秘匿魔法
「今あるこちらの主力は3パーティーだ。まずショウジ君達の名無し、リディック君率いる鋼鉄の旅団、グランドール君率いる最後の楽園。ショウジ君の所はパーティーの合併をして人数も多いし、大いに期待しているよ」
「出来る限りの事はします」
そして知っている名前が出てきた。リディックさん達の鋼鉄の旅団は今現在29層まで攻略していて、今日はちょうど30層の攻略に乗り出しているらしい。最近見かけないと思ったらいつの間にか追い越してしまっていたみたいだ。
そしてもう1つの最後の楽園は、俺達より攻略が進んでいて34層にいるらしい。35層の守護者攻略の為にレベル上げをしている所らしく、トップの居ない今はその人達が最大戦力になる。
その他の冒険者達は20層を超えた所で停滞している。20層から30層の間でも十分お金が稼げて生活が出来る為、30層の守護者で強力な相手のドラゴンゾンビとは戦わない方針の人達が多いのだとか。
「ドラゴンゾンビに挑戦しても、その強さを目の当たりにして逃げ帰ってくる人達が多いんだよ。僕としてはお飾りのギルドマスターだから、そこで死ぬ気で戦ってこいなんて言えないんだけどね」
「最近の若い奴らは不甲斐ないからな。その点、坊主は良くやってくれている」
ブラームスさんが珍しく褒めてくれる。それにしてもクルガンさんは実力でマスターをやっているのかと思いきや、お飾りのトップだと本人が言いきってしまった。クルガンさんはそれで良いのだろうか。
話を聞くと、王国貴族と冒険者達とのクッション材として、ギルドマスターに貴族からクルガンさんが、サブマスターに元冒険者の実力者という事でブラームスさんがそれぞれ採用され、その決まり事も昔からあるんだとか。
「それよりも相手が空からも攻めてくるというのが厄介だ。まずはこれをどうにかしない限り一方的にやられるだけだろうな」
「確かに。基本は遠距離の弓と魔法で対処するしかないかな。翼を持っているなんて羨ましい限りだね。こちらで空を飛べるのは魔法使い位なものだし」
クルガンさんから聞き捨てならない言葉が飛び出す。それとなく諦めてかけていた、魔法で空を飛ぶという憧れていた夢がもしかしたら叶うかもしれない。
「クルガンさん、魔法で空を飛べるんですか?」
「ああ、ショウジ君が知らないのも当然だろう。一部の優秀な魔法使いを輩出している貴族達が秘匿している魔法だ。この国でも《飛翔魔術》を使える人物は限られている。確か今回の勇者のパーティーメンバーにそこの娘が加わっていたかな」
どうやら空を飛ぶ魔法は《飛翔魔術》というらしいが、貴族の魔法使いが秘匿している為、俺が使えるようになるとは思えなかった。残念だ。
「そういえば坊主が住んでいる屋敷も元々は有名な魔法使いの貴族が住んでいなかったか?確か名前は……そうだ、アグリッパ家だ。魔法の研究をしていた珍しい魔法使いでな、それに関する記録を書物に残してて、うちにある冒険者の心得の魔法部分も彼が手がけたはずだ」
なんだって!?そういえば確かに書斎を調べた時に魔法関連の本が多かった気がする。でもその時に《飛翔魔術》なんて見ていないしも聞いた事もない。ヨシノに聞けば何か分かるだろうか?
『ヨシノ、今大丈夫?』
『なになに?お兄ちゃん、どうしたの?』
俺は早速ヨシノから話を聞く事にした。《飛翔魔術》を取得できれば空から襲撃してくるゼブロースの対抗策になるし、これからのダンジョンでの空を飛ぶ敵にも有効になる。
『ヨシノって優秀な魔法使いの家系って聞いたんだけど本当?』
『あー、うん。ただ、どちらかというと身体能力的な意味じゃなくて、知識的な方で優秀だったのかな。パパはいつも書斎に籠もってお仕事してたし。確かそのお仕事も魔法に関する本を作る仕事だったと思う』
ビンゴだ。冒険者の心得みたいに様々な魔法の詠唱とかが記載されているような本があれば最高だ。そこに《飛翔魔術》があればゼブロース対策は解決出来るかもしれない。
だが、書斎にはそんな本はなかった。それは屋敷がまだ幽霊屋敷の時に確認している事実だ。書斎以外には本を保管している場所もない。
『お父さんの作ってた魔法に関する本って書斎にあるだけが全部?俺としては隠し部屋とかがありそうな気がするんだけど知らない?』
『んー、隠し部屋とか分からないけどちょっと見てくるね』
ヨシノの言う通りほぼ毎日のように書斎に引き籠もり、魔法に関する本を作っていたのであればもっと本があってもおかしくない。というかあの書斎だけでは魔法の実験等をするにしても狭すぎる。
『お兄ちゃん!お兄ちゃんの言った通り調べてみたら地下室があったよ!』
『よくやった、ヨシノ!今すぐ屋敷に帰るからちょっと待ってて!』
俺はクルガンさん達に空中から襲撃してくるゼブロースの相手はどうにか出来るかもしれない。だから少し待ってくださいと伝えた後、連絡用にシェリーを残して屋敷に戻ったのだった。




