面倒な相手
俺達は27層の森のフィールドに来ていた。来て早々アーミーキャットの群れが近くに居て、集団で俺達に襲い掛かってきた。アーミーキャットは俺の知っている猫のサイズではなく、大型犬に匹敵する大きさだった。それらがスコーピオン程の大群という訳ではないけれども、それでも優に数十を超える数の猫達が襲ってきた。
アーミーキャット達に囲まれ、ニャーニャーと聞こえてくる鳴き声とともに飛び掛ってくる猫達。普通の猫だったら飛びついてくる事に大喜びだろうが、残念な事に相手は俺達の命を狙うモンスターだ。俺達はシェリーを中心に円陣を組み、遠方の猫達はシェリーの範囲魔法で蹴散らし、飛び掛かってくる猫達は他の3人で対処していく。襲い掛かってくるアーミーキャット達は次々と灰になっていくが、それを超える新たなアーミーキャットが飛び掛かってきてその勢いが止まらない。その数の勢いにジリジリと後退させられて円陣が小さくなっていく。
「このままじゃマズイ、どうにかしないと!」
「そうですね、私は範囲魔法を使わなければいけないので、ショウジ様は相手の動きを少しでも遅らせる為に《グラビティフィールド》を!」
全体を見ていたシェリーが指示を出す。確かにここで《グラビティフィールド》を使わない手はない。
「グラビディフィールド!!」
シェリーを中心に重力場を展開させる。パーティーメンバーに影響がないのは取得した時に確認済みだ。シェリーに言われるまで忘れていた。何故もっと早く気付かなかったのだろう。
《グラビティフィールド》の効果でアーミーキャットの動きが鈍くなった。おかげで数に押されていた所を立て直すことが出来た。アーミーキャットの数が減っていき、そのまま最後の1体になるまで襲ってくるが、数の少なくなったアーミーキャットに脅威はなく、最後の1体を灰に変えてようやく戦いに決着が付いた。
「ふう、ようやく一段落ついたね」
「強いモンスターと戦いたいのに、アーミーキャットは数が多くて面倒。早くキメラ出てこないかな」
ソフィアは量より質で勝負したいらしい。まあ、その気持ちは分からなくはない。質ならお互いの技を競い合えるが、量はそんなの関係なく押しつぶされるか、勝ったとしても疲労が残るだけだ。そんなものは面白くもない。
27層は数は狩れるが26層のハーピーに比べたら相手するのに疲れそうだ。長時間続けるならハーピーの方が良いな。草原だから視界も確保出来るし、レベル上げの相手にするなら今の所ハーピーに軍配が上がるな。
「あたしもアーミーキャットよりキメラと戦いたいです」
「そうですね。次から雑魚は面倒ですから、近付かれる前に範囲魔法で一掃しましょう。今回は転送されてすぐ近くにアーミーキャットの群れが居たという運が悪かった結果です」
ここにも量より質の輩が居たか。というかパーティーメンバー全員一致で量より質なのね。
「それじゃ《探知》で単独で動いているモンスターが居たら、それがキメラだろうから見つけたら教えるよ」
装備を新調したから今の所は問題ないだろうが、ボスの素材から作る装備はやっぱり強いし、ボスが居たら出来るだけ倒すべきだ。質の高い戦いも出来てソフィア達も喜ぶ、素材を手に入れられて俺も喜ぶ。キメラには悪いが俺達の為に生贄になってもらおう。
その後アーミーキャットの群れは近付かれると面倒なので、《探知》で見つける度にその方向から来るアーミーキャットの群れに全員で範囲魔法を叩き込んだ。その甲斐あって接近されるまでには数体くらいしか残っておらず、倒すのも楽だった。これが普通のパーティーなら範囲魔法を使える人も少なく、さっきの俺達みたいに囲まれる形になって大変なのだろう。
ホワイトゲートを目指しつつ、キメラを捜して森の中を進んでいったが、結局キメラを見つける事は出来なかった。ホワイトゲートの前でキメラと遭遇できなかった事を残念がるソフィア達。
「キメラには会えなかったけど、次の28層はいつぞやのウルフみたいに4色の属性に分かれた亀みたいでフレイムタートル、アイスタートル、サンダータートル、スチールタートルが出現するみたいだよ。モンスター自体の動きは遅いらしいけど、名前の通りそれぞれの属性の魔法が使えて、上位魔法のレベル1を所持しているらしいよ。あとはボスがクラーケンっていう《氷属性》のレベル3を所持しているのと、イカだから触手が複数あってそれぞれがバラバラに動くから強いみたいだよ」
「うん、早く次の階層行こう」
「ですです」
良し、ソフィアもアペルもキメラから次の階層のモンスターに興味が移ってくれたみたいだ。それにしても通常モンスターで上位魔法を所持しているのは初めてだ。オーガに関しては《体術》の上位スキル《格闘術》のレベル1を所持しているというし、アーミーキャットを相手するより良いのは間違いない。キメラと戦えなかったのは残念だが、面倒なアーミーキャットにおさらばして、俺達は28層に向かったのだった。




