ソフィアとブラームスさん
プリメラさんから色々と教えてもらい、前回のクエストと、今の手持ちですぐ終わるクエストの完了報告と報酬も貰って、新たにクエストを紹介してもらっていると、試験が終わったようでソフィアが帰ってきた。
「ソフィア、どうしたの?」
一緒にダンジョンに行って気持ちの距離も縮まったのか、感情も少し顔に表れるようになってきたソフィアが、なんと頬を膨らませながら帰ってきたのだ。何があったのか尋ねても教えてくれない。もしかして試験に落ちてしまったのだろうか。
「がはは、よく会うな坊主。ちょっとエルフの娘っ子を、からかい過ぎてしまったみたいだわい」
どうしたのだろうかと内容を考えていたら、奥からブラームスさんがやってきた。話を聞くとソフィアは無事に合格してギルドカードを作ったらしい。じゃあ何故あのように拗ねたような態度をしているかというと、ブラームスさんがソフィアを見た時、エルフという事もあって、ソフィアを覚えていたそうだ。それで試験中にソフィアの動きを見て、問題なく合格だったらしいのだが、ブラームスさんの口から出た「坊主は儂に当てれたぞ」という言葉にムキになってしまったみたいだ。結局ブラームスさんには当てられず、現状に至るという訳だ。
「まぁまぁ、俺の時は《剣術》と《火魔術》に《土魔術》が使えたから、その分攻め手の幅があったんだよ。ソフィアは《剣術》と《風魔術》だけだから仕方ないよ」
「でも、全部避けられた……」
実際には《雷魔術》も使えるんだけど、さすがに人目のある場所では使わない約束をした手前、この試験で使ってはいないだろう。
「うん?エルフの娘っ子はレベルを上げたのか《雷魔術》も使ってたぞ。あれには流石に驚いて本気で回避してしまったわい」
あー。はい、ムキになってやっちゃったみたいですね。約束も昨日の夜のことだし、寝たら忘れちゃったかな。後で再度確認しておこう。しかし、ブラームスさんはすごいな。《ライトニングボルト》ってダンジョンで見た限り、発動した瞬間グリーンウルフに当たってたような感じで、この世界でも光速や音速ってのは速度的に変わらなそうだけど、それを避けるなんて芸当が出来てしまうとは、フェイントを入れていたとはいえ、よく俺は試験の時に当てられたなと思う。
「だが、エルフの娘っ子も坊主と同じように才能を感じたぞ。このまま順調にレベルを上げていけば、儂を超えるのもそう遠くなさそうだわい。良い仲間と巡り会えたな、坊主」
「はい、頼れる仲間です」
良い評価を貰えたからか、少しソフィアの表情が和らいだ。この後はダンジョンで機嫌を直してもらいますか。出かける前に、カウンターの脇に置かれていた本が、気になっていたので手に取ってみる。遠目からでは何て書いてあるか分からなかったが、手に取って意識した今は、頭の中に自然と意味が浮かんできた。
その本のタイトルは冒険者の心得(初級編)というらしい。価格は1冊大銅貨4枚。他に冒険者の等級に合わせて、下級と中級とがあり、3冊セットならば銀貨1枚だそうだ。初級の内容は駆け出し冒険者にありきたりの、食べられる植物等のサバイバルページと、貴重な鉱石類とかの金銭関係のページ、格闘術や初級魔法の練習法等の実技関係のページがあった。
これは買っておいた方が良いな。前回来た時は、どの道お金がなかったが、試験の事で頭が一杯で気付かなかった。中級から上の上級や特級はないのか聞いてみたが、上級や特級の冒険者そのものが少なく、クエストにしてもイレギュラーな事も多い為に作ってないんだとかで、ほぼ基本的な事はこの3冊あれば大丈夫らしい。
プリメラさんに冒険者の心得を3冊セットで3人分売ってもらった。俺とソフィアと、いらないかもしれないけれどシェリーの分だ。1セットをソフィアに渡して残りを《道具》に仕舞う。
「それじゃダンジョンに行こうか」
ダンジョンに反応したのか、拗ねていたはずなのに、もう機嫌が直ったらしい。プリメラさんとブラームスさんに挨拶して冒険者ギルドを出る。
ブラームスさんの試験を受けてて、プリメラさんの話を聞けていなかったソフィアに、南にもダンジョンがあって、そちらの方が昔からある大きいダンジョンである事を伝えた。ソフィアは行きたそうな顔をしたが、そちらだと人目もあるために、全力で戦えないという説明をして、今のダンジョンに通い続ける形で納得してもらった。
街の東門を出て、暫く街道沿いに歩き、トリスティアの森に入る。街の周辺はモンスターが少なく、いたとしてもグリーンスライムしかいない。ダンジョンの入口に着いたところで、一旦休憩を取ることにした。ブラームスさんの試験で、ソフィアの疲労が溜まっていそうなのと、手に入れたばかりの冒険者の心得を見るためだ。
冒険者の心得を開いて、読み進めていく。食べ物は《鑑定》で食べられるか分かるし、鉱石は必要になった時に見よう。一番見たかったのはこれだ、初級魔法の練習法。
まず、魔法の基礎属性は火・水・土・風の4種類だ。火は土相手に強く、土は風に強い。風が水に強く、最後に水は火に強い。
そして、基本属性から外れた属性もあり、光・闇・回復・怨念の4種類だ。光は闇相手に強く、また闇も光に強い。相互に効果が高まる関係と言えるだろう。それとは別に相性等ない、回復と怨念だ。回復は自分や対象の治療をするが、怨念はその逆だ。対象に傷は負わせないが、精神に直接ダメージが入り、体力等を消耗させる。
本に記載されていたのは、基本の4種類だけだったが、スキルを取得する為の練習法として、各属性の初級魔法の呪文があった。
呪文ってあったんだね。今初めて知ったよ。呪文を唱え終えるとそれに応じた魔法が発動する。それを繰り返し行って経験を積んで行き、最終的に《スキル》に魔法のスキルが表示されるのだそうだ。普通の人はそのスキルを取得するまでが、かなりの時間を必要とするようだ。
スキルを獲得すると、魔法を使用するのに詠唱がいらなくなり、魔法名を発声するだけで発動するようになるとの事だ。
冒険者の心得(初級編)に書かれていた、魔法に関する事はこれくらいだった。この世界の知識のない俺にはとてもありがたかった。このまま下級編も見たい所だが、そろそろソフィアが、もう休憩は十分取ったという顔をしているので、また今度読む事にして、今はダンジョンの6層へ向かおう。




