ウチくる!?
「あはっ、やっぱりソフィアさんだー!」
そう言いながらソフィアに抱き付くクレア。まったくもってクレアは前と変わらず、ボディタッチの激しい子みたいだ。
「クレアちゃん、いきなり抱き付くのは迷惑でしょ」
「兄貴!お久しぶりです!」
そしてその後ろからクレアに注意を促すカトリーナと俺を兄貴と呼ぶセイン、その脇には無口なハワードと挙動不審なラウリーの新世代の風のメンバーが佇んでいた。
「うす」
「お、おおおお久しぶりです」
ハワードとラウリーが初めて俺の前で喋った事に驚いた。ハワードは簡素な挨拶で、鎧のせいでくぐもった声だったが低めの渋い声だった。挙動不審なラウリーは緊張しているのか声が裏返っていた。ハワードは口数が少ないから仕方ないとしても、ラウリーは一緒にご飯を食べた仲なのだからそこまで緊張しなくても良いと思うんだけどな。
「クレアとカトリーナ、それに他の皆も久しぶり」
クレアに抱き付かれながら懐かしい顔ぶれを確認したソフィアは、新世代の風のメンバーに挨拶を返した。
「冒険者ギルドなら会えるかなーと思ってましたが、まさかこんなに早く会えるなんてっ!」
「クレア達はどうしてこの街に?」
「向こうのダンジョンで20層まで終わったので、私達も本場のティーリアに行こうという話になったのですが、そこに丁度勇者様が召喚されたっていう噂を聞いたんです。セインがそれで勇者様を見たいと言いだして慌ててこちらへ来て、今到着したばかりなんですよ」
ソフィアの質問にカトリーナが答える。既に他国にまで勇者の噂は広がっているらしかった。
「勇者って憧れますよね?聞いた話だともの凄い速度で強くなっていくみたいですよ!」
勇者の話が出てきた事により、興奮したセインが俺に同意を得ようと話し掛けてきた。
「そ、そうだね。勇者は男の憧れでもあるよね」
「この街に来て知ったんですけど、数日後にお披露目と祭があるらしいじゃないですか!ああ、早く勇者を見てみたいっ!」
「セインの言う通り、すぐに街を出て良かったね。じゃないと祭に間に合わなかったかもしれないし、たまにはセインも役に立つじゃない」
「たまにはってなんだよ!俺はいつも役に立ってるだろ?」
「そう思うんならそうなんじゃない?」
セインをからかうようにしてクレアとセインがじゃれついている。そんな2人を見てソフィアが言葉を掛ける。
「仲が良いんだね」
「ま、まあこいつとは一応幼馴染みだからな」
「そうです、単なる幼馴染みですよソフィアさん」
端からどう見てもお似合いのカップルにしか見えない。
「クレアちゃんとセイン君は昔からこんな感じなんですよ。どう見てもお似合いですよね?」
「「誰がこいつなんかと!」」
カトリーナの言葉に反応して、全く同じタイミングで同じ言葉を発する2人。まさしくカトリーナの言う通り息ぴったりでお似合いだった。
「あーん、ソフィアさーん。カトリが意地悪するんですー」
「よしよし」
泣きつくクレアを慰めるソフィア。しかし残念ながら見た目的には女子高生くらいのクレアが自分より幼いソフィアに慰めてもらっているという、明らかに立場が逆転しているような光景だった。
とりあえず感動の再会みたいなのが起きていたのだが、俺としては早く家に帰ってゆっくりしたいという気持ちもある。
「皆はこれからどうするの?」
積もる話もあるかもしれないし、前みたいに皆で食事をするのも良い。そう思ってこれからの予定を聞いてみた。
「これから活動の拠点になる宿を探しに行こうと思っていた所です。他の人達もこの街に集まってきているみたいだから早くしないと良い宿がなくなっちゃうかもしれないし」
宿はまだ確保していなかったのか。そう思っているのなら冒険者ギルドに来る前に確保しておくべきだろうに、まだまだ思慮深さが足りないな。だが、それが今回彼らにとっては吉となる。
「それならウチくる?屋敷の部屋は余ってるから自由に使っても良いよ」
「え、兄貴達宿じゃなくて家を持ってるんですか!?」
「うん。色々あって宿の生活からそっちで暮らす事になったんだ。ただ、屋敷の主というか管理者というか、そんな感じの人に許可をもらわないとダメかもしれないけど……」
大体冒険者となると各国を転々とする事もあり、基本は宿で生活する人が多いらしい。そんな中で自分の家を持つとなると冒険者を引退した既婚者くらいだろうとの事だ。
俺達はあくまで住まわせてもらっているようなものなので、クレア達を住まわせるにしてもヨシノに確認しないとダメだろう。
「とりあえずは屋敷に向かおう。それと晩ご飯も用意しているはずだから一緒に食べようか」
「了解です、兄貴」
さて、クレア達を誘ったまでは良いものの、ヨシノに断れる事はないとは思うが、もし嫌だと言った場合どうやって説得しようかと俺は頭を悩ませるのだった。




