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探偵国崎と助手小日向  作者: 今日の空
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アニマルクッキーを『その二』

今日の空です。

最後までお付き合いして下さいませ!

新たに始めた捜査は少し難航した。聞き込み調査で、様々な矛盾が生じたのだ。




三十代前半の男性。

「この会社は、しっかりと労働基準法に沿っているよ。残業なんて珍しいくらいだ」


四十代後半の女性。

「あそこの部署は、お局様が厳しいんですよね。特に新人の女性社員には」


二十代後半の女性。

「今時珍しいくらいにホワイトな会社です」


三十代前半の男性。

「他の部署は知らないが、ウチの所は先輩は優しいし、悪くはないと思う」


五十代前半の男性。

「給料は安い、上司が妙な契約をしてくる、その上責任は丸投げ。その他もろもろだ。最悪とは言わんがかなりブラック企業だ」




「部署によって職場環境は大きく異なるようですね」

「少し引っ掛かるなぁ」

探偵はアーモンドチョコをぽりぽり食べながら楽しそうな顔をした。助手はコテリと首をかしげる。

「何に引っ掛かるのですか?」

「待遇の差に。綺麗な容姿の者ばかり『ホワイトな会社』と言っている気がしないかい?」

「言われてみれば…」

「一年も務めれば、会社の大体の事はわかるはずだろう? 今回話を聞いた内に新卒は居たかい?」

「若干名いました」

「そうか。では、次の聞き込みの纏めは、容姿順だ」

「気が引けることこの上ないですね。わかりました。これは仕事と割り切るしかないですね」

紅茶に波紋が広がった。

「一応確認するが、君の美感覚は特殊ではないだろうな?」

「普通ですよ!」

そう言う助手のケータイからは、妙にリアルなナメクジのストラップが垂れていた。




調査の結果は探偵の予想通り。容姿の綺麗な者は『良い会社だ』と言い、反対の者は『ブラックな会社だ』と言った。加えて部署は容姿できっぱり別れていた。

「…いっそ清々しいですね」

「そうだな」

部署によって意見が異なる理由がハッキリとした所で、疑問点が浮上した。

「和田さんの容姿は、別に悪くはないと思うのですが…」

「まだ別に何かがあるのだろうな。社内いじめ…なんてあったら最悪だろう。まだ、証拠はないがな」

そこまで楽しく推理できたようで、探偵は喜色満面の笑みを浮かべている。

「先生、その証拠を集めるまでが仕事ですよ」

「解っているとも」




「和田さんねぇ。んー、うわさだと、とんでもないポカをやらかしたらしいけど…」


「上司殴ったらしいわ。よく首にならなかったわよねぇ。怖い怖い」


「普段おとなしい…。というか、生気がない…みたいな? いつも、早く来て遅くまで働いてますよ」


「一度、声をかけたことがあるのですが、睨まれましたね。あれはゾッとしましたね。うわさ通り、何かやらかしたのだと言われても納得がいきます」


「私見たわ。和田さんが、突然怒鳴って上司に掴みかかった所。何事かと思ったら、上司にミスを指摘されただけでカッとしてしまったらしいわ。普段おとなしいのに…。人は見かけに寄らないのねぇ」





「…和田さんの悪評ばかりですね」

「他人の悪口と他人の失恋話ほど盛り上がる話はないからな。昔からこの手の話題は途絶えない」

探偵はマカダミアチョコをひょいと口へ放り込んで、嫌な過去から逃げるような遠い目をした。

「どうやら、上司に掴みかかったのは本当らしいですね。証人が複数人います。警察沙汰にはなっていないようですが…」

「…重要な事が解っていないぞ助手よ」

「重要な事?」

「そうだ。上司に掴みかかった件について、とても重要な事だ」

「犯人もその動機も解ってますし、証人も充分いますよ」

「いいや。そこではない」

「では…一体…」

「その掴みかかった動機を周囲に()()()人物だよ」

「…あ」




聞き込みの結果、一人の人物像が浮上した。

佐藤 忠、三十七歳。社長の長男。

「少々頭が良いそうで、部署全体の雰囲気を掌握していると言っても過言ではないそうです」

「助手の人脈と情報収集能力には、いつも驚かされるな」

「昔から、コミュニケーション能力が高いと言われてますからね。ただ、友達止りですけど」

助手は自分で言って落ち込んだ。

「いい人紹介しようかい?」

「先生の知合いは、ほとんど高年齢の方じゃないですか。僕は、年が近くて、趣味が分かち合える子が良いです」

「…いつか、出会えるといいな」

ナメクジストラップを許容してくれる相手と。と、心の中でそっと付け足す。その時、


ガチャン! バンッ!

「…っはぁ、はぁっ、あのっ、助けて下さい!」


派手な音を立てて、依頼人が入ってきた。




「夫が、手紙を、あのっ、どうしようっ」

「落ち着いて下さい」

依頼人は青い顔をして、ひどく取り乱している。汗を拭う余裕も無いようだ。

「はい、吸ってー、吐いてー」

深呼吸で少し落ち着きを取り戻したらしく、文章で話始めた。

「昨日、夫が帰ってきて、手紙を、置いていきました。それで、その、手紙に、死にます、じゃないけど、つまり、そう言う意味の文があって…」

助手の顔から血の気が引いていく。

「っ…」

探偵は、バシッと助手の背中を叩いて言った。

「息を吸え。そして吐け。慌てる暇があるならば、先にする事があるだろう?」

「はい」

助手はパチンと頬を叩いて切り替える。

「その手紙や、旦那さんの言動に、居場所の心当たりはありますか?」

「わからない。これ、手紙です」

依頼人はおぼつかない手でクシャクシャの手紙を差し出した。封筒にも入っていない手紙はメモのような簡素な物だ。


『君夏へ。ごめんなさい。

昔君と見た月は綺麗ですね。

さようなら。忘れて下さい』


「月…」

「何か思い当たる所はありますか?」

「結婚してすぐに、〇〇公園で一度だけ月を見に行きました…。でも…本当に…」

「行きましょう!」

探偵はいつの間にか事務所から姿を消していた。助手は車のキーが無いことに気がつく。

「先生が車を表に回してくれています。大丈夫です。人は思っているよりも死にませんから」

「…そう。そうですね」

依頼人の顔色が、少しずつ戻ってくるのを助手は確認した。依頼人の心のケアも助手の役割なのだ。




公園の坂はとてもキツイ。山の上に展望台があるというが、木々が邪魔をして一向に見えない。

「…」

誰もが無言になる。息が切れ、足と空気が鉛のように重くなのし掛かる。

ガサリと音が聞こえた。

「! 智則さん!?」

カラスが飛び立つ。

「あ…」

視界が開けたその先に、スーツ姿の男性が立っていた。

「よく、ここが解ったね…」

展望台のライトに照らされた顔には、クッキリと隈があった。力なく笑った智則は手すりに身を預ける。

「やめて!」

君夏が智則に駆け寄って引っ張っると、簡単に倒れた。

「さっきから、何度も手すりに寄りかかったんだけど、ドラマみたいな不良工事や、突風が吹いて転落なんて事はなかったよ」

死ぬ勇気もね、とポツリと付け足す。

「うん、良かった…」

二人ははらはらと涙を流して抱き合っていた。


「…よがったですね」

「そうだな。だが、君まで泣かないでくれ」

「良いじゃないですか」

「慰める役割は苦手なんだ」

助手は顔をむちゃくちゃに拭って探偵に笑みを向ける。


それから、ポツリポツリと事実を聞いた。

上司に掴みかかったのは本当だ。だが、他の部下に自分のミスを押し付けようとした上司に腹が立った事が、その件についての真相だった。そこから、上司達による陰湿ないじめ、及び家に帰れない程の残業が増えたという。

話しかけて睨まれました、というのは、その日は徹夜続きで視界が霞んでいたため、顔を見るために目を細めた事から生じた誤解だった。


「…疲れた。息をすることに」

「そう…」

「そんな会社なんて辞めてしまえばいい」

探偵がばさりと書類を置いた。

「奥さん、こちらが証拠です。請求は後日」

「ありがとうございました」

「まあ、二人でこれでも食べながら沢山話し合ってください。甘いものは、疲れた心と身体にダイレクトに栄養が届きますから」

探偵は夫婦にアニマルクッキーを差し出した。

「タクシー呼びましたから、気をつけてお帰り下さい」

「何から何まで、ありがとうございます!」




後日、依頼人は請求書を取りに来た。

「そう言えば、あの手紙に『月が綺麗ですね』なんてありましたけど、その日は雲があって月はおろか、星も見えなかったんですよね。智則さんの覚え違いかしら?」

依頼人はおっとりと首をかしげる。

「そうなんですか?」

「おや、助手は気がついていると思ったが…」

「先生は解ったんですか?」

探偵は大胆不敵にニヤリと笑って

「もちろんさ」

と言った。


月が綺麗ですね(あいしています)…。つまり、あの手紙はラブレターでもあったわけだ」

「ラブレター…」

「さて、私も純香(すみか)に合いに行く。あのよなイチャイチャを見せつけられたのだ。私も愛する妻の顔が見たい!」

国崎はそう言って立ち去ってしまう。


「妻も恋人もいない僕はどうしたらいいのでしょうか」


小日向の呟きは、むなしく響いて消えていった。

最後までお付き合いして下さり

ありがとうございます!


深夜テンションです。

明日早起きしなくてはならない時に限って

寝るのが遅くなって、寝不足です。


精進します。

今後とも気にかけて頂ければ

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