ガーゴイル
夜の草原は前回の夜の森に比べればまだマシで、《暗視》がなくても辛うじて見えるくらいには明るかった。そのおかげかソフィア達は《光明》を使わずとも不自由ないくらいに行動出来ていた。そしてその暗闇の中でオーガ達と戦いを続けていた為か、俺以外の3人も《暗視》を取得できるようになっていた。ソフィアとシェリーは早速《暗視》を取得したようで、《暗視》の効果による視界に驚いていた。だがアペルだけはまだ取得せずに、《死鎌術》を取ってから《暗視》の取得をするとの事だった。
「これ暗くても良く見える。今までと全然違う」
「そうですね。これで暗闇の中で《光明》を使った時に敵に位置を教えなくて済みますね。ただソフィアさんやあーちゃんは逆にモンスターが寄ってきたほうが喜びそうですが」
「確かにモンスターが寄ってくるならそれも良いです」
「うん、それは嬉しい」
「普段はそれでも良いけど、戦闘を回避したい時もあるだろうから《光明》を使わなくて済むように《暗視》を取ってね」
バトルジャンキーさんはこれだから困る。アペルもソフィアに追随するようにバトルジャンキーになりつつある。いや、もう既になっているか。夜のフィールドも出てくる今は《暗視》が必須と言っても良いだろう。
「でもそんなに見えるようになるです?」
「明るい時程ではないけどよく見える。不思議」
《暗視》の取得を後回しにしたアペルの質問にソフィアが答えた。アペルも好奇心をくすぐられ、その視界を見てみたいらしいが、《死鎌術》の為に明らかに我慢をしているのが見て取れた。
「両方取れるように、さくっとレベル上げちゃおう。それでソフィア達はオーガと亀だったらどっちが良さそう?」
ある程度オーガ達と戦ったし、俺はソフィア達に28層の亀とどっちが良いか確認する。
「オーガも面白いけど亀のほうが多彩な攻撃で面白い」
「ちょっと暗いので、明るい所に居る亀の方が楽かもです」
「私はどちらでも構いません」
となると多数決で亀か。俺達は28層へ移動する為、ホワイトゲートのある方向へ向かった。そしてホワイトゲートの所にはボスが居るらしく、それはガーゴイルらしい。このダンジョン初の悪魔系モンスターらしいのだが、そのガーゴイルはまるで神社の狛犬のように道の左右に立てられた台座の上に佇んでいて、ホワイトゲートを守っているようだった。
「ショウジ、あれ何?」
「あれがボスなんだよ。ホワイトゲートへ行くには必ずあそこを通らないといけないらしいんだ」
「暗くて良く見えないです。どんなボスです?」
「ガーゴイルっていう石像の悪魔だよ。羽根もあるから飛べるっぽい」
「ボスが2体というのは初めてですね。どうなさいますか?」
うーん、どうするか。近付くと動き出すらしいのだが、ホワイトゲートへ行くにはガーゴイル達の間の道を通らなければ辿り着けないようになっているから、必ず戦わなくてはならない。ボスが再出現するまでは台座の上には何もないらしいのだが、台座の上にはちゃんとガーゴイルが居座っている。
ガーゴイルを《鑑定》してみるが、能力値はそこまで高いという訳ではなかった。2体同時だから多少控えめなのだろう。しかしスキルは《闇魔術》レベル10、《深淵魔術》レベル1、《怨念魔術》レベル5を所持していた。
「俺とソフィアで1体ずつ抑える。シェリーが援護でアペルは遊撃でソフィアの方優先で」
ガーゴイル2体のうち先にソフィアの方を倒してもらい、その後俺の方に合流してもらう方針にした。
「ショウジは1人で大丈夫?」
「一応この中で攻防ともに優れているのは俺くらいだからね。早めに倒して合流よろしく」
アペルが《暗視》を所持していれば、剣と盾に持ち替えて戦ってもらうのもありだったかもしれないが、それでも防御用の《結界》と自分で《回復魔術》が使える俺の方が適している。つい色々なスキルを取ってしまい、ソフィア達みたいな特化タイプではないが、バランスが良いから今回みたいな事も出来るのだ。適材適所とも言う。さて、俺はガーゴイルにやられないように時間を稼いでソフィア達の合流を待つだけだ。
「それじゃ、行きますか」
「うん、早めに片付ける」
「すぐに合流しますので、あまり無茶はなされないようお願いします」
「3人掛かりだったらすぐ終わるです」
皆から心配されつつ、俺達はガーゴイルが動き始めるまで近付いていった。ある程度まで近付いた所で、ガーゴイルの目が一瞬輝きを放つとガーゴイル達が動き始めた。2体のガーゴイルはともに翼を広げて羽ばたかせると、あっという間に上空へと飛び立ってしまう。それを視線で追いかけると上空から俺を見下ろしているガーゴイル達の片方と目が合った気がしたのだった。




