ちょっと懐かしの芋虫
6層へ行く前に、ソフィアにも冒険者の心得(初級編)の、魔法の部分だけでも読むように伝えたが、文字が書けなかった事を失念していた。文字が書けないなら、読めもしないんじゃないかと思い、聞いてみるとやはり読めないらしい。
俺は勇者の称号の恩恵で、何とか読み書き出来るけれど、出来るだけで教える事は出来ないだろう。シェリーなら読み書き出来そうだから、体の休養日を作って、そこで文字の読み書きの勉強させようかな。丁度いい事に、冒険者の心得を教科書として使ってもらおう。
ソフィアに相談してスキルポイントに余裕が出るまでは 、俺が火と土を、ソフィアが風と水の魔法のレベルを上げていく事になった。なので《水魔術》を手に入れられるように、ウォーターボールの呪文を、教えてあげた。
「清らかなる水よ、集いて敵を撃て。ウォーターボール!!」
ソフィアが試しに《ウォーターボール》を使った。空中に現れた水の玉が、目標にした遠くの地面に当たり、土飛沫を巻き上げる。試しに俺も《ウォーターボール》を同じ辺りに放つと、先程よりも土飛沫が飛び散った。やはりスキルがあるなしで威力に差があるようだ。ついでに俺も詠唱をしてから放ってみる。初めての詠唱でちょっとだけ恥ずかしかったが、更に威力が増したのを確認できた。
詠唱を出来る時はした方が良い事が分かった。闘いながらだと、短ければいけそうだが、長いのがあったらちょっと難しいかなぁ。強力な魔法は詠唱が長くなるだろうし。後は詠唱に慣れないといけない。でないと、いざという時に言葉が出なさそうだ。
魔法の試しも終わり、ダンジョンに入る。6層は一周回って、岩で囲まれた洞窟になっていて、今回も小部屋みたいな所に出た。奥に繋がっているだろう通路を進んで行くと、随分と開けた大きな空間にでた。
そこにはたった数日前だというのに、どこか懐かしい芋虫型のモンスター、名称ロックキャタピラーが近場に2体居て、それとは別に蛾のモンスター、名称ロックモスが1体、味方を守るように、ロックキャタピラーの上を旋回していた。
ロックキャタピラーが成長すると、ロックモスになるのだろう。ロックキャタピラーの時は特に硬くはなかったが、ロックモスになると体が岩のようにゴツゴツしている。斬撃系より打撃系の武器か、魔法で対処しないとダメージが通りにくそうだった。そうなるとロックモス相手に初めての対空戦は魔法メインで戦うしかないか。ただ、空間も広く天井が高い為に、空中に逃げられたら手間取りそうな地形だった。
「ロックモスが何をしてくるか分からないから、空中に気を付けつつ、ソフィアは左のロックキャタピラーを遠距離から魔法で倒そう。右は俺がやるね」
「うん、わかった」
「ロックキャタピラーを2体共倒したら、注意しながらロックモスと戦おう。攻撃は硬そうだから魔法メインで、それじゃいくよ!」
ソフィアが左のロックキャタピラーに《ウィンドトルネード》を、俺が右のロックキャタピラーに《ファイヤジャベリン》を放つ。 《ウィンドトルネード》が風穴を開け、《ファイヤジャベリン》が燃やし尽くし、ロックキャタピラー達は仲良く灰になっていった。
残るはロックモスのみだ。ロックモスは仲間をやられて警戒しているのか、距離を取りつつ高度を上げた。羽ばたいているせいか的を絞りにくく、避けられている間に頭上を取られてしまった。ロックモスは頭上から燐粉を撒き散らして攻撃してきた。
「ソフィア、《ウィンドスフィア》を!」
目には見えないが、ソフィアが空気の防壁を展開してくれる。これでこっちに燐粉は届かない。だがこちらの攻撃も当たらなく、ただ時間だけが過ぎていく。うーん、なかなか当てられない。対空戦はこうも厄介なものかと考えていると、痺れを切らしたのかソフィアが《ライトニングボルト》をロックモスに放つ。これには流石のロックモスも避けられないみたいで命中した。
確かに相手が避けるのならば、それ以上の速度で対抗するか、点ではなく面を使って当てるしかない。つまりソフィアの対応は正解だ。正解なんだけど、それでいいのか?と思ってしまう。それだと現状はソフィアが初弾を当てなければどうにもならなくなる。何か良い案はないだろうか。
対空戦闘で思いつくのは、こっちも空を飛ぶとか空中機動したりとか、逆に斬撃を飛ばすとかかな?うん、出来るなら全部やってみたい。いつか出来たら良いけど、現状では空は飛べないし空中機動も出来ない、斬撃の代わりに《投擲》するくらいだ。
ロックモスはソフィアの《ライトニングボルト》で体制を崩して、落下してきた所に追撃で《ファイヤジャベリン》を受けて灰になっていった。もし、今後複数のロックモスと遭遇したとすると、現状の対処の仕方では危ないだろう。ここはやはり俺も《雷魔術》を取得した方が良いのかもしれない。否、これは俺に《雷魔術》取れという事なのだろう。
一度ソフィアと対空戦の反省会をする。とりあえず、この層はソフィアにロックモスをやってもらって、俺がロックキャタピラーを受け持つことを伝える。ソフィアはいつも俺が敵の主力と戦っていたので、今度は自分が敵の主力と戦える事を素直に喜んでいた。そして、複数体のロックモスと遭遇した時どうするかだが、2体までならお互いに1体ずつで問題ないが、3体以上と遭遇したその時は、範囲魔法の必勝コンボを使おうという事に落ち着いた。
ソフィアにも先程俺が思い付いた、空を飛ぶ事や空中機動、斬撃を飛ばす事が出来たら良いねと話すと、私もやりたい!とかなり食い付いてきた。本当にそんなスキルがあれば良いなぁ。
ちょっとした反省会を終え、洞窟の中を進んでいく。何回かロックモスと遭遇したが、今の所複数体出てくる事はなかった。ソフィアはロックモスを《ライトニングボルト》で落した後は、詠唱をして《ウォーターボール》で仕留めていった。一応《水魔術》の取得への訓練と、ロックモスが地属性な事から風系統の魔法が効きにくいからだ。
《ウォーターボール》を多用していたおかげか、ソフィアが《水魔術》を取得した。思っていたより早く取得できた。普通の人ならかなりの修練が必要、ってブラームスさんが言っていたけれども、ソフィアの場合レベルも高くなってきてるし、魔力が多くなってきている分、結構な数をこなせたのだろう。もしくは回数とかではなくて熟練度的なものかもしれない。
どちらかは今の所判断できないが、ソフィアも喜んでいるし、おめでとうと祝福してあげた。




