狼包囲網
俺とソフィアとアペルはシェリー達と別れて32層にやってきていた。ここも26層と同じ草原のフィールドで、遭遇したのはヘルハウンドという犬型のモンスターで、それが2匹。更にヘルハウンドの周囲にはダークネスウルフが2匹ずつ護衛するように周囲を警戒し、合計で6匹の群れとなって行動していた。
「敵の数が多いなあ……」
ダークネスウルフだけなら気にならない数なのだが、ヘルハウンドと一緒に連携しながら攻撃されると厄介だ。
「1人でも問題なく勝てると思うけど、心配ならショウジにダークネスウルフを任せて私とアペルがヘルハウンドをやる。それで良い?」
「それで良いです。あたしも強い方と戦いたかったです」
2人は人数が減って慎重になるどころか、1人で戦っても良いと言わんばかりにやる気満々だ。
「分かった。それでいこう」
地上を駆けてダークネスウルフとの間合いを詰めていく。《飛翔魔術》を使っても良いのだが、ラウリーの《超回復》がない現状では、魔力を温存しておかなければ何かあった時に危険だ。
特に相手は空を飛ばないモンスターだし、《飛翔魔術》は温存しても戦っても問題ない。むしろ空から一方的に攻撃するとか、地の利があり過ぎて何の為にもならないと思う。
それより俺は《強化魔術》の《防具強化》と《身体強化》を使用する。《武器強化》に関してはツインエッジ改の攻撃力自体が高いので不要と判断した。
《身体強化》により一気に加速。そのままヘルハウンドとダークネスウルフ達の間を流れるように駆け抜け、一瞬にして4匹のダークネスウルフを斬り伏せてしまった。
「今のならヘルハウンドも一緒に倒せたかも」
俺が駆け抜けるのをヘルハウンドですら反応出来ずにいた。少し遅れてやって来たソフィア達がヘルハウンドに攻撃を仕掛けていく。
「だから……問題ないって……言った。それより……ショウジが思っていたより……速くなり過ぎ。私も早く……《身体強化》使いたい」
「羨ましい……です。あたしも使いたい……です!」
ソフィアがヘルハウンドに攻撃を加えながらそう言った。喋りながら戦っていてもソフィア達の方が優勢で、ヘルハウンドは傷を負いながらも果敢に挑んできたが、やがて灰になって消えていった。
ソフィアは新しい武器で威力が上がっているのに、《強化魔術》取得の為に《武器強化》を使い、更に威力が上がっていた。アペルも同じく《武器強化》をしている為に、結果戦闘時間は短かった。
「思っていたより弱かった」
「モンスターが弱いんじゃなくて、多分あたし達が強くなっているです」
《強化魔術》のレベルさえ上げれば、武器と防具と身体能力の全てを上げる事が出来る。《身体強化》を使ってみたが、その効果が物凄い。スキルポイントはかなり使うが、《強化魔術》はやはり必須スキルだ。それを魔族側は基本的に使っているのだから、今まで人族側は良く《強化魔術》なしに戦ってこれたなと思う。
「そうかもね。でも一応新しい階層だから油断しないでいこう」
「うん、分かった。気を付ける」
罠に関しても草原という平地でどのようなものが出てくるか分からない。正直平地の罠とか落とし穴と毒ガスくらいしか思い浮かばない。岩に囲まれている洞窟に比べたら明らかに罠の種類が限定されそうだが、流石にそれらだけではないだろうからそちらにも気を配らなければならない。
罠に気を付けながら進み、《探知》の範囲内に再びヘルハウンドと思われる反応が現れた。今度は3匹居るみたいでその他に反応が6匹分居たが、それはダークネスウルフのものだろう。
「《探知》に反応があったからそっちに向かうよ。今度は1人1匹ずつ戦えるね。ダークネスウルフも2匹ずつで良い?」
「次2匹だけだったら私1人でやるから、今回はそれで良い」
「確かに1対多数の練習には、数もそこそこ居て丁度良いかもしれないです」
確かに魔族の襲撃はどの位の戦力で来るか分からないけど、相手の戦力によっては1対多数になる可能性も十分にあり、八柱将相手に1対1で戦えるとは限らない。
その後ヘルハウンドと何回も戦った。ソフィアの希望通り2匹だけのを見つけた時はソフィアだけに任せ、俺もアペルもソフィアと同じ事に挑戦してみる。
更にどんどん数を増やしていき、最大っぽい同時に4匹のヘルハウンドを単独で撃破出来るようになっていた。同時にダークネスウルフも8匹居るので、合計12匹の狼達に囲まれるという状況だ。
それでも平地だったから同時に攻撃されるにしても最大4匹程度だ。これが空中戦だったら上下からも攻撃が来る可能性がある為、更に対処が大変になる。その辺りは次の33層の海のフィールドで練習だ。
ヘルハウンドと戦う事に集中していたせいか時間も結構経ってしまっていた。そろそろ本格的にホワイトゲートを探さないと遅くなってしまう。という訳でここで《飛翔魔術》の出番だ。俺達は《飛翔》で空を飛び、地上に居るヘルハウンドを無視してホワイトゲートを探し回ったのだった。