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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

グコク

作者: 七志野代人

短編。シン・ゴジラ支援(のつもり)

誰だ、映画にあわせてはっちゃけようとか思い立ったやつ!

俺だよ!

 後日、目撃者の少年はこう供述した。

 「あれは、まるで焼き殺されて、泣き叫んでいる人間に見えた」と――

 ……


 少年は(おのの)いた。

 何故か?

 彼の見つめるガラス張りのビルに、赤い、巨大な影が写っていたのだから。

 広島観光に行って、東京に帰ってきて――

 ああそうだ、家族とはぐれてしまったんだ。

 探そうと歩き回って、それで、それで――

 気が付けば、アイツ(・・・)はそこに居たんだ――

 赤い影が吼える。

 大気を震わす大音声が、何故か、

 本当に理由はわからないけど、

 痛くて、泣いてるように聴こえたんだ――


 ……


 少女はうつらうつらとしながら、電車に揺られていた。

 窓の外は、何時もの夜景が早さに溶け、流れていく。

 そこに一瞬、赤が混じった。


「え?」


 塾帰りの電車のなか。

 眠気で少し朦朧とした頭で、少女は目に写った惨状を認識した。


「なに、これ……!?」


 東京の町並みが燃えている。

 赤々と燃える炎が暗い空を舐め、黒煙がその空を覆い隠そうとしている。

 何が起こったのか?

 さらに爆発音が重なる。

 唐突に起こった惨劇。

 その事実に、車内に一瞬の沈黙が走り、次いで怒号と悲鳴が巻き起こる。

 突発的すぎる。

 

 故に人は、群衆は、余りにもあっさりと、パニックに陥った。


「何なんだよ、これ!?」


「東京が、燃えてるの?」


「何が……!?」


 疑問疑問疑問。

 それにすべての人が気をとられていた。


 だから、すぐそこに居た、ソイツ(・・・)には気が付かなかった。

 

 ――ッガッシャァアアアアアアアアアンッ!!!


 電車が、後部の車両が宙に舞う。

 

 前方車両に照らし出されたソイツ(・・・)を、少女の覚醒した目は、しっかりと捉えた。

 少女の唇は、無重力の一瞬、ポツリと呟いた。


 あれは、まるで――


「――燃えてる?」


 数瞬後、車両に凄まじい衝撃が牙を剥く。

 地面に叩きつけられ、少女の意識は叩きつけられ、そして闇に墜ちていった――


 ……


 ビルのオフィスで働いていた男性は、その音に眉を寄せた。

(……なんだ?)

 微かに腹に響くものを感じ、不可解さと不気味さを覚える。

 一定の周期でそれは感じられ、徐々に大きくなっていく。

 まるで、近付いてくるかのように。

 徐々に不安が沸き上がる。

 見れば、他の部下達も、机仕事の手を休め、どこか怪訝そうに、不安そうにしている。

 何かが近づいている?

 しかし、いったい何が?

 

 瞬間、咆哮が轟いた。


「なに、今の……?」

 

 女性の職員が呟いた。

 窓に目をやる


 ズゥン、ズゥン、と重い音は近付いてくる。

 その音は、まるで、巨大な何かが歩いている音のようで――


 次の瞬間、ソイツ(・・・)は姿を表した。

 

 赤い。

 そして巨大だ。


 GYIAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAOOOOO!!!


 咆哮。

 

 後方へ伸びる六本の角と、背中に横方向に並ぶ四本の刺。

 それらが咆哮と共に炎を纏い、炎の鬣と炎の翼のように見える。

 ソイツ(・・・)の体表は赤く、まるで燃えているかのようだった。

 いや、夜闇を押し退け、町の光を塗り潰し、煌々と輝く様は、確かに燃えているのかもしれない。


 再び吼える。


 だが、何故だろうか?


 部下が逃げ惑う中、男性はじっとソイツ(・・・)を眺めていた。

 ソイツ(・・・)が此方を睨んだ。


 何処か、その様が物悲しく見えた。


 次の瞬間、男性はソイツ(・・・)のはく炎に呑み込まれ、一瞬で焼き消えた。


 ……


「ったく、ヤバいな」

 男性が呟いた。

 飄々とした雰囲気を纏い、上空のヘリより、東京の惨状を眺めている。

 三十代後半程度だろうか?

 しかし、彼の瞳には、その外見より遥かに老練した光が宿っている。


 静かに状況を理解している様は、さながら年老いた歴戦の古強者、といったところだろうか?

 目下の惨状にも冷静に推測し、この事がこれからどう影響するのかを考察している。


「こりゃ、シャレ抜きで東京壊滅か? こんなに被害が出ちゃ、いくらカタリベのお偉いさんでも、隠しようがねえだろうが……」

 男性の呟き。

 少しだけ戸惑いの混じるその視線の先。


 赤い怪獣が、東京の町を蹂躙する地獄絵図が広がっていた。


 瞬間、その怪獣の体に暴光の花が咲く。

 見れば、変わった形状の戦闘機が数機、東京の燃える夜空を駆けていく。


「始まったか……」


 ……


 鋼の翼が黒煙を降りきり、巨大な獣に銃口を向けた。

 パイロットの少女が引き金を引く。


 閃光が駆け抜け、怪獣を撃つ。

 しかし、


「なんなのよ、アイツ!」


 攻撃は直撃した。

 しているというのに、敵の体は炎のように揺らめくばかりで、全くダメージがあるようには見えないのだ。


(あり得ない……!)


 自分たちの振るう武器は、今の技術の水準からしたら、悪い冗談のようなものなのだ。

 それが、全く通用しない?

 今まで、同じように冗談じみた相手を葬ってきた兵器達が?


(あり得ないわ。そんな出鱈目……!)


 ギリ、と歯を強く噛み締め、少女は機体を加速させた。


 ……


 大きなモニターに光が灯っている。

 それを前にして、多数の人間が情報を纏め、報告するべき所に報告していく。


 カタリベ機関。

 その指令室だ。

 そもそもカタリベ機関とは?

 社会では常識の範囲外とされる出来事。

 要するに、心霊現象や未確認生物や宇宙人や……つまるところ、オカルト的な事象が国民に害をなすとき、秘密裏に事態を終息させ、情報や証拠を完全に隠滅することが目的の、国家の一組織だ。

 

 そのカタリベ機関ですら直面したことのない事態が、今、東京で猛威を振るっているのだ。


 確かに、こういう危険な生物の駆除もカタリベの役割だ。

 しかし、人工密集地帯に、怪獣としか形容できない生物が突然出現し、大きな被害を出している。

 

 目撃者やネットへ流出した情報。

 それに加えてこの被害では、どうやっても誤魔化しきれるものではない。


 これからは運営方針を切り替えるしかないだろう。


(まったく、厄介な役回りを……)

 モニターの前で、女性は心の中で毒づいた。


 カタリベ機関の作戦部指令である。

 

「状況は?」

「イクサカゼ、α機、β機、γ機、いずれも損傷なし。戦闘行動は続行可能です。ただ、目標にもこちら側の攻撃は効果がなく、膠着状態に陥ってる模様です」

「ちっ、厄介な……」

 今日何度目になるか数えたくもない悪態を吐き、ついでにため息もつく。

 なんでわたしはこうも面倒ごとに縁があるのだろう、と。


「攻撃が通用しない?」

「攻撃を受けた部位が炎のような不定形になって、完全に受け流されてしまうそうです」

「……肉体を直接流動する状態に変化させている? でも、それだけで完全に受けながせられる様な物じゃない……。一体、どんな原理で……」


 疑問は尽きない。

 どうやったらあの馬鹿みたく大きな怪獣を止められるだろうか?


 ……


 上空のヘリから東京の惨状を見下ろす男性。

 食い入るように赤い怪獣を見続ける。


 爬虫類のような、哺乳類のような、分類の判別のつかない外見。

 西洋の竜を想わせる頭部。

 二足で直立し、尾を引き摺り闊歩する様は、まるで昔の恐竜の想像図の様だ。


 そんなある種の異形であるにも関わらず、男性にはまるで、人間の様に見えた。


 何故か?


 おそらく、その目や、腕の形などのせいだろう。

 巨大ではあるが、瞳孔は縦に開いておらず、爛々と、しかし虚ろに輝くその目は、完全に人間の目だった。

 腕は短いが、確かに五指が確認でき、まるで人間のそれに見える。

 

 どことなく人間の様を想わせるその容姿は、言い知れぬ不気味さを発していた。


 体表は焼け爛れてボロボロになった様な傷があり、そこから赤々と燃える炎が吹き上がっている。 

 その炎が体表と癒着したように境界が曖昧であり、体色の赤にあいあまって、怪獣自体が炎であるようにすら錯覚させる。

 

 いや、それは錯覚ではないのかもしれない。

 現にあの怪獣は、自らを炎の様に不定形にして攻撃を無効にした。


 焼け死ぬ人々の怨念が形を持ったモノ。

 そう言われれば、すんなりと納得できてしまう程の不可解さだ。

 いや――


 手元の計器に目を向ける。

 カタリベが特殊なエネルギーを計測する時に使用するものだ。


 それが異常な数値を吐き出している。

 霊的思念エネルギーが、物質として顕現できるレベルの数値だった。

 それも膨大な質量になり得るほどだ。


「おいおい……」

 間違いない。

 あれは怨念の塊なのだ。


 ……


 瞬間、何が起こったのか、理解できたものは少なかった。

 一瞬の出来事。


 大気が爆ぜた。

 空が吹き飛んだ。

 そこあったのは、一個の太陽だ。


 人の思念が生み出した、嘆きの太陽だ。

 煉獄が東京に顕現する。

 すべてが、焼き払われた。

 

 ……


 上空にすらその衝撃波は影響を及ばした。

 彼の乗るヘリも大きく揺さぶられ、その熱気が彼の肌を突き刺す。

 

「……まるっきり原爆じゃねぇか……」

 そして思い出す。


 前日、広島、長崎からの報告。


 霊的思念エネルギーの異常低下。

 高レベルのエネルギーが移動し、東京方面に移動したという報告。

 すべてを悟った気がした。


 下界に目を向ければ、そこには焦土と化した東京が広がるばかり。

 赤い怪獣はどこにも居ない。


「戦争の怨念が、あの形をとったとでも言うのか……」


 ……


 答えは遺産だ。

 あれは遺産なのだ。


 愚かな我が国が遺してしまった、負の遺産。

 原爆ドームのように、戦争の悲惨さ、核という過ちを人類に警告するもの。

 ただし、あれは厳密には違うのだ。

 

 あれは遺志だ。

 悲憤に歪められた、悲しき使者たちの意志。

 

 第二次世界大戦。

 今でも語り継がれる、過去最大の戦いの落とし子。

 犠牲者達の呪詛の結晶体。


 過ちは、災禍の獣と化して、日本に舞い降りた。


 あれが最後になるだろうか?

 

 否。


 誰もが恐怖したこの事件は、多くの人々の記憶に残るだろう。

 そして連鎖するのだ。

 忌まわしき記憶は、さらに多くのエネルギーを生み出し、再び日本を蹂躙する。


 そう、厄災の記録は、紡がれ始めたばかり――


結論。GMKゴジだったぜ。

完全にダイジェストっぽくなってしまいました……。

リアルの方で富士見あたりに投稿する作品でいっぱいいっぱいに……。

一応プロローグ的な構想で話を書いたので、続きも書ければ書いていきたいです。

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