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晴天  作者: よた
第六章
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第四節 慈悲

 ミーシャは、何もない暗い部屋に連れていかれ、ただ孤独な時間を過ごしていた。今が昼か夜かもミーシャにはわからなくなっており、目を開けてもそこには暗闇が広がっているだけだった。ミーシャは目を閉じ、思い出に浸るのであった。それはミーシャにとって、ここでの一番の楽しみとなっていた。


 ミーシャがそんな妄想に浸っていると、ドアが開き、法衣を着た男が入ってきた。ミーシャは眩しさに妄想を邪魔され、少し顔が強張った。


 男が言った。


「どうか恐れないで、私はあなたと話したいだけなんだ」


 ミーシャは恐れてなどいなかったが、男がそのように思っていることを否定する気もしなかった。


「誰ですか、眩しい、今は誰とも話したくありません」


 男は穏やかな表情でミーシャのそばに行き、しゃがみこんだ。ミーシャはその男から、離れ、拒絶しようとした。


「なぜ、私と話したくないのかねぇ。私はあなたのためにここに来た」


「私はあなたのことなど知りません」


「この服装を見れば、私がどんな職業かわかると思うのだが……」


「わかりません。あなたが何者かなど」


「そうですか、構いません。それでも私はあなたのために祈りましょう。わが友よ……」


「いいえ、私はあなたの友達ではありません」


「我々は皆、罪を背負って生まれてくるのです……」


「いったい何の話でしょうか、慰めているつもりですか、それとも皮肉でしょうか」


「人はいつか死ななければならない、しかし、そのような恐怖にどうして歩いて行けるのでしょうか……」


「現に、私は歩いているではありませんか」


「分かります。きっとあなたは絶望の中にいるのでしょう」


「見れば誰でも分かると思うのですが……」


「大丈夫です。きっと神様はあなたを助けて下さるでしょう。私は何度もこの仕事をしてきましたが、救われなかったものなど、誰一人いなかったのです」


「なぜそのようなことが言えるのでしょう、それに、その神様は私を救うことはないでしょう」


「いいえ、そんなことはありません」


「いいや、だから、そういう意味ではありません」


「それでは、あなたは完全に消滅するために生きているのですか」


「ええ、そうです」


 男はミーシャを憐れむように言った。


「あなたは可哀そうな人だ……」


 ミーシャはその男が早くここから居なくなってほしいと思った。


「迷える少女よ、あなたは誤っている。誤っているのです」


「何がでしょうか……」


「あなたはきっと疲れているのです。だから誤っている事に気が付かないのです」


 ミーシャは目を閉じ、また妄想を始め、彼が去るのを待った。彼は時々大きな声を出したが、その言葉がミーシャに届くことはなかった。彼は汗を流し、必死に何かを訴えていた。


そして、去っていくとき、その男はなぜか涙を流しているようであった。


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