手応え
翌日、いつものように日が昇り始めた早朝に屋敷を出た俺達は、全員の装備の強化の為に暫くミスリルを集めるべく、再びダンジョンの31層にやってきていた。
「さあ、今日も頑張って戦いましょう!」
「うん、そうだね。そういえばセインとハワードに渡したい物があるんだ」
俺は昨日作成してもらった腐龍の骨剣を取り出して2人に渡す。
「エッジホーンソードを渡したばかりだけど、こっちの方が強いから使ってね」
「なんですかこれ!?」
「ドラゴンゾンビの骨から作った剣だよ。腐龍の骨剣っていう名前で、エッジホーンソードより断然強いから試してみなよ」
2人は俺から腐龍の骨剣を受け取り、それを軽く素振りしてみて具合を確かめていた。
「随分軽いですね。でもこれでエッジホーンソードより攻撃力が高いっていうのが驚きですね。ハワードもそう思わないか?」
「うむ」
「とりあえず早く試してみたいですね。兄貴近くにメタルリザードはいますか?」
「ちょっと遠いけど、いるよ。それじゃそっちに行こうか」
《探知》の反応の方向を示し、皆でそちらへ向かう。隊列は前回とほぼ同じだが、俺が斥候から中衛の位置に付き、進みながら俺とシェリーでひたすら《採掘》していった。
暫く《採掘》しながら進んだ所で、俺達はメタルリザードが4体居る場所まで辿り着いた。
「セインとハワードは新しい武器を試すとして、俺もツインエッジ改を試しても良いかな?」
「良いんじゃない?最後の1体は私が貰うけど」
俺の提案に皆が首肯し、代わりに残りの一体は自分が倒すとソフィアが進言する。そろそろソフィアのバトルジャンキーっぷりがセイン達にも浸透してきたみたいで、誰もがソフィアに残りの1体を譲った。
「それじゃ行くよ」
俺の合図に4人が突撃する。
俺は新しくなったツインエッジ改の攻撃力を考慮して、まずメタルリザードの装甲を斬れるか試してみた。狙いは胴体ではなく腕だ。
予想通りの威力が出るのであれば胴体を斬ってしまうと速攻で倒してしまう。そうなると灰になって消えてしまうので色々と試せなくなってしまう。腕を狙ったのはそれを危惧しての事だった。
振り下ろしたツインエッジ改がメタルリザードの防御をかいくぐってその腕に吸い込まれていく。衝突の瞬間に弾かれていた時の事が一瞬脳裏を過ぎって構えるが、メタルリザードの腕に到達したツインエッジ改は一切の抵抗もなく、まるで豆腐に包丁を入れるような容易さでもってメタルリザードの腕を斬り飛ばした。
想像以上の手応えに驚愕してしまう。
「これ、やっぱり強化されすぎなんじゃ……」
ツインエッジからツインエッジ改になってからのあまりにも異常な斬れ味の差に、つい口から言葉がこぼれて立ち止まってしまうが、メタルリザードは片手を斬り落としただけなのでまだまだ健在だ。俺は気を取り直して手負いのメタルリザードと向かい合う。だが振り返ると、目の前には右手をなくして左手に所持する盾だけになったメタルリザードが、猛り狂ったように間合いを詰めてきていて《シールドチャージ》を放ってきた。
俺はとっさにバックステップを取りつつ盾を防ごうとして、ツインエッジ改をメタルリザードの盾に向けて斬り上げた。すると多少の抵抗はあったものの、ツインエッジ改がメタルリザードの盾ごとその腕も切断した。
「え、えええ!?」
まさかの出来事に驚きを隠せず、両腕をなくして地面をのたうち回るメタルリザードを眺めているだけの時間が続いた。
もうツインエッジ改の斬れ味に関してはこういうものなのだと開き直る事にした。いちいち驚いてもいられない。そのせいで相手の攻撃を食らうなんて馬鹿らしいし、そんな理由で痛い思いをするのも嫌だしね。
最後の試みとして《能力付与》でツインエッジ改に付与されている魔法を上書きし、《水魔術》と《風魔術》から《炎魔術》と《鋼魔術》に変更した。ツインエッジ改がその姿を変え、右手のツインエッジ改は炎を纏い、左手の方は鋼によって形状を変化させた状態になった。
両腕を切断されたメタルリザードが起き上がった所に、これでもかと《ライトニングテンペスト》の連撃を叩き込むが、まるで素振りしているかのような抵抗のなさに、驚きを通り越して呆れつつ、メタルリザードとの戦闘を終わらせた。
俺が戦闘を終わらせた時には既に他の3人の戦闘も終わっていて、俺は離れて戦闘を見ていた皆の所へ合流する。
「兄貴の武器も凄いですけど、この腐龍の骨剣も凄かったですよ!カトリの《フレイムブレス》で柔らかくしなくてもメタルリザードを斬れました!」
「うす!」
セインもハワードも腐龍の骨剣の威力に興奮していた。
だがこれでセイン達も苦戦しないでメタルリザードと戦えるのではないだろうか。そう考えていたら俺の中でミスリルを集める為に別行動を取るという選択肢が浮かび上がってきたのだった。




