ネタバレ
「えっ、兄貴が勇者!?」
「でも勇者は最近召喚されたって聞きましたし、そうするとショウジさん達と出会った時期から考えてもおかしくないですか?」
「でもカトリ、ショウジさんの言う通り《ステータス》を見ると勇者の仲間って称号が増えてるよ?」
俺のいきなりのカミングアウトにセイン達は驚愕し、同時に混乱していた。
「最近召喚されたのは別の勇者で、俺はそれより前に何故かは分からないけど召喚されてたんだよね」
「という事は勇者って何人も居るんでしょうか」
疑問を口にするカトリーナ。確かに今現時点で2人居るという事は3人、4人と複数居てもおかしくないかもしれない。ただ、俺の存在がイレギュラーっぽい感じがするんだよね。そして俺の考えを肯定するかのようにシェリーがその答えを教えてくれる。
「いえ、基本勇者は1名のみですね。勇者の召喚から1年の経過かつ勇者が亡くなっていないと再召喚出来ません。これは前調べた時に確認しています。つまりショウジ様はこの国の召喚とは全く関係ない所で召喚された可能性があります。ただそれがどのような目的でされたのかまでは分かりませんが……」
どこかの誰かが別口で勇者の召喚をやった結果、俺が呼ばれたらしい。シェリーの言う通りそれが誰で目的が何かまではさっぱりだ。誰かが俺を召喚したのであればその目的があるはずだし、俺に接触してきてもおかしくないとは思うのだが今の所そういった気配もない。
「俺も気が付いたらティーリアの近くにあるトリスティアの森に居たっていうだけだしね。その場所には魔方陣なんてなかったし、他に人も居なかったよ」
俺は森で気付いた時に状況確認の為に周囲を調べたが、魔方陣なんてなかったし人も居なかった。何故俺が召喚されたのか、その目的等も全く分からない。残念ながら手掛かりは皆無だった。
「ショウジがなんで召喚されたのかは分からないけど、ショウジが居なかったら私は今こうしていられなかった。その召喚してくれた人には感謝しかない」
「そうですね、私もあのまま盗賊の奴隷として扱き使われていたでしょう。そうなるとあーちゃんと再開も出来なかったと思います」
「あたしも村を助けてもらったです。ショージが居なかったらあのまま村はなくなっていたと思うです」
次々とソフィア達が感謝の言葉を述べてくる。改めて言われるとなんだか照れくさい。
「まあ、なんで俺もこの世界に召喚されたのかは分からないけど、皆と出会えて良かったと思うよ。それより31層に行こう」
分からない事を考え続けても埒があかない。照れ隠しの話題転換と取られてしまうかもしれないが、勇者召喚の謎は置いておいて先へ進む事にした。
31層に移動してきたが、ここから先は冒険者の心得にも載っていない手探りの攻略となる。気を引き締めていこう。
手探りとはいえある程度の事は事前にプリメラさんから聞いてはいる。31層は洞窟のフィールドで出現するモンスターはメタルリザードだ。そしてボスは不明らしい。珍しい事に今までボスに出会ったという報告がないらしいのだ。つまり出会う事が稀なのか、もしくは出会っても殺されてしまっているかだ。前者ならまだ良いが、後者なら最悪だ。ドラゴンゾンビを倒して進んできた人達が殺されるという事は、それだけ31層のボスが強い事になる。
その事に気付いてしまい、セイン達をいきなり31層に連れてきたのは間違いだったと気付く。せめて28層の亀とかで段階踏んでから来れば良かったと、ちょっと自分の不用心さを呪いたくなった。だが、守護者よりその次の層のただのボスが強いなんて事があるのだろうか。
とりあえず来てしまったものは仕方がない。警戒を最大限にして進んでいくしかない。31層からは罠もあると言う事なので、進軍速度もいつもに増してゆっくりとしたものになった。
俺が斥候として前を進み、その後をハワードとセインの前衛、中衛のアペル、後衛のシェリー達、殿にソフィアという隊列を組んで付いてくる。
「居た、メタルリザードだ」
《探知》の反応頼りでメタルリザードの数が少ない所を選んで進んできた。その数は3体。今の人数だったら問題ないと思うが、31層のモンスター達相手にセイン達がどの位戦えるかを始めに見ておきたかった。それによってはメタルリザードの数を選んで進まないといけないかもしれなかったからだ。
メタルリザードはトカゲをそのまま大きくしたような感じで二足歩行をしていた。良く居るリザードマンみたいな姿形で、その皮膚が金属っぽい光沢を放っている。その手には曲剣と盾を所持し、スキルも《剣術》レベル10、《剣聖術》レベル2を所持していた。
「それじゃ、ソフィアとアペルに1体ずつ抑えてもらって、残った1体をセイン達で倒してみようか」
「了解です、兄貴!」
セインが元気よく返事する。
という事で飛び級みたいな形で31層にやってきたセイン達がメタルリザード相手にどの位戦えるか見守る事にしたのだった。




