第一節 雨と雪の日
ある朝、ビリーは父の死を知った。ビリーの父は戦争で亡くなった。手紙に遺体は残っていないとあった。ビリーはその手紙を受け取ってどうすれば良いのか分からなかった。父が戦争に行く前に頼りにしていた母親も病気で亡くしていたのである。ビリーは手紙を見てうなだれ、泣き崩れるのであった。
――それから、一年後――
大雨の中、遠くから少年が走ってきた。鉄と煉瓦の街。大通りには彼以外、誰もいない。
「はぁ、やっとついた。ビショビショだよまったく」彼は鉄筋コンクリートの建物の前で止まると、重たい鉄の扉を開けて建物の中に入った。
「お疲れ様でーす。エドさーん。いますかー」
薄暗い作業場で老人が椅子に座っていた。老人は手を止めて言う。
「おー。ビリー来たか。学校お疲れ様。今日お前さんがやることはいつもの黒板に書いてあるから、頼んだよ」
「はーい、了解でーす」
ビリーは黒板を見て、今日やることを確認した。年季の入った黒板には、古いラジオの修理をやるように書かれており、ラジオの故障箇所や必要な部品などが丁寧に書かれていた。
「うーん、ずいぶん前のだなぁこれ。わかるかなぁ」
ビリーは慣れた手つきでドライバーを使い、その古いラジオを分解し、壊れた部品を取り換えた。
「はー終わった。ちょっと休憩」ドライバーを机に置き、彼は目を閉じた。
ビリーは今年で十四歳になる少年である。昔から何かを作るのが好きで、今は父親の古い友人であるエドが経営している工場でアルバイトをさせてもらっている。エドの工場は主に小型のラジオを製造していて、故障した際には修理も請け負っている。
突然、寒気がしてビリーは目を覚ました。
「わぁ、しまった! もうこんな時間だ……」工場の壁にかかっている時計を見た彼は、思っていた以上に時間が過ぎているのに気がつき、焦った様子で作業に戻った。そして、残った雑用を済ませると、彼は工場の出口へ向かった。
「エド、お疲れ様」工場を出る前、ビリーはエドに声をかけた。
「おぅ、風邪ひくなよ。そうだ、これ持ってけ」
エドはストーブで温めたサツマイモを新聞紙に包んでくれた。ビリーは嬉しそうな顔をしてエドにお礼を言い工場を出た。
ビリーが寝ている間に雨は雪へと変わっていた。雪はビリーの足首まで積もっており、直ぐに足先の感覚がなくなるほどの寒さだった。でも、エドがくれたサツマイモのおかげで服の中はポカポカだった。