準備時間 -4-
振り返り、 《誘拐犯が既に立ち去っていた》 事を皆に 伝える。
皆の瞳に安堵の色が見える。その雰囲気に誘われるかのよう、緊張から開放された。
富士 「安心するのは、早いと思うの。」
富士の言葉に、ハッとさせられる。
世良田 「(誘拐犯が居なかった事に、安心していたのか!? 俺は、臆病者の馬鹿か!)」
自分の心の弱さに気づき、心に蓋をした。
このままでは生き残れないと、脳が警告音を発している。
二度と恐れを抱かぬよう、感情の無い機械に変わる必要がある。
心が壊れて、人を辞める事になったとしても。
世良田 「富士、すまなかった。俺がノロノロしていたばかりに、誘拐犯を取り逃がしてしまった。」
富士の方に向き直り、頭を下げた。
富士 「いいのよ。世良田くんは、とても勇気ある行動をしたわ。誘拐犯の動きが一歩、早かっただけよ。」
「誰の非でもないわ。」と、首を横に振った。
その仕草を受け、「本当に、すまなかった。」と、二度目の謝罪をした。
「誘拐犯からの言葉。あれは、何だったんでしょうか?」
沈黙を打ち破る声が、近くから聞こえてきた。
男の話しは続き、「ゲームを始めるとか何とか。一体、どういう意味で言ったんでしょう?」と、誰もが疑問に思っている事を口にした。
男 ―琢磨― の発言を受け、自分の中に様々な疑問が浮かび上がってくる。
富士 「言葉通りの意味かも知れないわ。」
村山 「つまり、ここに居る皆で 【おにごっこ】 をする、という事ですか?」
富士 「そうなるわね。」
富士の返答を受けた、琢磨は、 《うーんっ》 と唸り込んでしまった。
とりあえず自分の疑問を横に置いて、琢磨のフォローを優先する事にする。
世良田 「琢磨。あまり考え込むな。誘拐犯の考えなんて、俺達には到底理解する事なんて出来んよ。」
村山 「確かに、世良田さんの言う通りかも知れません。ただ、誘拐犯に言われるまま、行動するのは危険なんじゃ無いかと思いまして。」
琢磨の言い分は理解できる。
だが、このまま教室に留まるのも、危険である事は、変わらないだろう。
富士 「村山くんの言う通り、誘拐犯に従って行動するのは危険かもしれないわね。でも、この場に留まるのも同じように危険だと、私は思うわ。」
改めて、富士の冷静さに畏怖の念を抱く。
村山 「じゃあ、誘拐犯の指示には従わず、それでいて、この場から離れる、という方針でいかがでしょうか。」
世良田 「(富士だけでなく、琢磨も落ち着いているな。まぁ、情報が少ない以上、琢磨の方針を支持するのが、無難だろう。)」
同意する意味も含めて、琢磨へ目配せを送った。
他の皆は口々に「タクマくんの言う通りにしよう」や、「安全なところに逃げよう」、「外に出られる出口が無いか、調べないといけないわね」と、誘拐犯の指示に従わないつもりで、話し合っている。
富士 「・・・。」
皆の発言を静かに聞きながら、富士は、何かを考え込んでいる様子に見えた。