仲直り
俺は屋敷内を探し回りヨシノを探した。屋敷の外だったら桜の木の下とか思い当たりそうな所があるのだが、屋敷の中となるとヨシノがどこに行ったか見当がつかなかった。
「いや、待てよ。あそこかな?」
俺は思い当たった目的の場所に向かう。
俺がやってきたのは書斎だ。部屋内を見回すと地下室への鏡の入り口が開いたままになっていた。予想通りここにヨシノが居るみたいで、俺はそのまま地下室へと歩みを進める。
暗い地下室に入ると、隅の所で体育座りをして俯いているヨシノの姿があった。俺が来た事に気付いているだろうが、ヨシノは顔を上げる事なく俯いたままだ。俺は無言のままヨシノの所まで行き、隣に腰を下ろした。
「……」
沈黙が辺りを包み込む。
「私だって分かってたよ」
俺がどうやって話しかけようと思い悩んでいたら、意外に話を切り出してきたのはヨシノだった。
「冒険者ギルドでお兄ちゃんが他の人たちより強いって言うのも聞いてたし、だから魔族の襲撃の対応でお祭りに参加出来なくなるんだろうなって……」
「うん」
「でも約束したし、お兄ちゃんとお祭りに行くのをすっごく楽しみにしていたから……少しくらいはお祭りに参加出来ないかなって。もちろん大変なのも分かってるよ?でも、我慢しようと思ってたんだけど、お祭りにお兄ちゃんと一緒に回るのを想像すると気持ちも高ぶっちゃって……いざお兄ちゃんからお祭りに行けないって言われたら、我慢出来なくなっちゃった……」
ヨシノが心情を吐露していく。俺はその間相槌を打つしか出来なかった。
「だからお兄ちゃん。我慢するから新しい約束して」
「うん……この件が終わったら、必ずヨシノの為に時間を作るよ。約束する。指切りしようか」
「指切り?」
どうやらこの世界には約束する時の指切りという行為はないらしい。
「こうやってお互いの小指同士を絡ませて……指切り拳万、嘘ついたら針千本のーます。指切った!」
絡ませた指と手を上下に振りながら最後にお互いの指を離した。
指切りをした事のなかったヨシノは最初ポカンとしていたが、やがて俺の言った事を理解して笑いだした。
「あははっ!針千本ってなにそれー。お兄ちゃん本当に約束守らないと大変な事になっちゃうね」
「他にも10000回殴っても良いというおまけ付き。必ず約束は守るよ、神様に誓って。俺のお婆ちゃんに誓っても良いよ」
約束は必ず守るとヨシノに誓いを立て、その時が来たらヨシノの希望を出来る限り叶えてあげようと思うのだった。
仲直りも無事に出来て安堵した途端、きゅるるる〜と俺のお腹が鳴り出した。それを聞いたヨシノはクスリと笑った後、立ち上がって服に付いた埃などを手で払い落とした。
「うん。お兄ちゃんはダンジョンに行っててお腹空いてるよね!もう大丈夫だからご飯食べに行こう」
「うん。皆を待たせているだろうし、そうしようか」
俺もヨシノに続いて立ち上がると、同じようにして服に付いた埃などを払い落とす。その作業が終わるのを見るやヨシノが俺の腕をとり、腕を組み横並びの状態になった。完全によくカップルがやっている手をつなぐより上位のアレだ。
一瞬恥ずかしさのあまり腕を外してしまいそうになるが、そこはヨシノががっちりとホールドしている。
「皆の所に戻る少しの間だけこのままでお願い」
「……しょうがないなあ。居間に戻るまでだよ」
今度ヨシノの希望を出来るだけ叶えようと思っていたが、今もそうしたいならそのままで良いかと思い、ヨシノと腕を組みながら居間へと向かった。
居間に戻ると全員が寛いで待っていた。
「お帰りなさいませ。上手く仲直り出来たみたいですね。食事の用意は出来てますので温め直してきます。ヨシノさんも手伝っていただけますか?」
「はい。シェリー先生」
「それではショウジ様達は食堂でお待ちください」
シェリーがいち早く気付き、俺にそう言うとヨシノと共にキッチンの方へと消えていく。
そして食堂に行って食事を取ったのだが、それが終わるとソフィア達、主にソフィアとアペルのバトルジャンキーさん達がすぐに騒ぎ出した。その後に待っているのはダンジョンの帰り道に考えていた模擬戦だったからだ。空中戦の仕上げで地下室での模擬戦をしようと事前にソフィア達に話していたのだ。
「ショウジ、早く地下室に行こう!」
「そうです!時間は待ってくれないです!」
少しでも模擬戦の時間を作ろうと2人が俺の腕を引っ張り急かしてくる。さっきのヨシノの時とは別で腕を取られている訳だが、あくまで2人は戦いたいだけだ。男としては悲しい事に俺に対してそういった感情はないだろう。
俺は引っ張られるままに地下室へと連れて行かれる。一緒に付いてきたのは俺とソフィアとアペル、入り口を開ける為のヨシノ、他にはシェリー以外全員だ。シェリーは食器の片付けが終わったら合流する予定だそうだ。
「面白そうですから付いてきてみましたが、こんなに広い地下室があったなんて驚きですの。それに魔法に関する研究の資料が沢山あって興味をそそられますわ」
初めて地下室を訪れたイザリナが興味深げに周囲を見渡し、机の上に無造作に置かれている資料を手にとってそう言った。
「今回はそっちじゃなくて、俺達の練習相手になってくれると助かるんだけど」
「もちろん分かっておりますわ」
そしてイザリナを加えた模擬戦が始まるのだった。




