第二節 沈黙
数日後、ビリーが死んだ。医者と看護師が必至で蘇生を試み、ミーシャは何度も繰り返しビリーを呼んだが、返事が返ってくることはなかった。ビリーは石のように冷たく、目はまるで人形のように乾き、天井をただ見つめているのであった。医者が来たのは昼過ぎだったが、時間の感覚などはなくなり、外は既に暗くなっていた。
ミーシャは医者に、ビリーがなぜ死んだのか聞いた。食べ物が悪かったのではないか、もともと何か病気があったのではないか、気付かないうちにケガをしていたのではないかと。
医者は結局、「分からない」と答えるだけであった。過去にも例がない病で対処のしようがないのである。医者はあきらめ死亡の診断を行い、ビリーに付けた医療器具を外した。
それでもミーシャは、ビリーに声をかけ続けた。
「ビリー……。ねぇビリー。夕ご飯の時間だよ……。今日はね。ビリーに教えてもらったカレーライスを作ったんだよ。一緒に食べようよ。ねぇビリー……。なんで答えてくれないの……」
ビリーはその日、病院の地下にある死体安置室に運ばれ、ミーシャはエドとその様子をただ眺めているのであった。ミーシャは無機質なあの箱にビリーが入ることを想像などしたくなかったが、目の前でその箱にビリーが入れられ、運ばれていくのであった。
そのあと直ぐに病院が手配した葬儀屋が来て、これからの予定を立てた。明日中に写真や礼服、そのほかのアクセサリーを用意し、式場を抑える必要があった。「ビリーに親戚がいるか」と葬儀屋がエドに聞くと、「いるにはいるが、呼んでも来ないだろう」と答えた。念の為ということがあるかもしれないからと葬儀屋は「連絡できる者には、電報を出すように」と言った。加えて、勤め先のホテルに連絡することをミーシャに指示した。ミーシャは電話に出た従業員に「弟が亡くなった」と伝えた。すると従業員が直ぐにフレンダを呼び、電話を渡した。フレンダはミーシャのことを心配して気遣う言葉をかけた。その後、式に参加したいので時間と場所が分かり次第、追って連絡するように言った。
告別式は昼から始まり、夕方に終わった。ミーシャは墓の前でしばらく座り、自らの無力さをビリーに謝罪するのであった。




