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晴天  作者: よた
第六章
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第一節 檻

 ミーシャは警察署から離れた留置場に移送された。何もない暗い檻に入れられ、退屈な時間を過ごすのであった。たまに聞こえる看守のラジオの音がミーシャの気を紛らわせたが、それも少しの間だけであった。飯は一日三回、決まった時間に来る。朝になれば看守が檻を警棒で叩き、夜になれば非常灯以外の明かりはすべて落とされた。しかし、真っ暗になる訳ではなかったので、ミーシャにとって、眠るには少々明るかった。


 ミーシャは一人で考えるのであった。


「看守のラジオから聞こえてきたが、私が凶悪な殺人犯と疑われており、誰もが私を犯人だと思っている。それを間違いだと言っても信じるものなどもう一人もいないのだろう。ところで、あの弁護士が言っていた目撃者、あれはいったい誰だろうか。私を見たと言ったのだから、私のことを多少は知っている人物ということになるのではないか。一体、誰が」


 エドの工場、職場案内所、テイラーホテル。


 ミーシャは今まで行ったことのある場所をすべて思い出し、そこで誰と出会ったか、そこで何を話したかを思い出した。しかし、その目撃者となりえる人物は、数えきれないほどいる上に、ミーシャから見て、みんな良い人であった。


「やっぱり、私のことを陥れようとする人物なんて思い当たらない」


 ミーシャは弁護士にその目撃者とは誰かと尋ねたのだが、目撃者を保護するとか何とか言って、教えてはくれなかった。勘違いという線もあるが、警察が動いて拘束したのだから、よほどの確証があってのことであろう。


「無意識……。いや、そんな訳……」


 ミーシャは自分のことが信じられなくなってきた。地上に落とされてからというもの、いろいろなことができなくなり、無理やり使えば、代償を払わされる。今までは人を生き返らせなければ大丈夫かと思っていたけど、やったことに対して対価が決まっていて、その中に自分が制御できなくなるということが含まれていると考えれば、今回の件は少し納得できるような気がした。確かに、使えば使うほど自分の力が弱まっているし、自分が何かの影響を受けやすくなっている可能性がある。


「もし本当にそうだとしたら、私はこれからどうなってしまうのか……」


 ミーシャは恐怖に怯えた。このままでは自分が悪魔のような存在になってしまうのではないかと。無意識に人を殺し、気が付けば目の前に死体の山が転がっている。そんな光景がミーシャの頭の中で投影された。


「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、絶対に嫌だ!」


 ミーシャは思っていたことを口に出した。すると、同じ檻にいる女が声を上げた。


「うるせぇ! 何時だと思ってんだてめぇ!」


 女は起き上がって、ミーシャを叩こうとした。ミーシャはうずくまり、自分を守ろうとした。すると、気が付いた看守が走ってきて言った。


「おい! ここで問題を起こすな! また捕まりたいのか!」


 女が言った。


「ちっ! ったくなんだよ! 分かったよ、おとなしくするって!」


 看守が女を睨み付け、握った拳を解くように言った。そして女は吐き捨てるように言って自分のベットに戻った。


「次はねーからな。このガキ!」


 看守が言った。


「言った意味わかってないだろ! いいか! お前も、そこにうずくまってるお前も! おとなしくしろ!」


「はいはい、すいませーん」


 ミーシャは泣き止むまで息を殺し、深い眠りに入っていった。

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