第三節 孤独
葬式の次の日、ミーシャは朝目覚めた後もじっと天井を見続けていた。ビリーが起こしに来てくれるというような、叶いもしない期待を抱きながら。
ビリーがいなければ、朝起きて学校に行く意味がない、ビリーがいなければ働く意味がない、ビリーがいなければ生きている意味がない。ミーシャは何をする気も起きないのであった。ふと目を横にやるとビリーが椅子に掛けっぱなしにしていたコートが見えた。ミーシャはそのコートを片付けるためにベットを降り、歩き出した。
コートをビリーの部屋に持って行こうとするとビリーのにおいがした。まだビリーがここにいるような感じがしたので、「ビリー……」とミーシャが小さな声で呼びかけた。部屋には朝日が差し込み、ビリーの部屋を照らしていた。
顔を洗い、服を着替えた。朝食を作り、それを食べる。当たり前の光景がすべて違うように見えた。
ミーシャはビリーと出会う前のことを思い出した。ビリーと出会う前、ミーシャは名も知らない女性を助けた。その女性が子供のことをどれほど大事にしていたのかが今はよくわかる。もし自分が代わりになれるなら、今すぐ代わりになってあげたい。そのための時間がわずかでも与えられたなら、私は喜んで命を差し出そう、と思うのであった。
天使でありながら、愛する少年の命を救うことができなかった。死期が遠ざかるように導いてあげることができなかった。そのことはミーシャの天使としての羞恥心を粉々に砕いた。
ミーシャは椅子に座ってビリーとの思い出を走馬灯のように頭の中で繰り返し、人が通り過ぎていくのを窓からただ眺めるのであった。




