言ってはいけないこと
稚拙な部分もあると思いますが、最後まで読んでもらえると幸いです。
ではよろしくお願いします。
「やっぱやめない? その、ご、ごめんてば、ほんとに……その、ちょっと言い過ぎたかなってところもあるかな……」
バターの香りが漂う部屋の中、外では目眩がするほどに太陽がご機嫌なのに、この部屋では窓もカーテンも閉めきって電気も付けないでいる。
薄暗い部屋に3人。
1人だけゴールできていない人生ゲームが部屋の真ん中に広げられている。
そして私は手首と足首を縛られてベッドに横たわっている。腕ごと背中側にまわされていて、指は動かせるがそれでどうこう出来るわけでもない。
壁に寄りかかってスマホをいじる黒髪の女の子。ちらっと私を見て目が合うとすぐにスマホを視線を戻した。
「あやちゃん! 助けて!」
私の呼ぶ声に一度こちらを見るも無視を貫き通すあやちゃんこと綾菜に絶望する。
そして、おちゃらけた目をしたふざけたアイマスクを手に、無言でゆっくりと私に近づく影。
腰まで伸びた髪を揺らしながら、その影が私に手を伸ばす。
綺麗に手入れされた髪がいつもなら惚れ惚れするのに、今この時だけは薄暗い部屋と相まって不気味さを醸し出す。
「あ! ちょっと本当にごめんてばっ! すみちゃん! 反省してます! ちょっと! せめて何か言ってよ! ごめんなさいごめんなさい! てかやっぱり私そんなに悪くなくない!?」
逃れようとするが、手足が思うように動かない。
膝立ちでもいいからと起き上がろうとするが、反動が大きすぎて反対側に倒れただけの結果となる。
すみちゃんこと純乃の魔の手がついに私の元へと届く。
体を捩り、必死の抵抗する。体の自由が利かないとはいえ、じたばたと体を動かす私に純乃が苦戦する。
「……動かないで」
「動くよ! てかあやちゃん助けてよ! あやちゃんも関係者でしょ!」
「……あやちゃんになすりつけるの?」
「そんなこと言ってないでしょ!? てかあやちゃんに聞いてるの! すみちゃんに言ってない!」
再度助けを求めるも、こちらを見ることもしない。多分あの指の動きはツムツムしてる。そんなこと思いつつも抵抗してると、純乃が痺れを切らした。
「あやちゃん、璃香さんを押さえて」
「なんでそんなに他人行儀な呼び方なの!? ちょっ、あやちゃんなんでこっち来るの!? ずっと無視してたじゃん!」
純乃のヘルプを聞くや否や、綾菜が軽やかに腰を上げる。ずっとツムツムしててほしい。
「…わたしの部屋よ。家に親がいないとはいえはしゃぎすぎないで」
「はしゃいでないよ!? あなたの目は飾りなの?耳もちゃんと機能してる?」
「わたしのあやちゃんを馬鹿にしてるの?」
「だからすみちゃんは黙ってて! てかほんとにごめんてば!」
「璃香」
「な、なに? あやちゃん」
「あんなこと聞いて、わたしは怒ってないと思った?」
「…………………………え」
「璃香」
「………ずっと何も言わなかったし、興味ないのかな、って……。というかあやちゃんに対して言った訳じゃないし……」
「……はぁ」
魔の手が4本となり私を襲う。
私の抵抗も虚しく、ついに私の目はアイマスクに覆われ、暗闇の中に視界がゼロになる。
ここまできたらもう腹を決めるしかない。
「急に大人しくなったね。聞き分けが良くて助かるわ」
「じゃあもう許してく……「何?」れませんよね…」
何も見えない中、耳元に何かが近づく気配がする。
「大丈夫、たったの5分だから」
耳元で囁かれて首筋が粟立つ。純乃の髪が顔にかかっているのが分かる。息をするたびにリンスのいい匂いが鼻を刺激する。
視覚が制限されているため、いつもより嗅覚と聴覚が敏感になっているのが分かる。
「お手柔らかにお願いします……」
ああ、どうしてこうなったんだろう…。走馬灯のようにここまでの出来事が頭を駆け巡る。
☆──────────────☆
時刻は昼11時頃。
綾菜の家に3人で集まって遊ぼうって話だった。今日は親がいないから、そんな理由だけ。特にやることも決めず、集まったらなんかしよう、みたいなふわふわした感じ。
『11時頃来て』というグループLINEを見て、集合時間を少し過ぎた頃に着くように家を出た。
夏がそろそろ始まろうかという少し日差しが強くなってきた頃。
途中、みんなで飲むために大きいペットボトルのお茶を買う。
綾菜家に着き、インターホンを鳴らして数秒後、
『鍵開いてるから入って大丈夫。入ったら鍵閉めといて』
スピーカー越しに綾菜の声が聞こえた。
「おじゃまします」と小声で言いながら家にあがり、言われた通り鍵を掛ける。
家に入るとバターの甘い匂いが充満していた。
純乃の靴が置いてあるのを確認。
綾菜の部屋に向かう。廊下に飾られた花が私を歓迎する。あまり花の種類に詳しくないけれど、おそらく百合の花だろう。ラッパ型に開かれた花びらが白く輝いている。
なんて言いながら入ろう。おはようだと時間的に遅いかな。こんにちはの時間かな。まあどっちでもいいか。
ノックをして部屋に入る。
「おはよ」
「璃香、おはよう」
「りっちゃん、おはよう」
「うん、今日は呼んでくれてありがとね」
おはようで問題なかったみたいだ。
部屋の中央にある背の低い丸机にはクッキーが盛られた皿が置いてある。その隣に買ってきたお茶を置いてベッドに腰掛ける。
私を「璃香」と名前だけで呼ぶのは、今日家に招待してくれた川合綾菜。何やらスマホを弄っている。私はいつも「あやちゃん」と呼んでいる。私と同じクラスで高校2年生。
首筋が時々見えるくらいの長さのショートで、ツヤツヤ光る綺麗な黒色の髪は、ずっと見ていると吸い込まれそうになる。
いつも気怠げで物静かで、背が高くて大人な雰囲気を醸し出している。
私を「りっちゃん」と呼ぶのはベッドに寝そべって漫画を読む百瀬純乃。私はいつも「すみちゃん」と呼んでいる。こちらも同じクラス。
明るい茶色の髪を腰辺りまで伸ばしている。ウェーブがかかったその髪は遠目に見てもその美しさが分かる。手入れを毎日欠かさないそうだ。素直に感心する。
「クッキーいい匂いだね、あやちゃんが焼いたの?」
「うん、なんとなく気が向いたから」
「美味しそうだね、料理得意だったっけ?」
「別に。親がいなかったし、なんか早起きしちゃって暇だったから作っただけ」
なんということもなさげに受け答えする綾菜。
「コップ取ってくる。先食べてて」
「うん、ありがとね。でも待ってるよ」
「そう」
綾菜が部屋を出ていくのを見送る。
それを見て、漫画を読んでいた純乃がむくりと起き上がる。
「じゃあわたしたちは準備しとこっか」
「なんの?」
「人生ゲーム。あやちゃんが掃除してたらたまたま見つけたって」
「ほー懐かしい。いいね」
「やった! 宝くじが当たって10万円臨時収入!」
「ちょっ、すみちゃん運良すぎない? というか、私の人生…」
「純乃、ズルしないで」
ゲームは終盤に差し掛かり、純乃のトップ独走が続いていた。早々に結婚して、子供が産まれ、ルーレットを回すたびにお金が増え……まさに理想的な人生が続いていた。
綾菜は、まあ普通な人生を歩んでいる。
そして、私は…本当に酷かった。家が燃え、大学受験に失敗し、恋人に逃げられ、株が大暴落して…よく生きてこられたな、私。
「りっちゃん、前世で何したらそんなにひどい人生歩めるの?」
「無様」
「あやちゃんストレート過ぎないかなぁ!? いやすみちゃんも十分ひどいこと言ってるけど」
そして私が石油王と突然結婚するような大逆転も、純乃が没落貴族並みに大転落するということも無いまま2人は先にゴールしてしまった。
あと少しでゴールなのにそこまでが遠い。ルーレットを回す度に何かを失っていく。
「りっちゃん…」
「璃香…」
「やめて! 憐まないで!」
そう言ってる間に、また3万円が手元から無くなる。何これ? 本当に前世の私何したの?
「…………もう私の負けでいいよ」
もう勝てないと諦め、大の字で床に寝転がる。『諦めたらそこで試合終了』?そんな言葉知らない。最後まで残っていたクッキーを口に放る。
「その…ごめん。りっちゃんがこんなに弱いなんて…」
「….ふっ」
「今あやちゃん笑ったよね!? すみちゃんもちゃんと慰めてよ!」
私が喚く中、綾菜はもう飽きたのかスマホを弄っている。相変わらず冷めているというかクールというか…。
「いいもん別に……。所詮ゲームだし……」
「負け惜しみね」
「っ! ゲームはすみちゃんに負けたけど現実では勝ってるもんところがあるもん!」
「……一応聞いておくけど何が?」
ここで私が退いていれば良かった。けれど完膚なきまでに負けたこと、それを煽られたことに腹が立った。
私はむくりと起き上がる。
今にして思えば何でたかがゲームにこんなに熱くなっていたんだろう。
私が純乃に勝ってるところ、成績はまあ同じくらい…。顔は自分で言うのもアレだけどどっちも変わらず可愛いと思う。じゃあ私が純乃に勝ってる部分、それは…
「………うのくせに…」
「………………今なんて言った?」
純乃が私の方に体を寄せて聞き返す。綾菜は興味無さげにスマホとにらめっこしている。
「貧乳のくせに!!」
純乃の胸に指差してそう言った、いや言ってしまった。
私の胸は誇れるほどに大きいわけではないが純乃よりは確実に、いや断然大きい。だって私のは揺れる。私のはDある。純乃はおそらくB。Cまでは絶対にいってない。これだけは純乃に圧倒的に勝っている。
だけどそれは禁忌の言葉。
瞬間、純乃が凍りつく。
時が止まったみたいに固まったまま純乃がこちらをにっこりと見つめる。
綾菜は体勢を変えて寝そべる形でスマホをタップしている。
「ゲームには負けたけど他に勝ってるところがあるもん!! 1回だけの負けなんかじゃなくて、この先ずっと勝ち続けられる物があるもん!!」
「……………は………」
「ん? なに? 聞こえないよ。胸だけじゃなくて声まで小さくなっちゃったのかな?」
純乃がやっと意識を取り戻し何か言葉を漏らす。よく聞き取れず耳を傾ける。
「言いたいことはそれだけ?」
「え」
あっという間だった。
どこから取り出したのか、ロープで私の手足を縛る。いつの間にか体の自由が奪われていた。そして手際良く私をベッドに運ぶ。
「え」
「言ってはいけないことを言っちゃったね、りっちゃん」
「え、何これ? これどこから出したの?」
「今からりっちゃんは10分間くすぐりの刑を受けてもらうわ」
「え、やだ」
「拒否権なんて無いよ」
じりじりと私に近づく純乃。ここでやっと私は置かれている状況を冷静に把握した。これはやばい。
身動きできないこの状態でくすぐられる? 10分? そんなの精神が絶対にもたない。
「ちょ、ちょっと待って! ずるくない? 私はすみちゃんにバカにされたのに、私がすみちゃんをバカにしたらこの仕打ちって」
「……確かにやり過ぎかもね」
「! じゃあもう許し……」
「5分にしてあげる」
「……せめて3分」
「5分」
「………………はい」
「あやちゃん、アイマスクある?」
「そこの2段目」
綾菜がスマホを見ながらタンスを指差す。
ああ、アイマスク……。そんなものまで……。私はどうなるんだろう……。純乃が部屋の電気を消し、カーテンを閉める。
☆──────────────☆
そして現在に至る。
まさか純乃がここまで怒るとは思っていなかった。綾菜も胸を気にしてるなんて思っていなかった。確かに綾菜は純乃よりももっと小さいけど、ずっと何も言わなかったから……。
「大丈夫、たったの5分だから」
「お手柔らかにお願いします……」
そして私の長い5分間の拷問が始まる。
視界が一切遮られているため、どこから攻められるのか分からない。暗闇の中恐る恐る純乃のくすぐりを待つ。足か?お腹か?身構えて待っていると、純乃はまず私の脇腹を指で突いた。
「ク゛ウ゛ッ」
体がビクンと跳ね上がる。予想外すぎる不意打ちに、およそ女の子が出してはいけない声が出る。
「ちょ、それくすギュイ゛ッじゃない゛っ!」
喋る暇も与えず純乃が脇腹を突く。これはまずい。耐えられないとかそういう問題の前に
「く゛ふ゛っ」
純乃が右の脇腹、左の脇腹と交互に突く。
「う゛」
なんていうか、私の女の子としてのプライドが壊れていく。
「待って゛! それだけは無し゛!」
私の願いが届いたのか純乃の攻撃が止む。今のうちにと息を整える。
「はぁはぁ……くすぐりでお願いします…。はぁはぁ」
「そんなことをおねだりするなんて、りっちゃんはとんだ変態さんだね」
「はぁはぁ……もうなんとでも言って」
こんなの聞いていない。なんと言われてもいいからデュクシだけはやめてほしい。
今度こそ、とくすぐりに構えて身を固くしていると不意に体を抱き起こされる。すぐ近くから純乃の息遣いが聞こえる。いや、2人分の吐息が耳を包む。
「もう1つ、許してあげる方法があるけど、聞く?」
左耳から純乃の諭すような声が聞こえる。私の髪を優しく撫でつける。私の耳たぶをぷにぷにといじる。純乃の手の温度がが伝わる。頬が次第に熱を帯びていくのが分かる。
「……璃香、こっちの条件を飲も?」
右耳から綾菜の艶かしい声が聞こえる。唇が触れるんじゃないかと思うほど近くから声が聞こえ、頭から爪先までビリビリする。体がゾクゾクと震える。
「……一応聞く」
なんとなくその条件は予想がつく。けれど、もしかしたらという一縷の希望にすがる。
「簡単だから大丈夫。りっちゃんが意識を変えればいいだけだから」
「でもこの場限りの嘘は許さないからね?」
あ、これやっぱ予想通りだ。だって前にも同じような前置きをしてから言われたことがある。それは、
「できるならわたしたち2人とも」
「決められないならわたしだけ、もしくは純乃のどちらかだけでいいから」
まるでセリフを用意していたかのように2人が息を合わせる。暗闇の視界の中、2人の声だけが脳に響く。漏れ出す吐息に混ざったバターの匂いに頭がクラクラする。
「「百合に堕ちてわたしたちを好きになって」」
ほら、やっぱり。
2人の百合が私を百合に堕とそうとしてくる。
私の腕をがっちりと掴んで離さない。何回目かの百合堕ち勧告。でも私の答えは決まっていて──
「──ならない」
部屋に静寂な空気が流れる…わけでもなく、私が断ると2人はさっさと離れる。触れていた部分が冷えていく。
「そう。じゃあくすぐりだね」
「は」
それからはほとんど覚えてない。2人の手が脇、足の裏、お腹を容赦なくくすぐる。脇腹突かれた時に3分くらいは時間経ってたはずなのにいつの間にかリセットされて5分間きっちり拷問を受けた。ひどい。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
一応まだ続く予定です。
これからもよろしくお願いします。大体20000文字以内になる予定です。