第三節 教えてミーシャ
ビリーとミーシャは家に帰ってきた。ビリーとミーシャはコートをそれぞれ椅子に掛け、その椅子に二人とも座りストーブで温まるのであった。外はまた昨日のように冷たい風が吹き、雪が降り始めていた。
ビリーとミーシャはストーブの火をじっと見つめているのであった。
「あのさぁ、ミーシャ。さっきのことだけど……。やっぱり何かした?」ビリーが言った。
「はい、してしまいました」
ビリーはまた火を見ながら言った。
「それってやっていいものなの?」
「ダメだと思います」ミーシャは答えた。
「ふーん。やっぱりミーシャって人間じゃないの?」
「いいえ、今は人間です。でも普通の人間とは言えないのでしょう。普通の人間にこんなことができてしまったら、きっと永遠に生き続けようとしてしまうのでしょう」
「そうかもしれないね。僕も死にたくはないからね。それにそんな便利な力が自由に使えるのならお母さんを生き返らせたいかな」
「お父さんはいいのですか?」
「お父さんはいいんだよ。生まれ変わったら今度はちゃんとした貴族の子供になるって言ってたから。生き返らせたらかわいそうだよ」
「それはいけませんね。生き返らせてしまっては」ミーシャは微笑んで言った。
「ミーシャ。でもやっぱりその力は使っちゃダメだね。それと朝やってたあの占い? 見たいなやつ。あれは目に見えないからまぁいいけど、なるべく控えてね」
「わかりました」
「それと、気になってることがあるんだけど……」
「何でしょうか」
「ミーシャが受けた罰ってなんなの? もしかして、今日見たいなことを前にもやっちゃったの?」
ミーシャは頷き答えた。
「はい、してしまいました。私がまだ天使であったとき、亡くなるはずの人を助けてしまったのです。ある女性が子供と一緒にいまして、理由はわかりませんが彼女とその子供は冷たい雨の中凍えていました。そして彼女が力尽きようとしていました。その時、女性が自分を助けてほしいというのです。私は困りました。そんなことをすれば只では済まないことが分かっていたからです。その女性は涙を流し必死に訴えてきました。そしてその子供が彼女にとってどれくらい大切な存在なのかが伝わってきました。その言葉に私の心は動かされ、感情に任せてその女性を助けてしまったのです。本当に情けない。その後、私は自分のしている仕事に疑問を感じるようになりました。そして『また次、また次』と人を生き返らせていきました。歯止めが利かなくなってしまったのです。気が済んだところで、私は天に戻ろうとしたのですが、飛べなくなっていたのです。振り返ると翼がなくなっていました。彼女も少し経った後亡くなってしまったようです。それで私は罰を受け、地上に落とされたのだと思いました」
「なるほどね。そういうことだったのか。それはつらかったね。でも僕はミーシャのこと情けないなんて思わないよ。きっとその女性にとってミーシャは本物の天使に見えたと思うし、僕も今そう思ったよ。でもミーシャ、それじゃこれからまた罰を受けてしまうんだね。人を助けることは良いことだと思っていたけど今は少し違うような気がするよ。ミーシャがそれで悲しい思いをするなら僕はミーシャのことを優先するよ。助けなくたっていいんだ」
「ありがとうございます。話たらなんだか少し楽になった気がします」
ミーシャはニッコリ笑い、ビリーはそれに答えるように口角を上げた。
「それであのおじさんを助ける前と後で何か変化はあったの?」
「いいえ、これと言って変わったところはありません。何か失ったのかもしれませんが今は特に何も感じません」
「そうか、それなら良かった。でも何かあったらすぐに言ってね」
「はい、ただ何もないということは、私はもうこれっぽっちも天使ではないからなのかもしれません」
「うーん。なんて言ってあげたらいいのかわからないけど、まぁとりあえず今日はもう休もう。明日もあるんだし」ビリーが困った顔で言った。