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勇者の偵察と監視

 とりあえずは魔契約によって俺達の身の安全は保障された。なので昨日は食事を軽く取ってすぐに寝た。イザリナにも食事を用意して一緒に食べたのだが、食事中は常に重い沈黙が続いていた。それをどうにかしようとヨシノが頑張っていた気がする。気がすると言うのは俺もイザリナの件で頭が混乱していて良く覚えていなかった


 俺が起きて居間に向かうと、そこには既に全員が起床していて集まっていた。驚きなのはソフィアが俺より早く起きていた事だ。いつもはお寝坊さんなのに今日に限ってはどうしたんだろうか。しかし昨日の食事の時といい空気が重い。


「お、おはよう」


「ショウジ遅い」


「いくら魔契約をしたと言っても相手は魔族、何をするか分かりません。ショウジ様は普通にし過ぎです。もう少し警戒心を持ってください」


「そうです!この女は私の村を襲った張本人です!」


 俺が呑気に寝ていた事をヨシノ以外に咎められてしまった。どうやら3人は気になって眠れず夜中ずっと交代で見張っていたらしい。言ってくれれば俺も参加したのに。しかし皆の言うとおり魔契約に安心して眠ってしまっていたのは確かだ。ここは素直に謝ろう。


「ごめん」


 ソフィア達に謝ってから、気を取り直しイザリナから話を聞く事にする。昨日は突然で混乱してた所もあるし、今日は睡眠を取って気分もリセットされたから落ち着いて話が出来そうだ。イザリナの正面にある椅子に腰掛けてイザリナと向かい合う。


「昨日の話の続きをしようか。まずはこの街に滞在する理由から教えてもらおうかな」


「滞在する理由は簡単ですわ。ラゴモスに言われて勇者の監視に来たのですの」


 勇者の監視ってまさか俺の事か?確かイザリナはデススコーピオンの大群で獣人の村を襲わせていた時に俺達が邪魔をしたと言っていたと思う。となるとその時には既に俺達を何かしらの方法で見ていたのだろう。そうするとマズイな。《鑑定》を妨害するために血玉髄の指輪を作ったのはあの後だ。もしスコーピオンとの戦いの中で覗かれていたのなら《鑑定》もされている可能性が高かった。そうなると俺の《ステータス》を覗けた訳で称号に勇者があるのを知られているかもしれない。


 イザリナにバレているという事は魔王までそのことが伝わっている可能性もある。魔王との戦闘とかやばそうだから避けたかったのに。やはりこれは勇者と魔王は戦う運命とでも言うのだろうか。とりあえず惚けるだけ惚けてみよう。


「えっと、その勇者っていうのはあれだよね、魔王といつも戦ってるって言う人だよね?」


「ええ、そうですわ。その勇者がそろそろ召喚されるのではないかと心配した八柱将のラゴモスが、その偵察と監視の任務をわたくしに与えたのですわ。カグラザカ様に会うのにもちょうど良かったので面倒でしたが引き受けましたの。ですから暫くは滞在してその情報を集めるつもりですわ」


 そういえば勇者の召喚には1年のクールタイムが必要なのだと、前にシェリーに調べてもらった時にそんな事を聞いた気がする。俺がこの世界に来てからそこそこ経つし時期としては間違ってはいないかもしれない。嘘も付けないようにしているし、召喚される勇者の事を調べようとしているのは事実なのだろう。となると俺が勇者というのはバレてないっぽいかな。助かった、一瞬魔王と戦う未来が見えて冷や汗かいたわ。


「しかし良く単独で人族の街に滞在しようと思ったね」


「わたくしの場合は何かあっても、基本的に《魅了》のおかげでなんとかなりますもの」


 なるほど。便利なスキルを持っているな。情報収集する時はどんな相手でも《魅了》すれば口を割るだろうし、姿を隠すのにも《魅了》を使って協力者を作れば良いだけだ。《魅了》の能力を考えれば滞在する事も容易いだろう。しかしあくまで《魅了》だ。異性には効果は抜群だろうが同性相手には効かないのだろうか。


「その《魅了》は同じ女の人に使っても効果あるの?」


「ええ、効果はありますわ。ただ、やはり殿方に使うよりは効き目は薄いですが、レベルの差にもよりますわね」


 同性で完全に無効化は出来ないと。さらには相手のレベルが自分のレベルより低ければ低いほど《魅了》に掛かってしまう可能性があがるらしい。なんとも厄介なスキルだ。《怨念魔術》並みに厄介過ぎる。だが《怨念魔術》も対抗策があるように《魅了》だってそういう手段があるはずだ。《魅了》を使う本人ならその防ぐ手段も知っているだろう。嘘を付けないのだから本人から聞けば良いな。


「その《魅了》を防ぐ手段はある?」


「さあ?今まで防がれた事がありませんから分かりませんわ」


 本人知らなかったー。仕方ない、《魅了》の対策は今度プリメラさんに聞いてみよう。


「それじゃ、次は何故俺達に執着するのかだね。昨日ははぐらかされたけど、何で?」


「……嘘は付けないから仕方ありません。わたくし、カグラザカ様の事がとても気になるのですわ。獣人族の領地でカグラザカ様の戦っているお姿を拝見してからというもの、そのお姿が頭から離れてくれないのですわ。ああ、凛々しかったですわ」


 イザリナの話を聞いてその場が凍りついた。これってもしかしなくてもイザリナが俺に惚れている?いや、まさかな。ありえない。


「ちょっと!イザリナさんだっけ?魔契約も私の方が先だもん。お兄ちゃんは私のなんだからだーめ!」


「あらあら、別にわたくしは独占するつもりはありませんわ。こんな素敵な殿方ですもの、引く手数多なのは最初から覚悟しておりましたわ。ヨシノさん、魔契約した従者同士仲良く致しましょう」


「え……うん、それならいっか。よろしくね」


 俺がさり気なくヨシノのものにされている。それはまあ置いておいて、いつの間にかヨシノとイザリナが仲良くなってしまっていた。仲間に危害は加えられない事になっているから《魅了》は使ってはいなさそうだけど、俺と話していた感じでは特に危険な人物という感じもしなかった。俺がこの世界の人間と違い、魔族に嫌悪感を持っていないからだろうか。イザリナは多少ネジの外れている部分もあるかもしれないが、魔族とか魔王の幹部とかの色眼鏡なしに見てみると案外普通の女性だった。

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