16歳の冬休みを僕は一生忘れない
家にも学校にもどことなく居づらい。
そんな僕、柊木秋人。
僕の唯一の居場所は
図書館だった。
ある日そこで僕は不思議な少女と出会う。
それは僕の人生を大きく変えただろう。
16歳の冬休みを僕は一生忘れない。
図書館は僕の冬の居場所だった。
16歳の冬休み、その日も僕は図書館で現実から目をそらしていた。
本の独特な匂い、カサカサとページをめくる音、絵本を読んでくすくす笑う子供の声。この空間でひとり自分を見つめると言えば聞こえはいいが、ただ流れる時間を図書館の空気の中でじっと待っている。
これが、今の僕。
――12月23日
冬休みが始まった。
今日は人もまばらで静かな方だと思う。
やっぱりここは暖かい。
僕は新刊コーナーのある階段の手前に行く。
階段の下からは児童書コーナーの子供の声がしきりに聞こえる。
僕にもこんな時期があったのだと思うと不思議な心持ちがした。
小さい頃の記憶はとっくの昔に置いてきた。というより落としてきた。
母親がいなくなってからの家は静まり返っていたから。
ちょうどこの図書館のように。
すると僕は違和感を覚えた。
「・・・あれ?」
おかしい。さっきまで聞こえていた子どもたちの声はどこにも無くなっている。ピッというバーコードリーダーの音も誰かが申し訳無さそうに咳をするのも。
時間が止まってしまった。と言えば相応しいだろうか。
僕はその場を動くことができなかった。
すとん。
どこかで本が落ちた音がした。
思わず振り返ると足下に1冊の絵本が落ちていた。
『きみとぼくのふゆのまほう 』
真新しいその絵本は今月の新刊らしく
クリスマスの街並みだろうかカラフルな色が白い背景にやけに映えていた。
僕がその本を手に取り、棚に戻した頃には
いつの間にか周りはざわざわ、と元の図書館に戻っていた。