おやすみなさい
昔見た夢を基に書いていきます。なぜかこれだけ鮮明に覚えている。
とある国から日本に向かう飛行機の中に一人の青年がいた。海を越えて故郷に帰る長いフライトに飽きたのか、備え付けのテレビで映画を見ることもせずに大きなあくびをしている一人の青年である。飛行機の窓からは一面の青い海と少しの雲が見えるだけで、目的地に着くまではまだだいぶ時間がありそうだ。
「眠い………」
この青年、名前を園沢学(そのざわまなぶ)という、大学生活も三年目になろうという学生である。
学はこの三年間で取れる限りの必要な単位を修得し終えたのを機に、夏休みを利用して海外を放浪していた。バックパッカーほどの気概はなかったが観光旅行ほどの気楽さもない、ある意味あらゆる束縛から解放された旅行であった。地図はあれど計画はなし、意欲はあれど伝手はなし、ただ自身がこれまでアルバイトで貯めたお世辞にも潤沢とは言い難い旅費と登山で使用されるような幕営装備だけを携えて、ほぼ徒手空拳で行われたその旅は彼を時に歓喜させ時に苦しめた。
言葉の壁や飲食の問題、文化の違いから治安の悪さまで、彼はそれまで聞いたことしかなかった話を実際に体験したのだ。
「もう一回行きたいなぁ」
そう呟きながら彼は持っていたカメラに目を落とした。そこには旅行先で出会った様々な事物が静止画や動画として収められている。知らない現地の人とパブで飲み明かした時や日本にはない圧倒的なスケールの自然の写真、怪しい露店で売られていたゲテモノやちょっとエッチなハプニングを偶然収めた動画。どれも学が自力で手に入れた彼自身の宝である。現地警察のご厄介になったり危ないおっさんに絡まれたりしたこともあったが、彼の心に後悔の文字は微塵もなかった。
(みんな元気かなぁ)
学は普通の学生である。両親は健在だし二人の弟がいるし、それと白い猫を飼ってもいる。大学には同じゼミやサークルの友達も人並みにいる。そして旅先で出会った名も知らぬ人々と楽しく過ごしながらも、心の片隅で家族や友人たちと会いたくても会えないことにさみしさを感じることも多々あった。だから学は家族や友達に今回の旅の話をするのが楽しみであった。
(早く着かないかなぁ)
物思いに耽りながらも、彼の頭は舟を漕いでいた。あと何時間もあるフライトを座って過ごすのだから無理もない話である。学は目を閉じ体をシートに預けた。次に目を開けたときには空港についていることを願いながら、彼はゆっくりと意識を手放していった。
そんなに長くはならないはず。傭兵の話もあるし………