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増幅の増幅

「良い斬れ味だった」


 ご満悦の表情を浮かべながらソフィアが帰ってくる。スティレットの斬れ味に満足したようだ。魔法に関しても《ウィンドカッター》は杖の時と遜色なく、《ウォーターボール》の方は今までより一回り大きくなっていた。


「今までと同じくらいの魔力を注ぎ込んでみたけど、《ウォーターボール》が大きくなってた」


「そうだね、サファイアが良い働きをしてくれてるのかな。ところで2つ使って増幅の増幅って出来そう?」


「うーん、難しいかも」


 ソフィアが唸りながらそう嘆いた。出来れば夢が広がったんだが、残念だ。俺もちょっと試したくなってソフィアにスティレットを2本借りてやってみた。


「ウォーターボール!!ウィンドカッター!!……確かに別々で独立している感じだね」


 宝石のついた武器で魔法を使ったのは初めてだったが、魔法を使おうとすると魔力が宝石に向かって流れていくのが分かった。意識すると、《ウォーターボール》を使う時は蒼玉のウォータースティレットに、《ウィンドカッター》は翠玉のスティレットに魔力が流れていった。それが宝石に流した魔力の量以上に増幅され、魔法を形成していったのだ。試しに宝石を通さずに同じ魔力を消費して作った《ウォーターボール》は、やはり一回り以上小さかった。


 増幅した魔力を増幅するには両方の宝石の間で循環させる必要があるが、魔法を使うと宝石までの流れは良いが、そこからすぐに魔法を形成してしまい循環させる事が出来ない。


「残念だけど、出来ないっぽいね」


 2本のスティレットをソフィアに返す。増幅の増幅は残念ながら諦めるしかないようだ。それでもソフィアの使う水と風系統の魔法は強化される訳だし十分だろう。


 その後はロックモス相手に《スチールワイヤー》と《投擲》の練習だ。ロックモスを狙いダガーを《投擲》するが、それはロックモスの表面で弾かれてしまう。ダガーの切れ味ではロックモスの硬い身体を貫けなかった。今度はやり方を変えてダガーを複数《投擲》し、ダガーの間中に張り巡らせた《スチールワイヤー》を細く硬くして切断を狙う。ピアノ線のような鋼線がロックモスを切断し灰に変えていった。


 ソフィアはソフィアでどうにか宝石同士の間を魔力が循環できないか試行錯誤しているみたいだったが、それでも結局は出来ず仕舞いで俺達はホワイトゲートまで辿り着いてしまった。


 今回は試し斬りに来ていただけなので、ダンジョンの外に出て帰る事にした。外に出てもソフィアは両手にスティレットを持って練習していた。


「あ、出来そう。ウォーターボール!!」


 突如ソフィア空に向けて《ウォーターボール》を放った。ダンジョンの中で見た大きさより更に巨大な水の球が空を目指して飛んでいった。


「今のって、まさか成功したの?」


「うん。出来たみたい」


 なんと魔力を循環させて増幅する事が出来てしまったみたいだ。一体どのようにして成功させたというのか。


「魔法を唱えちゃうと魔法になって飛んで行っちゃうから、魔力を循環させてからそれを魔法に変えるイメージで唱えたら出来た」


「なるほど、逆転の発想っていうやつか」


 魔法を唱えてしまうと魔力が唱えた魔法を形成しようとする為、あらかじめ体内の魔力を宝石に送り込み増幅させる。その増幅させた魔力は魔法を唱えていない事によって自由が利くみたいで、再び別の宝石に送り込む事が出来たらしいのだ。ただ事前に増幅しておかないといけないのと、魔力の循環に集中しないと上手くいかない事から、戦闘をしながらの使用は難しそうだった。それでもいざとなったらソフィアに下がってもらって高威力の魔法を使ってもらえば良いだけだ。それが出来るだけでも随分とありがたい。


「流石はソフィアだね。本当に増幅の増幅に成功しちゃうとはね」


「えっへん」


 そして上機嫌なままのソフィアと一緒に街まで帰り、宿屋に戻らず装備屋によっておっちゃんに良い武器だったと報告だ。


「おっちゃん、また来たよ」 


「おう、あんちゃんに譲ちゃんか。斬れ味はどうだった?」


「文句なしに良かった」


「そりゃ良かった。そう言ってもらえて装備屋として冥利に尽きるぜ」


 ソフィアの報告におっちゃんは嬉しそうだ。そういえばおっちゃんに言おうと思っていたことがあったんだった。


「そういえばおっちゃん、ソフィアにエメラルドの武器を用意してくれてありがとう。《風属性》の魔法には相性良いんだって聞いたよ」


「エルフと言ったら《風魔術》を良く使うと聞いた事があったからな。エメラルドは偶々あったんだよ」


 おっちゃんには本当にお世話になっている。感謝しても仕切れないほどだ。


「そうだ。おっちゃん《投擲》用の武器で良いのない?あったら買っていくよ」


「《投擲》用ねぇ。《投擲》だと基本使い捨ての場合もあるからな、そんな良い武器を使う必要ないんじゃないか?」


 俺は《鋼魔術》の《スチールワイヤー》との併用で、《投擲》で投げた物は回収出来る事を話した。


「確かにそれならちゃんとした武器を投げた方が良いな。ちょっと待ってろ」


 おっちゃんが奥へ行き、いくつかの武器を持ってきてそれらをカウンターの上に広げた。


「おすすめはこれだな」


 そう言っておっちゃんが手に取ったのは金属ではない黒色の刃を持つ短剣だった。ダークネスウルフの牙で出来た短剣らしく、それが大小2本ずつで合計4本だ。


「前にあんちゃんに渡した防具があるだろ?同じ個体のダークネスウルフから取れた牙で作った武器だ。あんちゃんにもってこいの武器だろ」


 他にもあったが俺はダークネスウルフの牙で作られた短剣、ダークネスダガーを購入することに決めたのだった。

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