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剣豪世界に召喚されたのはアニオタという人種でした。  作者: 西尾 和希
『第1章』 夢抱きし者の『剣闘祭』
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第3話『受け継いだ意志』

コノミネ ケントは、剣を取ることを決意した。

それは自己満足の塊などではなく、王の為、誰かの為となることを信じての行動である。

最後にそれが自己満足になろうとも、ケントはもう良かった。

というか、現実を抜け出した時、既にどうでも良くなっていた。


「まあ、剣を取ると言ってくれたのは良いんだけど…」


王様は、何を言いたいのか。

部屋中をウロウロとして、自分の頭を指でトントンと突いたり、顎に手を当てて首を傾げる。

何を悩んでいるのだ、いいからとっとと、


–––––––––––––––待て。


何故、今自分は剣を取りたいと願った?

異世界に興味はない、仕方なくやったことだと思っている。そのはずなのだ。

そんな事を思っていた。


「––––––おい、聞いてるのか?」


「悪いけど、何も聞いてない。」


自分の悩みに精一杯で、王様の話を聞こうとすらしてなかった。これが高校での授業に影響したのだろう。

そんな話は今は関係なく、話を聞く体制(横になってダラける)になった。


「説明しておく…お前の為の剣は無いし、お前に剣を用意するのは正直面倒臭いから街まで出て買ってこい。」


それはなんとも辛い宣告、動くのが面倒臭い彼からしたら兎に角、面倒臭い。彼は所謂『自宅警備員』であり、何も出来ない状況にあったのだ。

と言っても、剣がなくては剣豪も何も無い。


「あー、んあー、とりあえず…『伝説の剣』とかいう伝説武器のある主人公無双系RPGとか、竿みたいな初期武器があるわけじゃねーぞって事?」


「…あーるぴーじー?なんだそれは。」


「ゲーム苦手な感じな女の子かッ!しかもテメェが言っても需要は微塵もねえ!」


王様の発言に、荒かけていた心が和らいだのか、ツッコミを簡単にもこなせるようになっていた。「ふざけてるのか」と心の底からツッコミを入れたかったが、後ろ頭に掌を当てて、やれやれ、と微笑んだ。


「…まー、いいか。要は金さえ出せば剣は買えるってわけだな?そう言う事なら、金出してくれねえと話にならんよなぁあぁ?」


「君に渡すのは1000コインだけだ、それ以上はお断りさせてもらう。」


「えーーっとぉぉ……」


ケントは心の奥で「まだだ、まだ早い」と誰もが思うツッコミを抑えた。

勿論抑えつけるのも難しいが、仕方ないから、慎しむ事にしておいた。

後で街の誰かにこの鬱憤を晴らしてやるのだ、ケントはそう心に誓った。


「……気ィ狂うな。とりあえず買ってくりゃいいんでしょ…」



王様は、掌の上に10枚のコインを出していた。何の躊躇もなく、ケントはそのコインを略奪するかのようにポケットにしまった。

「じゃあ、行ってくるよ」と軽快な動きで部屋を出て、 街まで行こう…とした。


しかし、部屋を出てからは何もかもが最悪だった。

無駄に扉の多い一階の部屋。

顔と肉体美が恐ろしく、強烈な違和感と笑いを掻き立てる執事。

仕上げに、金庫が25個ある謎の部屋に、父母の部屋と思われる暖かな雰囲気を醸し出している部屋。

とにかく、面倒臭くなるくらいだった。

結局、その3m弱のゴツい執事が、似合わない超小型(大きいのだが巨漢が持っていると小さく見える)エコバッグを抱えていたので、バレないのを前提とした隠密な尾行をして、何とか街らしき場所に辿り着く事は出来た。


「ほぉー…意外と広いものなんだなぁ…」


街は大きく、猫耳娘やら茶髪の麗人、美男美女が集っていた。その腰には、鞘に守られた短刀や片手・両手剣が掛けられていた。

此峰このみね 健斗けんと』は改めて憂鬱になっていた。

本日二度目の憂鬱に、身体が慣れてしまっている。

そして、その肝心の憂鬱な理由は、実に簡単だ。コミュ力は人相当のモノがあり、場の空気を乱す事なく人にモノが聞ける性格なので、店の場所は把握した。そして、金を盗まれたわけでもない。

何がダメなのか?



『お金が足りないんです。』



致命的。致命的なミスをしでかした。

そう、昔から彼はそうなのだ。真面目に取り組めばどんな事柄でもこなせるのに、人がいなくなってから思うのだ。聞き忘れてしまった、と。そして、判断を知り合いに任せてしまう。

狩に行って報酬を貰うのは、ファンタジー特有の手だが、剣のないケントが狩に行くのは恐らく無謀、というか即死してセーブポイントに戻るのがオチだ。

そもそも、セーブポイントがあるのかも分からないのだが。


「……どうしたものか。」


普通の格好をしたケントが、店の前の階段で頭を抱え込んでいる。

「悩んでも仕方ない」と割り切って移動を始めるが、此処でトラブルが発生するものだ。

そんなケントの隣に、いつの間にか少女が一人。


「ねえ、あんちゃん。」


「…あ?なんか用か?」


「お金、欲しいな。」



–––––––––何言ってるんだ、この幼女。


見ず知らずの女の子だ、顔はおろか、初対面で小遣いを要求してくるような知り合いはまずいない。

しかし、困ったのは女の子についてではない。現実で仲の良い同僚は、今此処にはいない。判断は全て彼の勘に委ねられた。


「…えっと、兄ちゃん、剣を買わなきゃ行けないんだわ。この金は、会社の同僚がくれたいわば軍資金であって…」


「あんちゃん嘘ついた!だってどう見ても無職だもん!」


「一応フリーターだよこのクソガキィ!」


「ふりーたー?なんか知らないけど、とりあえずあんちゃん無職ー!」


「くそぉ!覚えてろよ!必ず騎士になって見返してやっかんな!後悔すんじゃねえぞ!」


子供相手にマジギレするいい歳した高卒フリーター、『此峰 健斗』。誰も周りにいなかったから良かったが、誰かに見られていたら相当痛い人だっただろう。実際、ケントは現在進行形で涙を眼に浮かべているのだから。

そんなこんなで、安売りしている武器商人の店に着く事ができた。


「へい、らっしゃい。」


「あの、安くて硬くて太い武器ってありますか?」


「…兄ちゃんよぉ、逆に安売り店で良い武器を求めるのがいけねえんじゃねえの?」


「そうなんだけど、1000しか手持ちが無くてよ。」


「………ほお?」


1000しか持ってない、と聞くと、武器商人のおじさんは何かを思い出したかのように、腰の剣を抜いて、ケントに差し出した。


「持って行け、兄ちゃん。タダだ。」


「は?え、え?」


それは剣らしい剣。

剣の名前は『スリーブ』。初期武器らしい名前で、切れ味もそこそこという代物だ。意外と軽く、振りやすい点でいうなら合格点だろう。


「…あの、どうしてこの剣を、俺に?」


「…兄ちゃん見てっと、昔の自分を思い出すようでよぉ…金、ねぇんだろ。遠慮すんなって。」


この世界に来て、久々に感じる人の優しさ。昔、会社で振り落とされた経験のあるケントは、この優しさをしみじみと思い出す。同僚に励ましてもらい、深々と頭を下げたこともあった。


「…ありがとうございます、本当に。この礼は、いつか…」


「礼なんていらねーべ。ただよぉ…」


武器商人は、何かを思い出すように空を見た。そして、空を掴むようにグッと握った。その空を握る武器商人の姿は、他者からは情け無く視えたかもしれないが、ケントには『何かを掴み取ろうとしてる』そんな意志があるように視えた。


「……俺は、昔は武器商人なんか夢じゃなかった。でも、自分の実力はこんなもんじゃと思い込んじまってよ…兄ちゃん、大きくなるんだぞ。俺の代わりに、その剣で。」


「…おうともよ。」


ケントは、頭も上がらなかった。よく周りを見れば、1000で変える剣など無かったのだ。武器商人のオッチャンは、慈悲でくれたのでは、とケントは思ったが、オッチャンの瞳からは、ケントの行く末、先を見据えんとしていた。

だから、信じる事にした。それしか、今の自分に出来ないからだ。

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