃうなんて、嫌だ。



「ま、またいなくなっちゃうの? 嘘だよね、嘘だよね?」


「ううん、申し訳ないけど、僕は消えちゃうみたいなんだ。それにこの身体は鳥に返さなくちゃいけない。僕だって、悲しいよ。せっかく会えたのに、思い出したのに、もう一生会えないなんて!」



そう言っている間に、私の目には君の姿が見えにくくなっている。

心が、頭が追い付いてくれない。

何か言いたいのに、口が動いてくれない。



でも、でももう会えないのだけは分かった。

だから、最後に一言だけでも。



「私、ずっと言いたかったの。君が好き、大好きなの! 今まで言ったことなかった、ずっと友達だよとしか言ってなかった。でも本当は大好き、君がいないと何も感じられないくらいに!」


「僕も、僕も大好きだよ。だからここまでまた会いに来た。これで本当にお別れだけど、また会えたらいいなって、絶対に会いたいって思ってる……本当に、ありがとうね!」




その言葉を最後に、君は消えてあの時の鳥だけしかいなくなった。

嬉しさも一瞬だった。

あの時以上に、心がぽっかりとあいたような気分になっている。



鳥は私の側に寄ってくる。

純白の、その鳥が。


慰めているように、こすり、こすりと。


『ごめんね』


不意にそんな言葉が聞こえた。

鳥の声?


この子が悪いわけじゃないのに、ここまでさせちゃってるんだ。

身体貸して、謝って。


それもこれも私のせい。

私はもう安心してもらおうと、心を強く。


「もう大丈夫だよ、本当に、ありがとうね!」


これでもう大丈夫。

私は立ちあがって、涙を拭った。


もう過去は、戻せないんだから――。

ここまでお読みいただきありがとうございました。誤字脱字があったら教えていただけると嬉しいです。アドバイスや感想も送って下さったら幸いです。

ちなみにスターチスの花言葉は「変わらぬ心」「途絶えぬ記憶」です。

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