教えてプリメラさん
翌朝起きた時には、既にシェリーが起きていて、お茶を入れてくれた。昨日も今日も早く起きていて、睡眠時間は大丈夫なのだろうかと心配になる。そして、ソフィアはまだ寝ていた。そのうち起きてくるだろう。シェリーは朝御飯の準備に取り掛かっていて、お茶を飲みながら寛いでいると、朝食の香りに釣られたのかソフィアが起きてきた。
「おはよう、ソフィア」
「おはようございます、ソフィアさん」
「おはようございます」
ソフィアも席に着き、シェリーがソフィアの分のお茶を入れ、ついでに俺のお茶も注ぎ足してくれた。しばらくすると朝食が出来上がり、シェリーが運んでくる。それを皆で一緒に食べ、今日の予定を話し合う。
ソフィアとダンジョンに行く約束をしているが、その前に冒険者ギルドにいってソフィアの分のギルドカードを作ろうかな。
昨日の街への入場は運良く支払わなくてよかったが、作っておいたほうが良い物だし、ソフィアのレベルも上がってるから、試験も間違いなく合格だろう。
「ソフィア、今日はダンジョンに行く前に冒険者ギルドに寄っても良いかな?」
「何しに行くの?」
「ソフィアのギルドカードを作ろうと思うんだ。作っておいた方が何かと便利だからね」
「うん、わかった」
朝ご飯を食べ終えて、出掛ける準備をする。すると、シェリーが古い服は洗濯するからと新しい服を持ってきた。どうやら昨日の留守中に用意したらしい。大抵は《水魔術》の《清浄》で綺麗にできるが、やはり着替えた方が気持ちも良い。そしてお昼用にパンも用意してくれた。シェリーは俺には勿体無いくらい出来るメイドさんである。
シェリーに新しい調べごとをお願いして、ソフィアと共に冒険者ギルドに向かう。冒険者ギルドに着くと中は人で賑わっていた。こんなに冒険者って居たんだと感心し、ふと気づく。これだけ人が居るなら、普通ダンジョンで出会ったりしないだろうか。それとも入口から転送されて中に入るから、パーティー毎に別々の空間になっているとか?うん、プリメラさんに聞こう。
受付にいるプリメラさんを探し出して、ソフィアの冒険者の加入手続きをしようとしたら、重大な問題があった。それは奴隷だとギルドカードが作れないという事だった。街に入場するときと同じく、奴隷に人権みたいなものはなく、物扱いの為に作る必要がない、イコール作れないという訳だった。
それならば、ソフィアが奴隷でなくなれば作れる訳で、奴隷契約を破棄すれば良い。特に俺は奴隷が欲しかった訳でもないし、成り行きでタランドーさんからソフィアと奴隷契約を結ばされただけだ。
ただ、人族の領地でエルフがどういった扱いをされているかだが、プリメラさんに聞いた所、エルフは基本的に妖精族の領地から出てこなくて、あまり人族とも交流がないらしく、閉鎖的な生活をしている為、エルフを見た事のある者が異常に少ないんだとか。プリメラさんもソフィアが初めて見たエルフとの事。正確にはハーフエルフなんだけど、エルフは人族とほとんど変わらないが、耳が尖っているという特徴だけが周知されてるくらいで、見た事ない人には区別がつかないのだろう。俺も最初はどっちか分からなかったし、そんなものだろう。
エルフとは別にドワーフもちゃんといるらしい。ドワーフはやはり道具や装備類の作成が得意らしく、魔族との戦いや、ダンジョンの攻略の為に、人族とドワーフ族の交流は昔からあるらしい。ドワーフの見た目は人族とほとんど変わらないが、エルフと同じように耳が尖っていて、頭には小さな角があるらしい。そして成人しても子供くらいの身長しかなく、その見た目からは想像もつかない怪力の持ち主なのだとか。人族の北の領地を妖精族の領地と称していて、その領地の西側にエルフ、東側にドワーフが生活をしているみたいだ。
「ソフィア、奴隷の契約破棄するけど別に良いよね?」
「奴隷じゃなくて良いの?」
「奴隷が欲しかった訳じゃないから、ソフィアが良いなら破棄するよ。ただ、できればこれからも一緒にダンジョンには行きたいかな」
「うん、わかった。私もショウジと一緒にダンジョンへ行って強くなりたい」
お互いの確認も済んだので、奴隷の契約を破棄する。《鑑定》でソフィアの《ステータス》も見てみるが、奴隷の表示はなくなっていた。これでソフィアのギルドカードが作れる。プリメラさんにソフィアが奴隷でなくなった事を説明して、冒険者ギルド加入の申込用紙を受け取る。そして、またもや問題が発生した。ソフィアは字が書けなかったのだ。言葉は会話するために必要だが、文字を学ぶという環境がなかったのだろう。代筆が大丈夫か確認をして大丈夫だったので、代わりに用紙に名前等を書いてあげた。これであとは試験だけで、そっちは実技だから大丈夫だろう。プリメラさんに聞きたい事があったので残ってもらい、代わりに他の受付嬢がソフィアを試験場へ誘導する事になった。
「それじゃソフィア、後は戦闘の試験だけだからがんばって!」
「うん、行ってくる」
ソフィアを見送ってから、プリメラさんに先程の疑問を説明する。それを聞いたプリメラさんはダンジョンでパーティーごとに空間が分かれるなんて聞いたことがないと言って、暫く考え事をしているようだった。そして何か思い至ったのか、ちょっと待っていて下さいねと言って奥へ行ってしまった。
プリメラさんが戻ってくると、手には筒状に丸められた紙を持っていて、それをカウンターの上に広げた。広げられた紙に描かれていたのはこの世界の地図だった。中央に人族の領地があり西側に魔族の領地があるのは知っていたが、北には妖精族の領地があり、南東には獣人族の領地が描かれているのとは別に、現在地のラグゼニア王国の周辺の拡大図もあった。
獣人もやっぱり居るんだなぁと思っていると、プリメラさんが拡大図のティーリアの街の少し南側を指差した。
「ここら辺に一番大きなダンジョンがあって、冒険者の皆さんはほとんどこちらへ行っているはずです。ショウジさんの行っているダンジョンがここと違えば、新しいダンジョンの可能性が高いですね」
そうだったのか。まだ知られてないダンジョンなら、他に人が居なかったのも頷ける。それなら出来ればあのダンジョンは公けにしたくないなと考えていると、プリメラさんから更に説明があった。
新しく発見されたダンジョンは、それを見つけた冒険者達が公開するのに同意しなければ、冒険者ギルドはその情報を開示しないという事だ。発見者の利益を守る為に作られたルールだそうで、発見者がダンジョンをクリアすれば消えてしまうし、出来なければ情報を公開して、他の冒険者達がクリアを目指せるようにしているそうだ。
それを聞いて一安心だ。俺はプリメラさんに東門から出た所の北にある森、地図に名称が書いてあって、トリスティアの森というらしい。にダンジョンがある事を教えた。場所を知ったプリメラさんは、別に用意してきた資料と照らし合わせて、まだ報告に上がってきていない、新しいダンジョンだと結論付けた。ダンジョンの最下層が何層かは分からないが、人が居なくて丁度良い。比較的新しいダンジョンだと、そこまで深くはないだろうとの事だが、このまま攻略していく事にする。




