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晴天  作者: よた
第一章
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第三節 寒い朝

 ビリーは目を覚ました。いつも聞こえる目覚まし時計の音ではなく、優しいぬくもりを感じて、昔にもこんなことがあったかもしれないが、思い出せない。ふと目を横にやると彼女がいた。彼女は布団を被りビリーのベッドに頭だけ乗せて寝ていた。ビリーは少々びっくりした。起こさないようにそっとベッドを降りて朝食の準備に取り掛かった。


 今日の朝食はいつも通りパンとハムエッグ。ビリーは慣れた手つきで皿に盛り付けた。すると彼女が起きてきた。ビリーは彼女を見てほほ笑みながら言った。


「おはよう。朝食作ったから食べて」


「ありがとう。いただきます」


 すると彼女は手を合わせ、小さな声でお祈りを始めた。ビリーは彼女と向かい合わせになって座り、一緒にお祈りをした。ビリーは両親が亡くなっていたこともあり、少し懐かしい感じがした。彼女は少し俯きながらパンをちぎって食べた。


 ビリーは言った。


「そういえば、自己紹介がまだだったね。僕はビリーって言うんだ。エドっていうおじさんの工場でバイトしてて、あと、学校も行ってるよ。勉強はあんまり得意じゃないけど……」


 ビリーは彼女の目を見た瞬間、その後に続く言葉が出なくなった。


 少しの間の後、彼女は言った。


「私はミーシャと言います。昨晩はありがとうございました。それに朝食までいただいてしまって、本当に感謝いたします」


「いやいや、そんな改まってお礼なんて……」続けてビリーが昨晩から考えていたことを我慢できずにミーシャに聞いた。「あの……。昨日の夜のことだけど……。差し支えなければって言うのも変だけど……。というか、差し支えあると思うんだけど、何があったか教えてもらってもいい? 答えによってはこのままここにいた方が良いかもしれないし……」


 彼女は少し俯いて考えてから言った。


「わかりました。信じてもらえるかどうか分かりませんが……」


 ミーシャは真剣にビリーに言った。


「私は……私は空から落ちてきたのです。つい最近まで翼があったのですが、その……親といいますか、上司といいましょうか、とにかくそういった存在から罰をうけまして、あんな状況になってしまったのです……。信じていただけるでしょうか」


 ビリーはミーシャが外国語をしゃべっているように感じたので、頭の中でミーシャがいったことを整理した。


「えーと、まずは『空から落ちてきた』か……。それで『翼』があった……。飛行機の操縦か何かだろうか、それから『親』と『上司』が『罰』を……。寮みたいのが嫌になってにげてきたのか……。ここらへんって工場多いからなぁ。飛行機を作ってるところも確かあった気がする。そうだな~。きっと、そうに違いない。まだ落ち着いていないだろうし話がまとまらなかったのだろう。うんうん」


「ビリーさんは天使というものを信じていますか?」


「えぇっ、天使……。教会の壁とかに描かれてる? ま、まぁ信じてるよ」ビリーは答えた。


 信じているかと聞かれたらそう答えるが、こんな面と向かって言われることはないからビリーはびっくりした。同時にこれから心の奇麗な人にしか見えない服を買わされるのではないかと感じるのであった。座っているのでわからないが、心の中では後ずさりしていた。


「正しく、私は天使なのです。というか、今は少々異なるのですが」


「いきなり天使だって言われても信じられないなぁ。何か信じられる証拠みたいなものがないと」


 ミーシャは困ったような顔をして言った。


「わかりました。少しだけであれば大丈夫だと思いますので……。こちらに来てください」


 ミーシャはビリーを窓の前に立たせて言った。


「あの初老の男性が見えますか?」


 ビリーは頷き、ミーシャが続けて言った。


「あの方は、残念ながら、もう長くはありません。おそらく数時間後に亡くなってしまうでしょう……」


「それで、今日はあのおじさんが死ぬまで追跡するの?」


「そういう訳にはいかないのでしょう。ビリーさんに今日は何かご予定があるかもしれませんし」


「うん。今日は学校に行かなくちゃいけないからね。証明するなら別の方法でたのむよ」


 ミーシャが少し考えたあと言った。


「それでは、こういうのはいかがでしょうか」


 ミーシャはビリーの手を優しく握った。


「えっと、あの、ちょっと、なんだよ」ビリーが恥ずかしそうに言った。


「今日一日、ビリーさんが元気いっぱいに過ごせるように、お祈りです」


「恥ずかしいってば、もう……。っていうかそれならあのおじさんにしてやれよ」


「はい、終わりです」ミーシャが少しほほ笑んで言った。


「じゃ、行ってくるね」ビリーはまた恥ずかしそうに言った。


「行ってらっしゃい」ミーシャは手を振りながら言った。


 ビリーは手を振り、ドアを閉めた。


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