宝剣
「そういえばあんちゃん、エメラルドに分離した後の武器の素材はどうする?」
エメラルドに使う金属か。カウンターの上に乗せたダマスカス鋼じゃ足りないか。
「その数のダマスカス鋼じゃ足りないですかね?」
「短剣と片手剣どっちにするかにもよるが、どうする?」
「短剣の方が慣れてるからそっちが良い」
「短剣ならちょっと足りないくらいだが、そこは俺の手持ちを使うか。その分の代金は貰うが、それで良いかい?」
流石に短剣を2本分作るとは思わなかった。手持ちにはもうダマスカス鋼はないし、取りに行くのも大変だから、ここはおっちゃんのダマスカス鋼を買い取る事にした。
「それじゃまずはこのサファイアで短剣を作るぜ。成功確率80%だとさ、どうする?」
そういえば成功確率とかがあったんだった。おっちゃんには悪いがおっちゃんを《鑑定》させてもらった。スキルの《装備作成》はレベル10でカンストしていて、そこは俺と同じだったが装備が段違いに凄かった。その装備に付いている能力が成功確率を底上げするもので、これを見ると《装備作成》や《精錬》すらも、おっちゃんにやってもらったほうが良いだろう。
「やっちゃって」
ソフィアからゴーサインが出た。おっちゃんがウィンドウを操作する仕草を見せる。80%ならほぼ成功するはずだ。それでも失敗する事もある。
「無事、成功したぞ」
おっちゃんがカウンターの上に出来上がった短剣を置いた。サファイアが柄尻に嵌め込まれ、ダマスカス鋼の黒ずんだ銀色が、薄めのメタリックブルーの色合いに変色した短剣だった。
「俺も宝剣をいくつか作った事はあったが、こんなのは初めてだな。素材のサファイアが良かったのか、武器自体に水の属性が宿っているぜ」
短剣を《鑑定》すると確かに水属性と書かれていた。そして名称もあり、蒼玉のウォータースティレットとあった。ソフィアが蒼玉のウォータースティレットを受け取り、刀身を眺めながら見惚れているようだった。
「それじゃ次に行くぜ。杖を解除液に漬けてエメラルドを取り出すぞ」
「お願いします」
ソフィアの返事を聞いたおっちゃんが、容器に入った解除液を取り出して杖をそこへ入れた。ゆっくりと杖が溶けていき、解除液が煙を上げながら蒸発していく。解除液が蒸発しきると杖は完全に消え去っていて、容器にはエメラルドだけが残っていた。おっちゃんがエメラルドを容器から取り出して収納する。
「エメラルドも成功確率80%だ。問題ないな?」
「うん、よろしく」
再び宝剣の作成が行われる。2個連続で成功する確率は64%だ。だがもう1回目は成功しているし、純粋に80%の確率で考えて良い。ソフィアの初めての武器の使われていたエメラルド、どうか成功してくれ。
「よし、こっちも出来たぜ!」
2本目の短剣がカウンターの上に置かれた。こちらの刀身は黒ずんだ銀色で、属性は宿らなかったみたいだが、無事に成功して良かった。こちらの名称は翠玉のスティレットだった。
「ありがとう、合計でいくら?」
ソフィアがおっちゃんにお礼を述べ、代金を支払おうとする。サファイアは持ち込みなので、解除液で金貨5枚、追加のダマスカス鋼で大銀貨2枚、手数料は約束通りに依頼してくれたからサービスだそうで、締めて金貨5枚と大銀貨2枚を支払った。
ソフィアは2本のスティレットを収納してこちらを見た。ソフィアの目がキラキラと輝いている。気持ちは良く分かる、早く試し斬りしたいのだろう。だが今日は折角オフにしたというのに、シェリー達を置いてダンジョンに向かうのもどうなんだろう。
「はは、あんちゃんと出会った頃の装備を新調した時と同じ目だ。早く試したいって言ってるぜ」
そう言われるとそんな事もあった。仕方がない、10日も馬車の中で身体が鈍っていそうだし、軽くダンジョンに行きますか。
「仕方がないなあ、ちょっとだけだよ」
「やった。ショウジなら分かってくれると思ってた」
そして俺とソフィアはおっちゃんに別れを告げてダンジョンに向かった。問題は何層に行くかだ。10層の守護者は選択肢から外すとして、9層のロックモスか、8層のサーベルタイガーか、7層でホブゴブリンか、切れ味を調べるなら硬いロックモスで良いか。前回のグラディウスだとなんとか斬れていた感じだったし、比べるにはもってこいだろう。ついでに俺は《スチールワイヤー》の練習をしよう。
「場所は9層で良い?ロックモスだと前のグラディウスと比較しやすいかと思ったんだけど」
「そこで良い、早く行こう」
ソフィアに急かされてブラックゲートを潜り、転送先を9層に選択する。視界が晴れると洞窟の中に立っていた。良い具合に近くに敵がいるらしく、《探知》がそれを教えてくれる。
「一番近いロックモスはこっちかな」
ソフィアを誘導してロックモスのいる場所まで案内した。ロックモスが3体居るのを視界の捉え、一度手前で立ち止まった。
「ショウジはここで見てて、1人でやってくる」
止める間もなくソフィアがロックモスに向かって駆け出した。ロックモスは《ウィンドスフィア》によって鱗粉の攻撃が効かないのを悟ると、近接攻撃に切り替えてソフィアに襲いかかる。それをソフィアはスティレットを一閃して倒してしまう。鮮やかな切り口を晒したロックモスが灰になっていく。残り2体のロックモスもソフィアの《ウィンドカッター》と《ウォーターボール》によって灰になっていった。




