洞窟の中へ
あまり良く眠れなかった。夜モンスターが襲って来る可能性があったし、浅い眠りに付いては起きての繰り返しだった。
喉が渇いた。そういえば昨日から水分も取っていなかった。近くに水分が取れるものがないか探しに歩き出す。しばらく洞窟のある崖に沿って歩いていると水の流れる音が聞こえてきた。辿り着いてみると、崖の隙間から水が流れ出しており、そこから小さな川を形作っていた。
水を《鑑定》すると、飲んでも問題なさそうなので、水が流れ出している所に顔を近づけ気が済むまで飲み続けた。やっぱり大自然の水って美味しい。水道の水は消毒とかしてあってやはり味が違う。水筒があれば水を汲んで持ち歩きたいが持っていない。《道具》に収納できるか確かめたが、ズボンがびしょ濡れになるだけでできなかった。
確かめたら収納するには液体や気体はダメみたいだ。固形は問題ないので入れ物に入れれば収容できそう。そういえば森の中に竹が生えていた、昔の人は竹筒で水を持ち運びしてた覚えがある。俺は記憶を頼りに竹の生えているところへ行き、竹を少し拝借する。切断するのに鋏を使うしかなかったがこれがまた大変だった。お婆ちゃんには申し訳ないが水の為だ。竹に鋏添えて石で叩き付けて切断した。無事に竹筒の大きさにして、念の為にいくつか作っておいた。その後、水場に戻り水を入れた竹筒は、無事《道具》の中に入った。
暫くは水も手に入るこの辺りを拠点として、周辺を探索して行くのが良さそうだ。うまく街道を見つけられれば、それに沿って歩く事で街とかがあればいい。途中で人にも出会えるかもしれない。そうして俺は洞窟前を拠点として生活していく事にした。そうなると不安は洞窟だ。入り口から先が見えないのである。食事も水分も取ったし今日は中に入ってみる事にする。
入り口の黒い膜に触れてみる。水面の様に波は立たない。そのまま膜を通り抜けると、目の前には周りが岩の小さい部屋があった。正面には一本道で奥へ進める様になっている。後ろを振り返るとそこにも岩の壁が広がっていて、帰り道がなかった。後悔の念に駆られるが、もう過ぎた事は仕方がない。諦めて一本道を先へと進んでいく。
最初の部屋は人工的な感じがあったが、一本道を出てみると自然にできた様な空間が広がっていた。崖の途中に一本道の出口はあった。地面まではそう遠くはないが飛び降りれそうな高さでもない。高さ的にはマンションの3階くらいから見下ろしているくらいの高さである。周囲を確認すると何とか下の方まで降りられそうな所がある。俺は時間をかけてゆっくりと下まで降りていった。
無事地面まで降りると、次は周辺を警戒した。外からの光は届かないが暗視のおかげである程度の距離までは視認できる。今のところは問題なさそうだが、何が居るかわからないのでそのまま周囲を警戒をしながら進んでいく。すると、奥の方に芋虫みたいなモンスターが居た。遠目から見てもちょっとでかい膝上くらいはありそうだ。今回は石は使わず、覚えたての魔法を使って倒してみよう。
まずは狙いを定めて《ファイヤアロー》を使ってみる。生成された火の矢は真っ直ぐ飛んで行き、芋虫に命中した。相手もこちらに気付いたのか、俺に向かってくる。再度《ファイヤアロー》を放ち命中させると、芋虫は糸を吐き出して攻撃してきたが、遠くてこちらまでは届かない。最後の力を振り絞ったのか、そのまま倒れて灰になっていった。
魔法万歳。難なくモンスターが近づく前に仕留めることができた。レベルは上がっていなかったが。《道具》に糸×1と、昨日のスライムの物と思われるスライムの破片×9、スライムゼリー×1鉄貨×22と表示されていた。不思議に思ってはいたが、モンスターを倒した後ドロップアイテムがないのは、どうやらこういう事だったみたいだ。
奥に進んでいく途中何匹か芋虫がいたので、魔法を使って倒した。糸をいくつか手に入れられたので、手持ちの太めの枝と少し大きめの石を使ってモーニングスター的な物を作ることにして装備した。魔法は使いすぎると昨日みたいな事になりかねないし、今の手持ち武器と言える物は鋏くらいしかないし、少し武器を増やしておきたかったのだ。
後はレベルが7まで上がった。スキル欄にはまた新しいスキルが並んでいた。表示されていたのは《剣術》《水魔術》《道具作成》《装備作成》《探知》だ。増え過ぎじゃね。今回もレベルが上がってスキルポイントが増えたが、全部取れるほどのスキルポイントは余っていない。どれを取るか迷うが、今回は《水魔術》と《道具作成》を諦めて《剣術》《装備作成》《探知》を取得した。
《剣術》は短剣・片手剣・両手剣などの武器を使う時に動きの無駄をなくし効率良く動けるようにするのに加え、多少の威力増加があるらしい。
《探知》は自分を中心に半径100メートル程の距離にいる生命体を認識できるらしい。レベルによって探知距離が伸びるとの事。
《装備作成》は《道具》の中にある装備品とアイテムを組み合わせて新たに装備を作り出すらしい。レベルによって成功確率が上がるとの事。《装備作成》を取ると新たに《製錬》が表示された。
どうやらスキルの取得はツリー形式になっているのではないだろうか。《装備作成》を取得したから新たなスキルが表示されたのであれば他のスキルもレベルを上げていけば新しいスキルが表示されるのではないだろうか。
ただ、レベルが上がってないのに表示された《剣術》《火魔術》《土魔術》の件もあるし、他にも何か条件がありそうだった。俺は新たに表示されたスキル《水魔術》《道具作成》《精錬》を取得するべく、モンスターを狩りまくっていた。
レベルが8に上がると先に《製錬》を取得した。
《製錬》は《道具》の中にある装備品と別の物を組み合わせて強化するらしい。
《精錬》をしようとしたが、鉄鉱石が5個足りないらしく強化できなかった。まぁ、装備の強化だから金属とかがないとできないのだろう。そういえば《採掘》ってこういう岩場だったら鉱石類の入手に使えるんじゃないか、と思って実際に試してみると新たに鉄鉱石が手に入っていた。
何回か《採掘》して鉄鉱石を5個手に入れ、《製錬》すると今度は強化できるみたいだ。俺は異世界の刃物を選び強化する。《道具》内の鉄鉱石がほとんど無くなり、異世界の刃物からツインダガーになった。更にもう一度《精錬》してみると、次は鋼鉄が20個足りないらしい。もし、鋼鉄20個手に入ることがあったら強化しようと心に留めて置く。
モーニングスターを《道具》にしまってツインダガーを取り出す。すると名前はツインダガーだが形状は鋏のままだった。不思議に思ってよく見ると鋏の形が少し変わっていた。鋏の持ち手の所にボタンみたいな物が付いていて押してみたら二つに分裂し、形が短剣ほどの大きさにに変わったのだ。ただ、そのまま鋏が分裂しただけみたいな形で、持ち手はナックルガードっぽいが、刃の部分が少し歪だ。それに刃が片側だけじゃなく両刃になっていた。さっそく試し切りをしてみたくなり、モンスターを探し始めた。
モンスターは意外とすぐに見つかった。今回も芋虫だった。ここら辺には芋虫しかいないらしい。今までは遠距離から石や魔法で仕留めていたので今回が初めての近距離戦となる。一応念のため《ステータス》で取っておいたポイントをSTRとVITに振って上げておいた。
芋虫に気づかれないようにギリギリの位置まで近づき、一呼吸入れて一気に走り出す。こちらに気づいた芋虫が糸を吐き出してくる。その攻撃は今まで何回も見てきたから横に跳んで対応できた。芋虫の糸攻撃の隙にそのまま突っ込んで右手のダガーを振り落す。そのまま右側へ流れるように抜けつつ一回転して左手のダガーで左に薙ぎ払い、右手のダガーを上から突き立てるようとするが、すでに芋虫は灰となって消えていってしまった。《剣術》のおかげか、初めての近距離戦にしては上手く動けた気がするが、あっさり倒せたのに少し拍子抜けだ。
その後、芋虫を探しては倒すのを繰り返していると、気付いたらレベルが10になっていた。さっそく溜まったスキルポイントをあるだけ使って《水魔術》と《道具作成》を取得し、《剣術》をレベル3まで上げておいた。
《水魔術》は《清浄》と《ウォータボール》が使えるようになるとの事。レベルによって威力が上がり、使える魔法の種類が増えるらしい。 《道具作成》は 《武器作成》のアイテム版で《道具》の中にあるアイテムを組み合わせて新しいアイテムを作り出すらしい。レベルによって成功確率が上がるとの事。
《剣術》はレベルが上がると《スラッシュ》が使えるようになった。使うと通常より強い斬撃を放てるとの事で威力が上がるらしい。
芋虫を探して試しに《スラッシュ》を使ってみると一撃で灰になっていった。何これ気持ちいい。例えるならばクリティカルヒットしているような感じである。ついつい芋虫を見つけるたびに《スラッシュ》を繰り返し使い続けてしまった。
他にも《剣術》のレベルを3に上げたことによって、さらにスムーズに立ち回れるようになった。何ていうか体が勝手に動いている感じだ。魔法も使えたりと、全くスキルっていうのは凄過ぎる。
こうして新しいスキルを試していると、それは視界に入ってきた。遠くのほうに洞窟の入り口と同じような膜があったのだ。ただ、今回のは白い膜だった。出口なのだろうか、それとも別の所に飛ばされるのだろうか。今の現状が洞窟の中に閉じ込められているようなものだから、入ってみるしかないか。
少しの間逡巡した後、膜に入ると視界にウィンドウが出てきた。ダンジョンを出るか2層に進むか選べるらしい。って、ここダンジョンだったの?と思いつつ、出るを選ぶと洞窟の入り口の所に立っていた。どうやら無事にダンジョンから出られたみたいだ。