ゾンビアタック
ソフィアの高火力魔法を頼りにドラゴンゾンビを倒す事になり、早速後方に下がったソフィアが《ライトニングボルト》を放ち、ドラゴンゾンビに回復された分のダメージを再び与える。
俺とアペルはドラゴンゾンビがソフィアの方へ向かわないように押さえ込まないといけないのだが、俺の中で先程の息吹の威力が思い出される。だが、ソフィアはアペルが俺を退避させている間に1人でそれをしていたのだ。ソフィアを守る為にも今は弱気になっている場合ではない。
《ライトニングボルト》を受けたドラゴンゾンビの意識がソフィアに向かう。マズい、ドラゴンゾンビの意識をこちらに向けさせないと。
「ライトニングテンペスト!!」
「デスハート!!」
俺はドラゴンゾンビの意識をこちらに向ける為、俺の今使える最大の技《ライトニングテンペスト》を叩き込む。それと同時にアペルも《デスハート》を叩き込んでいた。
ドラゴンゾンビも遠方に居るソフィアより、先に周囲を動き回っている俺達を倒す事にしたのか、まず俺に狙いを絞ってきた。先程の息吹で俺を倒した事から、倒しやすいのは俺だと思ったのだろう。
俺だって2度もやられはしないからな。完全に捌ききってやる。
ドラゴンゾンビの息吹を警戒しつつ、繰り出される攻撃を対処していく。ドラゴンゾンビの背後からはアペルが攻撃を入れているみたいだが、ドラゴンゾンビはそちらを全くと言って良い程に無視して俺を執拗に狙ってきた。
悔しいがドラゴンゾンビには俺が一番弱いと思われているみたいだ。まあ確かにソフィアには高火力魔法という必殺技みたいなのがあるし、アペルは獣人だからレベルの差が少なくなってきた今では身体能力は俺より上だろう。俺でも狙うなら一番弱い奴から倒して数を減らす。それが戦いの定石だろう。だが、俺にだって意地がある。いつまでも皆に助けられてばかりではいられない。
俺がドラゴンゾンビの猛攻を捌ききっている所に、再びソフィアの高火力魔法が放たれる。今度はドラゴンゾンビの頭上から轟音とともに一条の光が降り注いだ。
一瞬の眩しさに目が眩むが、すぐに視界が元に戻る。目の前には《チェーンサンダー》を喰らったドラゴンゾンビが動きを止め、そしてその身体の一部が焦げて黒く変色していた。だが、まだ完全には倒せていないみたいだった。
このままソフィアとアペルにだけ攻撃を任せて良いのか?確かにドラゴンゾンビの攻撃を受け持つ事が今の俺の役割だが、決して攻撃していけない訳ではない。俺の力量が足りないから防御に専念していただけだ。それなら俺は攻撃もしながらドラゴンゾンビの攻撃を捌ききってみせる!
「うおおおおぉぉッ!」
突然守備を固めていた俺が攻めに転じた事に驚いたのか、ドラゴンゾンビが焦ったように単調な攻撃を繰り出してきた。俺はそれ回避しながらカウンターを入れ、同時に間合いも徐々に詰めていった。
ドラゴンゾンビは今や俺のカウンターによってあちこちに裂傷を作っていた。そして繰り出してきた右前足の爪での攻撃を回避して、軸足の左前足を斬り落とす。
片足をなくしたドラゴンゾンビがバランスを崩し、地面に倒れ込んでいく。すぐに首を斬り落とそうと思って駆け出すが、ドラゴンゾンビは翼を使ってすぐに体制を立て直し、俺の方を向くとその口を開いた。
ヤバい、息吹が来る。そう思った俺は硬直しそうになる身体を無理矢理動かし、更に加速してドラゴンゾンビの懐へ入り込み、その斜線上から逃れた。だが、狙いを俺からソフィアに変え、そちらに息吹を放とうとする。
「させない!」
ドラゴンゾンビの懐から頭部のある真下まで飛び出し、そのまま跳躍して頭部を狙う。
「ライトニングテンペスト!!」
息吹が放たれるより先に、ドラゴンゾンビの首に閃く12連撃を叩き込む。
ドラゴンゾンビの頭が胴体から切り離され、放たれようとしていた息吹は消滅する。同時に頭部を斬り落とされた身体は地面に倒れ伏していった。
「やったです?」
ドラゴンゾンビを背後から攻撃していたアペルが合流してきた。
「ショウジ、さっきはありがとう。助かった。あと少しで息吹が飛んでくる所だった」
「ショウジ様、お疲れ様でした」
ソフィア達も倒したと思ったのか合流してくる。だが、ドラゴンゾンビの頭部と身体はまだ灰になっていない。つまり、まだ生きているという事だ。
ドラゴンゾンビの止めを刺そうと地面に転がっている頭へ近付いた。大体ゾンビ映画とかでは頭が弱点で、銃で撃ち抜くと死んでいる。だが切り離しても死んでいたような気がする。
しかし、今目の前のドラゴンゾンビは頭を切り離してもまだ生きているっぽい。その事から考えると、もしかしたら心臓をどうにかしないと死なないのかもしれない。
取り敢えずは頭部に《治癒》を使ってみようとした所で、ドラゴンゾンビの身体のあった方からダンッ!と力強く地面を蹴るような音がした。
慌ててそちらに視線を向けるが、ドラゴンゾンビの身体がない。どこに行ったのかと周囲を見渡すが、どこにもいない。地を蹴る音から推測して頭上を見上げてみると真上から降ってくるドラゴンゾンビの身体があった。
「上だ!」
俺の声に皆が頭上を見上げる。だが、このままでは押し潰されてペチャンコだ。あの大きさと重量から考えると《結界》で防ぐ事も難しいだろう。
でもやっぱり頭部が残っているのが怪しい。俺は淡い期待とともに今度こそドラゴンゾンビの頭部に《治癒》を使った。
ドラゴンゾンビの頭部が灰になる。そして空中にあった身体の方はと言うと、頭部が消えてなくなった事で、まるで連動するかのように俺達の目の前で灰になり、消えていったのだった。




