第五節 老人と天使
エドの事務所。エドはミーシャを椅子に座らせる。
「そこに座りなさい。っで、君の名前は何というんだい? それと、どうしてビリーと?」
「ミーシャと言います。昨晩凍えているところを助けてもらいまして、今に至るのです」
エドはさらに質問した。
「そうか、ミーシャ、私には君がまだ子供に見えるから、家出でもしたのではないかと思っている。お父さんやお母さんはどうしたんだい?」
「そういったご心配には及びません。私に父や母はおりませんので」
エドは、申し訳ないことを聞いてしまった気がしたが、さらに言った。
「それはどういう意味だい。もしかして、戦争とかで亡くなってしまったのかい?」
「いいえ、そういうわけではありません。どうしてかと聞かれれば、答えがないわけではありませんが……」
「それは一体何だい? おじさん、君のことを知りたいんだ。教えてくれないか」
ミーシャは下を向き黙り込んだ。それを見たエドは一旦話すのをやめた。少しの間の後、エドは言った。
「まぁ、とりあえず。それは置いておこうか。問題はこれからどうするかだ。ミーシャ、これからどうするつもりなんだ」
「わかりません……」
「そうか、このままビリーの家にいてもいいが、ビリーだって自分の暮らしがあるんだ。おまえはずっとビリーの稼ぎで暮らしていくつもりか?」
ミーシャは首を横に振った。
「それじゃ、仕事をせねばならん。わかるな」
「はい、私はここで働けばよいのでしょうか」
「別にそれでもいいが、それは最後の手段だな。他の仕事を見つけてくれ。この街の職場案内所があるから、そこで仕事を探してくるといい。日雇いでもなんでもいいから。こういうのは早くやってしまったほうが楽だしな。ビリーが場所を知ってるから一緒に行ってきなさい」
「はい、わかりました」