第二節 家路
ビリーが歩いていると冷たそうな石の階段で女性がうずくまっていた。しかも彼女は極寒のなか布切れ一枚を体に巻き付けているだけのようであった。周りには誰もいない上に、この道は人通りも少ない。
ビリーはその状況を目の当たりにして、追いはぎにでもあったのかと思った。こういう時は、関わらないほうが良い、厄介なことに巻き込まれたら面倒だ。でも、家に帰るには彼女の目の前を通らなければならない。回り道するにも少々距離があるし、この雪だ。仕方がないから何も起きないことを願いながら気が付かない振りをして横切ることにした。
彼女の目の前を通り過ぎようとしているとき、彼女がこっちを見ているような気がして、ビリーは罪悪感を感じた。
「なんだよ、もう」
心の中でビリーは考えた。
「あの人、このままずっとここにいるのかな。もしそうだとしたら死んじゃう……」
ビリーは服の中に入れていたサツマイモを少し触ってまた考えた。
「これ食べるかな」
ビリーは彼女を通り過ぎた後に振り返り、彼女のもとに歩いて行って声をかけた。
「あの……」
彼女はとても悲しそうな顔をしていた。目は真っ赤に腫れており、ついさっきまで泣いていたようだった。震えており、今にも倒れてしまいそうだった。ビリーはその光景に言葉を一瞬失ったが続けた。
「大丈夫ですか」
彼女はじっとこっちを見ているが何もしゃべらない。しゃべらないというより、寒くて声も出ない様子に見えた。ビリーはサツマイモを彼女に渡して言った。
「これあげるね。よかったら食べてよ」
彼女は、会釈してそれを両手で胸のあたりにもっていった。彼女は震えながら言った。
「ありがとう」
ビリーは彼女がなぜそのような状況になってしまったのかが気になったが、それは今聞くべき事ではないと感じ、言った。
「うん。いいよ。気にしないで。それはそうと……。寒いでしょ。家に来なよ。そんなにいいところじゃないけれど。ここよりはましだと思うよ」
「はい……」彼女はうなずいて言った。
彼女はまた泣いてるようだったが、年下の少年に泣き顔を見られたくないのだろう。少年の少し後ろを歩いてうつむいていた。その間彼女はずっとサツマイモを掴んだままでいた。
二人はビリーの家に到着した。ビリーはコートを脱ぎ、乾かすために木の椅子に引っ掛けた。すぐにストーブに火をつけ、彼女を前に座らせた。その後ビリーはタンスから服をもってきて彼女を着替えさせた。
「これ、お母さんのだけどやっぱり少し大きいみたいだね」
ビリーは彼女の姿を初めてちゃんと見た。白い肌にブロンドの髪、青い瞳が目に入った。誰がどう見ても美人でビリーは思わず見とれてしまった。
「どうかされましたか?」
「え、なんでもないよ……。そうそう、今日はあの部屋のベット使いなよ。僕はもう寝るから、おやすみ」
「なにも食べないのですか?」
「あぁ……。そのー。それが晩御飯だったんだ……。えっと、別に気にしなくていいからね。作るのがめんどくさいだけだから。明日になったら朝に何か食べるし」
そう言ってビリーは自分の部屋に行きベットに横になった。晩御飯のお金を節約したかったのだが、彼女にサツマイモを渡してしまったせいでそれができなくなったのである。ビリーのお腹はぐうぐうと音を立てていた。
ビリーは寝ながら考え事をしていた。彼女は一体どうしたのだろうか、あんなところで一人で……。しかも、布切れ一枚でいたのだ。理由を知りたいが、誰が見ても只ならぬ状況の今、あれこれ詮索するのは失礼だし、何より彼女を傷つけてしまうと思った。
とりあえず明日、彼女と今後のことについて話そうと思った。それに暖かい朝食を用意してあげれば、少しは心を開いて、本人からいろいろ話してくれるかもしれない。