第一節 目覚め
ミーシャは目を開けた。ベットに横になっているようで、真っ白な天井を眺めていた。ここは一体、どこだろうと考えようとするが、日の光が眩しいせいか、頭の痛みがそれを許そうとはしなかった。
ふと目を横にやるとビリーが目をつむって椅子に座っていた。それがビリーであることに気がついたのは、幾分か時間が経ってからのことである。いつもよりおとなしく、よそ行きの服を着ていて、髪の毛も綺麗に整えられていた。一瞬、どこの貴族の子供かと思ったほどである。
ミーシャが言った。
「ビ……ィ」
声が出ない。しゃべりたくても喉が渇いていて空気が通り抜ける。ミーシャは咳をして、収まるのを待った。
咳に気が付き、ビリーが目を開けた。そして、ミーシャのことをじっと見た後、まるで珍しい生き物にでも不意に出くわしたかのような表情をしていた。
ビリーが言った。
「ミーシャ……」
『おはよう』ではなく、こんな風に急に名前を呼ばれたということは、自分が何か悪いことをしてしまったのではないかとミーシャは感じるのであった。
「ミーシャ、良かった。本当によかった」
緊張していたビリーの表情は緩み、今度は急に泣き始めた。
「良かった。良かった。本当によかった」
まるで壊れたラジオみたいだとミーシャは思うのであった。とりあえずこの雰囲気からして、ミーシャは自分が怒られている訳ではないことに安堵した。そして、なぜビリーは泣いているのか全く理解ができなかった。
「ちょっと待ってて、今から先生呼んでくるから」
ビリーは椅子から腰を上げ、カーテンを開けて、どこかに行ってしまった。先生とは一体だれだろうか、まさか学校の女教師ということはないだろうし、他に先生と呼べる人物はエドぐらいだろうか、でもビリーはエドのことを先生と読んだりはしない。
直ぐに足音が戻ってきて、ビリーが今度は嬉しそうに言った。
「気が付いたなら大丈夫だってさ、あとで行くって」
ミーシャはうなずき、思うのであった。
「全く、この人間ときたら、泣いたり笑ったり忙しいのです」
ビリーはその先生が来るまでの間、今まで何があったのかを話し始めた。
「本当にびっくりしたんだよ。急に倒れちゃうんだもん。僕、風邪ひいてたから、いろいろやること、遅くなっちゃって、それで、どうしたらいいかわからなくて、でも、病院に連絡しなきゃと思って、連絡したんだ、それで、エドもきてくれて……」
ビリーの話を要約するとこうである。
ミーシャはビリーが風邪をひいた日に急に倒れ、病院に搬送された。その後、直ぐに医者が診断したがどこも異常がなく、気を失っているだけではないかと言われた。しかし、ミーシャは二十日間も目を覚まさず、医者もお手上げであった。
「二十日間! そんなにですか、私はそんな長い間の飲まず食わずでいたのですか……」
「えっと、一様、その刺さってるのがご飯なんだって……」
「これは一体!」
「ご飯だよ」
「もしかして、私はもうこれからずっとこれでご飯を食べなければならないのでしょうか! あーなんてことを、もう私の体はその先生とやらに……、シクシク……」
「いやいや、点滴ってしらないの?」
「点滴、なんですかそれ」
「口から入らないときは血管に直接流し込むんだって」
「なんて恐ろしい!」
「一袋でサラダ一人前ぐらいの栄養しかないんだって、だから、ずっと刺さってたよ」
「あぁーーー!」
「でも、たまにお水もあげなきゃいけないんだ」
「そんな植物みたいに……」
「だからずっとそばにいたんだ」
「まぁ、それは本当にありがとうございます。それと、ご心配おかけしました」
「大丈夫だよ。でも本当に良かった。目が覚めて、これなら直ぐに退院できそうだね」
ミーシャはうなずき、ベットの背中を高く上げ、医者が来るまでビリーとなんでもない話を続けるのであった。ミーシャは自然と微笑み、元気を取り戻していった。




