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「アリサさん?」


クリスの声で、亜理沙は我に返った。


「どうしたの?」


「あ……えと……ですね……」


たった今、心中に去来したものを、なんと告げていいか分からない。


「…………外、出ようか」


クリスの言葉に頷いて外に出るも、来たときの騒々しい様子とは違い、亜理沙は俯きがちにふらふらと浮かぶ。

無意識に意識しろ……にも気が回っておらず、上昇や下降を繰り返すので、何度かクリスが強めに呼び止める羽目になった。


何度目かで呼び止められた時、亜理沙は、クリスが自分に声を掛ける度、周りの人が彼をチラチラと振り返っていた事に気が付く。


「私……幽霊で……」


「うん?」


「それでクリスに迷惑かけてたのに気づいてなかったんだ……」


「……」


亜理沙の呟きを聞いたクリスは、かしかしと自らの頭を掻いた後、剣呑な目付きになって言った。


「アリサさんさ、頭良くないよね」


「?」


「考えなしで即行動だし、突っ走る上に制御利かないし、隣に居るオレのこと時々忘れてるし」


「ええと?」


「アホだし、バカだし、間抜けだし、それから……」


「……言い過ぎでは?」


突然、並べられたクリスからの悪口に、亜理沙は戸惑う。

確かに、たった今、多大なご迷惑をかけていた事に気づいた訳だが、そんなに不満を溜め込んでいらっしゃるとは考えが至らなかった。


早く言ってくれればよかったのに……そう、亜理沙が口にしようと思ったら、クリスの文句にはまだ続きがあった。


「会ってから一日も経ってないけどさ、アリサさんがそんな感じだなんて、最初から解ってんの!解っててついてきてって言ったの!一緒に行こうって言ったの!オレが!自分で!決めて!言ったんだよ!!」


クリスは怒っている。

亜理沙の懸念した事とは、なぜか、違うところで怒っている。

そして、なんだかとても寂しそうだと感じたのは、亜理沙の気のせいだろうか?


不意にクリスが手を差し出して来たので、亜理沙もつられて手を出したら、手首の辺りに紐が巻き付けられた。


「これでアリサさんの姿が霊視出来る人間から以外でも見える様になる。土台がエーテル体だから液体を掴む様な感覚だけど、一応、こちらからでもアリサさんに触れる事が出来る……本来は仕事で捕縛用に使うやつだから、そういうの、ほんとはあまりアリサさんには使いたくないんだけど」


亜理沙からは自分の見え方の違いは分からないが、手首に紐を巻かれた辺りで、視界に映った、こちらを遠巻きに見ていたらしき人が一人、ぎょっとした表情をしたので、確かに違いがあったのだろう。


「オレが霊と話してて周りから奇異の目で見られるなんて、昔からだから気にしてない。組合の建物の中に入る時にああ言ったのは、ああいう狭いとこで余計な摩擦を起こしたくないからだし、外で待つって言ったアリサさんに一緒に中に入れって頼んだのもオレだ」


「分かった?」と言って、クリスはその手で亜理沙の頬を挟んだ。

ふよんとした不思議な感触を両頬に感じる。


「クラゲになった気分」


「うん、その、前後の流れを無視した、能天気な感じこそアリサさんだ」


「やはり、言い過ぎでは?」


クリスが笑った。

つられて亜理沙も笑う。


「じゃあ、用事は終わったことだし、アリサさんの姿も周りから見える様になってることだし、ちょっとこの辺を散歩がてら見て回るか」


「賛成の賛成!」


「何で二回言うの?」


「大事なことなので」


なんだよ、それ……と、またクリスが笑った。


「クリス、クリス」


「ん?」


二人並んで移動を開始したが、亜理沙は、言い忘れた事があったのを思い出し、クリスの袖を引きながら名前を呼んだ。


振り返ったクリスの耳元で、そっと、告げる。


「ありがとうございます」


「そういうの、自重して」


すると、ちょっとだけ顔を赤くしたクリスから抗議を受けてしまい、亜理沙は首を傾げるのだった。

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