第四節 孤独な少年
ビリーは空を見た。空に浮かんだ雲は掠れ、晴天が広がっていた。空気はひんやりして、一度息を深く吸えば肺が一気に冷え込んだ。
ビリーが通う学校は地元でも有名な名門校である。なぜビリーがこんな学校に通えるのかというと、それはエドのおかげだった。
父がエドの工場に幼いビリーを連れてきた時のことである。ビリーが色々な部品や道具を指さし、質問をし始めたのである。それをはじめは子供の言うことだと何となく答えていたが、段々エドの方からいろいろ話すようになっていた。
そしてビリーはいつのまにかエドの工場に通うようになっていたのである。ビリーは直ぐにいろんなことを覚えた。半田ごての使い方からコイルの奇麗な巻き方まで手取り足取り教わった。
その後、母親を病気で亡くし、父も戦争で帰らぬ人となってしまった。そんな境遇を知ったエドはビリーを引き取り、親代わりとなったのである。ビリーの希望もあり、今は一人で両親と暮らしていた家に住んでいる。エドはとても心配したが、毎週掃除を欠かさず行うこと、食事はしっかり朝昼晩とること、身だしなみはきちんとすること、などなど細かい条件を出し、できなくなったらエドとその仲間がいる家に住むことにして、妥協したのである。エドはたまに様子を見に行き、部屋が片付いているかどうかを見に行っている。
ビリーがボーっと歩いていると前からエドが歩いてきた。そしてエドが手を振り言った。
「おはよう、ビリー。今日も元気かい」
「うん。元気だよ。エドも今日は元気そうだね。こんな朝早くからどうしたの?」ビリーが答える。
「今日はな、お前さんがちゃんと部屋の掃除とかしとるか確かめに行くんだよ」
「そうなんだ。今日だっけ、そういえばエド、今日は何かとても大事な用事があった気がするのだけど、何だったっけなぁ。ほらあれあれ」ビリーは焦りを隠しながら言った。
「ん、何にもないぞ。大丈夫だ」
ビリーはエドにばれない様に、あくまで平静を装い、言うのであった。
「いやいや、何かあった気がするんだよ。何だったけなぁ。あーこれは一旦、工場に戻って確認すべきだと思うな。うんうん」
「そうか、それならビリーの家を確認してからすぐに工場に向かうとしよう。それからでも間に合うだろ」
「いやいやいやいや、これはとっても大事なことだったし、今から確認しないと間に合わない気がするんだ」
「何か隠してるだろ」エドがビリーの目をしっかり見て言った。
ビリーは動揺してしまい、答えるのであった。
「その、今は家にお客さんがいて、急に行くとビックリすると思うんだ。だから今日は家に行ってほしくないんだ」
「なるほどな。わかった。そのお客さんはいつまでいるんだ?」
「わからない……」
エドは首を傾げ、言った。
「なんだ、そのお客さんは、野良猫か何かか?」
「いや、そういうわけじゃないよ。普通の女の子だよ」
「まさか家出でもしたのか? それだとなおさらほおってはおけんなぁ」
「それが両親とかのことは話してくれなくて、もしかしたら、僕と同じかもしれない」
「う~ん。わかった。じゃ、とりあえず今日は家に行くのはやめよう。ただ、警察とかには相談しなければいけないな。届け出なんかが出ていないか今日は見てくることにしよう。その後のことはまた考えよう。それでいいか? ビリー」
「うん。ありがとう」
「それとな、今日、学校が終わったらその子を工場に連れてきなさい。話はその時詳しく聞くとしよう」
「うん。わかったよ。今日連れていくね」